私が開発した幾つかのゲームでは、多くのオーディオ機能とゲームから出る多くの情報を、サウンドデザインに連携させてクールな音の瞬間を演出することで、このブログのPart 1で述べたように、視覚的情報の飽和状態を緩和する方法を考えました。同時に私たちは、聴覚に障害のないプレイヤーや音をオンにしたプレイヤーの方がきわめて有利になるようなシナリオがないように、制作時に気を使いました。
非常にいい例が私の作品の1つのEVE Onlineで、銃器音や弾丸インパクト音などでできるだけ多くの情報を表現して、理論的には、戦いの「音」を聞いているだけで使用中の銃器や弾丸の種類が分かり、敵の宇宙船を守るシールドの種類も分かるようにしました。基本的には、忠実かつダイレクトインフォーマントなオーディオを私たちは使用しました。それと同時に、様々なフォーラム、表、図、エクセル表、サイト情報といった全ての情報は、敵の船を右クリックすることでアクセスできるようにしています。
つまり、音以外の方法でプレイヤーに情報伝達するのを、あえて変更したり音に置き換えたりするのではなく、ゲーム側で認知済みの内容に、私たちのサウンドデザインを単純につなげようとしただけです。とはいえ、EVE Onlineはオーディオエンジンの負荷が非常に重いゲームで、1,000人のプレイヤー集団同士の対決があるのに、たった1つのガンショットやインパクトにレイヤリングを使ってボイスを10個も消費することは当然、不可能で、特に全員が同時発射することを考えると、なおさらです。(12)
EVE Valkyrieやほかのいくつかのプロトタイプの初期開発で検討された音の多くがオーディオインフォーマント(audio informant)であり、特にEVE ValkyrieはVRゲームなので、EVE Onlineでつくった今までの「ファーストパーソン」のサウンドデザインとは全く異なった、できるだけ「リアルパーソン」に近づけたサウンドスケープを作成する必要がありました。自分の敵がどこにいて、激しいアクションはどこで発生しているのかを知るために、敵から発射されたミサイルの種類や発射位置などを示す音などをすべて考慮しなければなりません。個々の音に関して、ゲームプレイにもたらすメリットや、ゲームプレイを台無しにしていないかなどを、検討しました。
以下は、様々なインフォーマントオーディオを実際のサウンドデザインに取り入れたときの、Wwiseのいくつかのスクリーンショットです。
シンプルなMusic Switch設定で簡単な階層をつくり、再生するループをSwitch値によって切り替える。
上に示したSwitchをコントロールする単純なRTPC。これと似たシステムで、EVE Onlineで、現在の星系にいるアクティブプレイヤー数に基づいて再生する音楽を制御するシステムがある。
音のVolumeとPitchをコントロールする単純なRTPC。単に敵の到来をプレイヤーに警告するための、常時再生の音などに使う。これは、NPCとプレイヤーの間の距離(distance)に対応するRTPCで制御される。
Wwise階層に設定した非常にベーシックなSwitchで、体力ステータスに応じて簡単にbullet impact(弾丸の衝突音)を変える。
上のImpactと関係するRTPC。プレイヤーのHealth(体力)というシンプルな数値で、Switchのどのブランチを再生するかを決定できる。これを使ってオーディオをゲーミファイすれば、再生される特定の音が、プレイヤーの体力値の唯一の判断材料となる。
現実世界の考え方を応用
EVE Valkyrieの1つのプロトタイプでは、画面やVRコックピットの表示情報に合ったUI音をつくるだけでなく、それを、スペースシップのダッシュボードにある警告表示の点滅を見ずに意味が分かるような音にする必要がありました。実際の飛行機での音の使い方を調べていくと興味深いことが分かり、警告を発する音や音声は、個別に再生されることもあれば同時再生のこともあり、同時に2つが再生されても別々の情報として耳に入るように、スペクトルが分けてあります。
音響生態学の分野では、acoustic niche(音響のニッチ)という表現で、現実世界で動物が実際に使う音を説明することがあります。動物は人間と同じように音で警告を発したり、音を聞いて警戒したり、求愛コールを発したりします(そのため、人間の声は2,000-4,000 Hzの範囲で非常に威力があり、不思議と我々の耳も、自然にその範囲を敏感に聞き取ります)。特定の森林に住む一部の動物がコールのタイミングを互いに合わせることがあったり、複数の動物が同時にコールを発している場合は、自分のコールを周波数スペクトルの特定の範囲内にとどめ、動物ごとに範囲を使い分けることで、同時にコールしていても必ず自分達の警告や求愛の鳴き声がほかと混同されないようにしたりするので、acoustic nicheであると指摘されます。もちろん、そこまで単純な仕組みではありませんが、音が現実世界で常にインフォーマントとして活用されていることが分かる好例だと思います。
