Yonder: The Cloud Catcher Chronicles - オーディオジャーナル - エピソード1 - リスクだらけのスタート

ゲームオーディオ / インタラクティブミュージック / サウンドデザイン

Yonder: The Cloud Catcher Chroniclesは、2016年にSony PSXイベントで発表されました。これは、オーストラリアのスタジオPrideful Slothが開発したオープンワールドゲームです。Yonder: The Cloud Catcher Chroniclesがほかのゲームと一番大きく違う点は、ゲームプレイが暴力的では無いことです。驚きと発見に富んだゲームで、ものづくりやもの集め、農業や探求の要素が織り込まれています。ゲーム開発プロジェクトとして珍しい点は、チームのメンバーたちが、フルプロダクションに入る前からオーディオのディスカッションをしたい、と私に声をかけてきたことです。そのおかげで時間をかけてオーディオ設計をし、作り上げながらゲームに組み込めました。オーディオの人間にとってまさに理想的なワークフローでした。その結果、私も高い目標をかかげてゲームサウンド演出を計画できました。

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音やミュージックを通してゲームの世界観を伝える為に私がたどった道のりを、2回に分けて話したいと思います。

すべての道に、リスクあり

色々な意味で、Yonder: The Cloud Catcher Chroniclesのオーディオ制作経験は、メインキャラクターの旅と似ていました。期待と興奮に心を弾ませてスタートしましたが、すぐにリスクと対面します。私は最初に送られてきたゲームのデモを見てすぐに気に入りましたが、当時は非常に忙しかったので、協力したいと即答できませんでした。そこで決め手となったのは、開発者が求めるミュージックスタイルと、私が探求したいと考えていたスタイルが、見事に一致していると気付いたことです。かわいらしくて素直な、まるでジブリのような音楽の使い方です。

さて、そのような音楽を作成する機会に巡り合えた幸運と同時に、目の前にある責任の重さに気付きました。「ジブリスタイル」と言われたのは、単なるイメージだけとしてではなく、要件でした。音楽的ナレーション表現の最高水準を目標とすることに、私は同意してしまったのです。

このようにして、私の挑戦が始まりました。彼らの呼びかけに首を縦に振った瞬間、大好きな音楽スタイルであり世界中の人に知られて好まれている音楽スタイル表現できると宣言してしまったのです。上手くいかないわけがないだろう、と皮肉にも言えますか?

次に決断したのは、Yonder: The Cloud Catcher Chroniclesの開発に、初めてWwiseオーディオツールセットを使ってみよう、ということでした。前から、1つのプロジェクトを最初から最後までWwiseで作業してみたいと考えていました。多くの業界人から良いうわさを聞いていただけでなく、私が気になるダイナミックでインタラクティブなゲームミュージックは、すべてWwiseで作成されていたので、大変興味を持っていたのです。そこで、PopCapPeggle 2PlayDeadLimboにあるダイナミックな音楽の事例を見たうえで、彼らの成功の秘訣を探ろうと思いました。開発初期段階からオーディオについて検討し始めなければ、これは不可能でした。ゲームのオーディオ全体を自分でデザインしてから、すべてのSFXや音楽アセットを作成しなければならなかったのです。同時に、初めてのツールセットを使いこなせるようになるのは、決して容易ではありません。果たして使い物になるか、自分のアイデアの検証も進めました。

次のハードルは、音楽を作成する正しいワークフローを見つけることでした。実はこのプロジェクトに関わるまで、純粋な作曲を数年間行っていませんでした。クレイジーなインタラクティブミュージックプロジェクトや、サウンドエフェクトのライブラリや教材の作成、そしてVRARの本格的な研究などを行っているうちに、これだけの規模のゲームプロジェクトで従来型のスコアをフルで制作する機会は10年近くありませんでした。

その間使っていたのがCubaseの古いバージョンと、とても古いKontaktのサンプルライブラリだったので、すべてアップデートが必要でした。私は、制作アプローチ全体を色々な意味で、Yonder: The Cloud Catcher Chroniclesというプロジェクトのおかげで無理やり改新できました。定員1名のオーディオ部に慣れている私ですが、オーディオデザインはプロジェクトによって作業内容が大幅に異なるため、複数プロジェクトに10年も携わると、その間に多くのスキルセットを学びました。