目の見えない人や聴覚障害のない人も、常に状況認識のために音を利用しています。分かりやすい例が、交差点で信号が赤か青かを知らせるためのクリック音です。最近は、ほとんどの歩行者が前を見ずに手中のスマホに集中しているので、このクリック音が今までになく役に立っているのかもしれません。このブログのPart 1で言及したレジストレーション(registration)モデルに似ていて、信号が青か赤かを表し(ほかにも真・偽や、はい・いいえなどの例も)、その値の正しいレスポンスをすべてのリスナーに提供します。
オーディオWeenies
レベルをデザインするときに、よく「weenies(訳注:犬の注意をひくソーセージの意)」という言葉がでてきます(「ランドマーク」と称する人もいますが、これは同じだけどちょっと違います)。ディズニーランドの中央にあるお城などは、ランドマークのよい例です。このお城はパーク内のどこにいても、ほとんどいつも見えて、それがどこにあるのか分かれば、パーク内を迷わず移動できます。(13) Weeniesとは、プレイヤーの注意を引くためのオブジェクトで、プレイヤーに進行方向を示唆したり、ゲーム中に取った方がよいオブジェクトを目立たせたりします。方法として、例えば登るべき崖の色を変えたり、光を特定方向にあてたりすることが考えられますが、これはカラーガイドやレベルデザインに関連するソリューションで、私の専門分野ではありません。
以前、サウンドデザインをする上でweeniesという用語を使おうと努力する中で、サウンドweenieを作成してプレイヤーがレベル内を動きやすくなる方法を探ったり、潜在意識の中に基準点を植え付けて、プレイヤーが特定の方向に行くようにしたり、プレイヤーに自分の意志で選んだと思わせておきながら、実は私達が最初からガイドしたりする状況をつくり出しました。その過程で、プレイヤーの注意を引いて、行動をとりやすくしてあげたり、プレイヤーの知らないうちにガイドしたり判断を左右したりするための、レベルデザインや手法やツールに関する数々のおもしろい研究をしました。
レベルに、ある基準点で発生する音を追加すれば、方向性や位置を把握するためのサウンドweenieやオーディオインフォ―マントを簡単につくり出せます。ドアが5つあって、開くべきドアの向こうから音が聞こえてくるとしたら、その音こそ、この特定のゲームオブジェクトまたは仕掛けの基準となる点の、ライトモチーフ(leitmotif)だと言えます。どのような音となるかは、意味が重複するいくつかの単語があり、アイコン音、イヤコン(earcon)音、言葉のないコミュニケーション、ライトモチーフなどがあります。
私がインフォーマントオーディオを説明するためにいつも使っている、とても古い例が、足音です。足音をつくり出す技術は、靴と地面をブレンドさせたり、ランダム化したり、ホワイトノイズのプロシージャル生成を使用したり、ほかの方法だったりするかもしれませんが、こういった足音は重要なオーディオインフォーマントにもなり、踏んでいる地面のイヤコンや、特別な素材のライトモチーフになります。
足音は、硬くて頑丈な床板と、硬くても下に空間のある床板では異なり、さらに、空洞が床板のうしろにあるのか下にあるのかなどでも変わります。ゲームの埋蔵された宝を探すプレイヤーに、床板の上を歩くときに合図を送るには、宝が埋まっている場所を指す巨大な矢印を入れておけば簡単に済みますし、UI要素で「足元に宝がありますよ」とポップアップ表示したり、「宝を見つけるにはXを押す」などと指示したりできます。あるいは単に、床板全体を硬い音にして、埋蔵された宝の場所だけ違う音にしてもいいわけです。その特定の場所だけ空洞の音がして、その前にプレイヤーに宝を見つけるには「正しい位置でXを押すこと」と説明しておけば、宝のありかの示唆をサウンドデザインに任せられます。これはインフォーマントオーディオでUI要素を置換えてゲームを簡素化できる最高の例で、宝の場所を絶対に見逃さないようにゲームのレベルを下げることもできます。
インターネットで検索して、壁や床などに額や照明を設置する穴をあけるときに空洞の箇所を探す方法をまとめたDIYのウェブサイトなどを見ると、音をメカニカルインフォーマントとして使う例が無限にあります。
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このブログのPart 1でも触れたとおり、インタラクティブなゲームを開発をするうえで、絶えない会話は不可欠ですが、周知のとおりインタラクティブとは常に変化する機能をもつことで、変化はプレイヤーにとっても重要で、ゲームを続けるためや、プレイヤーが現況でメリットを得るためには、プレイヤーが特定のアクションやリアクションを行う必要があるかもしれません。つまり、リニアメディアにおけるライトモチーフと同様に、インタラクティブメディアやゲームにおけるオーディオweeniesもライトモチーフなのですが、その対象はゲームの仕組みやオブジェクトなどです。また、ほとんどすべての要素が確実にインタラクティブアートのインスタレーションの一部となるようにして(そう、ビデオゲームはアートです)、継続的な会話の中に矛盾がないようにします。プレイヤーを補佐するインフォーマントサウンドスケープをビデオゲームでつくり出すのに、オーディオweeniesはカギであり、インフォーマントオーディオはあなたのエクスペリエンスを増大させるべきで、全体のエクスペリエンスや全体の美学から何かを失わせるべきではありません。
まとめ
音で人間に情報を伝達したり補助したりするのは、日常生活の中でごく当たり前のように行われ、ゲームを開発するときや、レベルや機能をゲームに組み込む際にも、必ずこれを念頭におくべきです。音は、プレイヤーのエクスペリエンスを向上させるだけでなく、ゲーム全体のイメージをつくり出す上で要となります。
サウンドをインフォーマントにする機会を増やしたりUIやグラフィック要素の代わりとして使ったりしても、サウンドが唯一の情報提供やプレイヤーガイダンスの手段になるわけではなく、決してほかの要素を削り取ろうとしているわけでもありません。ただ、サウンドも情報提供に利用できることを忘れずに、グラフィック面の飽和状態を回避するのに役立てればいいのです。サウンドがカクテルパーティー効果という音響心理学の現象で自然にフィルタリングされるのと同じく、グラフィックでもそれが起きると思います。また、個人的な経験として画面上にグラフィック要素が過度に同時使用されると混乱してしまうと思うのですが、特に状況把握のための唯一の方式として採用されていると、なおさらです。
私は、インフォーマントオーディオを取り入れるとプレイヤーとゲームのつながりが強まり没入感が増大して、プレイヤーにとって、エクスペリエンス全体が改善されると思います。最後に、これがよく分かる例を1つ紹介します。コペンハーゲンでサーカスに行きました。スピーカーのセットアップがあまりにもひどくて、舞台のどのパフォーマーが音源なのか、見極めるのが不可能でした。役者のうしろに設置されたスピーカーが唯一の音源で、スピーカー間の距離が離れすぎていたので、ほぼ真ん中の席にいた私にも「右側の音」しか聞こえませんでした。結局、舞台から終始切り離されたような感覚があり、音がステージ上のパフォーマーからくるのか、スピーカーから聞こえる録音済みの音なのか、全く分かりませんでした。ステレオのエクスペリエンスを味わえなかったばかりか、全体的に違和感をおぼえました。
サウンドデザイナーとして、舞台と切り離されたこの感覚の原因はスピーカーの配置問題なのだろうと思いましたが、私の周りでは誰も、それが原因と分からなかったようです(分かっていた人がいたら、ごめんなさい)。それを証明するかのように、休憩時間中に、一緒に来た人も私たちの隣の人も、ショーと一体感を感じられなくてつまらない、と言っていました。でも本当はつまらないショーではなくビジュアルは素晴らしく、芸術面もアクロバティックパフォーマンスも、申し分ないものでした。ショー後にお客さんの1人が隣の人に「いやあ、しっくりこなかった。5点中3点だな。」と言っているのが聞こえました。もしオーディオさえ正しく設定されていたら、きっとパフォーマーと観客のつながりは崩れることなく、みんなが楽しめて、私たちの評価や思い出も、5点中4点あるいは5点満点になったはずだと思います。
インフォーマントオーディオを使うとき、よく問題になることの1つが、ゲームの開発に関わるほかの部門との意思疎通や共通理解の欠如です。サウンドデザイン部門はもちろん美しいサウンドスケープを創作するのに長けていますし、ゲームやレベルのデザイナーたちは素晴らしい仕組みや動き回りやすいレベルを考案するのが得意ですが、それらを組み合わせた方が格段に質の高い成果を得られると信じています。
サウンドが確実に計画通りの動きをすることでゲームとプレイヤーのつながりが高まるのであれば(舞台と観客のつながりと同様に)、評価も3点、4点、または5点満点まで延びるかもしれません。最初からオーディオがプレイヤとゲームの間の連携で一役担うようにして、サウンドデザインがゲームを左右するツールでもアートでもあることに、自信をもってもいいのでは、と思います。Metacriticのスコアも上がるかもしれません。
ゲームオーディオのインフォーマントとゲーミフィケーションについて( 番組 Game Audio Talk 「L.A. Noireについて」)
私のオーフス大学(Aarhus University)修士号の論文は、Informant Diegesis in Video gamesです。
どの媒体でも音は重要で、この論文はプレイヤーの注意を引く方法としてサウンドを利用してゲーム中にガイドすることに関するものです。主に、サウンドをインフォーマントにしてゲームデザインをサポートする方法や、ゲームデザインのパズルの中でそれ自身の役割をこなす方法について、述べました。
12.ボイス制限や、優先順位の判断の際は、やや難しい状況になる!
13.レベルデザイン、weenies、ランドマーク、レベルごとのストーリーなどの概要と使い方については、https://www.patreon.com/GameMakersToolkitや、https://www.youtube.com/LevelDesignLobbyの素晴らしいポッドキャストを参考に。ここで、一番分かりやすい説明に出会うことが多い。
14. 色分けしたタイルの平面図。赤色を硬い板の音、青色を空洞の板の音にすれば、宝の場所が分かるオーディオインフォーマントとして機能する。僕の素晴らしくセンスのよいMS-Paintのスキルに注目!
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