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自分が直面するリスクに、Nuendo 7Spitfire Symphonicのサンプルコレクション全てを使いこなす必要がありました。ここで、使ったプログラム名をあえて記載しているのは、自ら選んだリスクの大きさを伝えたかったからです。私が選んだプログラムやツールはどれもその分野のトップクラスのものなので、言い換えれば、奥が深く、往々にして非常に難しいものでした。これだけ多くの新ツールを一度に使い始めるのは膨大なリスクでしたが、自分で管理しきれるリスクだと考えました。今回のプロジェクトで成功できたのは、毎日のように的確にサポートしてくれたPrideful Slothのみんなのおかげです。さて、ここからが、ここで伝えたかった本当に大事なポイントの1つ目です。

リスクが必ずしも「悪」ではない

リスクがあるからこそ、私たちはクリエイターやアーティストとして新しい試みに成功できるのです。何ごともリスクを伴います。肝心なのはリスク回避ではなく、リスク対応だと思います。うまく計画されたプロジェクトに、経験豊かで協力的なチームと共に挑めば、リスクを逆手にとって成功につなげられます。リスクを完全に回避してしまうと、中途半端な作品になってしまう恐れがあります。今回は、自分の慣れた領域を超えてでも貢献すべきプロジェクトだと考えたので、リスクにあえて挑戦する事に決めていました。何もわからないときの恐怖も、時にはモチベーションにつながります。でも、私がこのようなリスクを乗り越えられたのは、サポートしてくれるチームみんなを信頼していたからです。

決して問題がなかったわけではありません。私が最初に作曲した音楽には、完全に却下されたものもいくつかありました。最初は私の作曲スタイルが、ディズニーに寄り過ぎて、ジブリさが足りていなかったのです。少し時間をかけて新しいサンプルライブラリにも慣れ、今までの古いライブラリでは力不足で作曲しようと夢にも思わなかったような音楽を、実はつくることができることを発見したのです。

意を決して挑戦してみようと思った最後のリスクは、ゲーム世界の状況に合わせて音楽が変化する、ダイナミックなスコアの作成でした。前述のとおり、Peggle 2Limboはインタラクティブな音楽や音を巧妙に取り入れていたので、私も単純なバックグランドミュージックを追加するのにとどめたくありませんでした。このプロセスは、ゲーム開発の進捗とともに発展しました。そのうち、Peggle 2で活かされたインタラクティブなコントロールと同じレベルは、適用できないのだと気付きました。Yonder: The Cloud Catcher Chroniclesはオープンワールドゲームで、複数のバイオームや昼夜の変化、季節の循環や何十ものクエスト条件があります。そしてもっと肝心なのは、全ての音と音楽を作成するのが私1人だという点です。

つまり、最初の目標を、多少調整しなければなりませんでした。超ダイナミックなシステムという野望と、手元の作業量やスケジュールという現実とのバランスを考慮する必要がありました。

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開発が進み、私は音楽を作曲して、Wwiseにある様々な実装方式で実験しました。私はWwiseのインターフェースをそれほど直感的に使えないと最初から感じていたので、何ができて、どのように設定するのかを理解するまで、かなりの時間を要しました。色々な実装の課題を前に、自分が到達したアプローチが果たして正解かどうか、また、一番効率的かさえ私には分かりませんが、多くの場合でそうであるように、最終結果が一番大事だということです。

私にとって大いに有利だったのは、Wwiseで作業するのに正解が1つに限定されない点です。ツールがそろっていて、多数の選択肢を提示してくれるので、そのプロジェクトに最も合った方法を活用できます。その点、自分がプログラムを熟知していないからこそ、不利なことと同じだけ有利なこともあった気がします。

また、UIが分かりづらいと感じた苦労はすぐに、このツールシステムのパワーを発見した嬉しさに、置き換わりました。機能セットはそれぞれ、非常に高度な選択肢や、異なる実装アプローチの可能性を提供してくれます。1つの細かい機能性に注目すると、とてもおもしろい結果を得ることができる、ということです。音楽コンテンツのインプリを始めてからは、何を達成したいのかによって、アプローチを変えながら進めました。

ゲームのオープニングシーンは、ほぼリニアで短いストーリーを紹介するのが目的です。このシーン用に私は弦楽器の生演奏をレコーディングして、その一曲をいくつかに切り分けてみました。オープニングのストーリー紹介のリニアな展開にこの曲が伴うのですが、曲をいくつかのセクションに分ければ、1つの「チャンク」をきれいにループさせることも、次の「チャンク」にシームレスに移ることもできます。

WwiseTransitions機能を使って、チャンク同士の切り替わりを適切なタイミングで実行しました。ゲーム内に複数のステートを作成して、ナレーションが進むにつれ、順次トリガーさせるという方法をとりました。これをコントロールするためにプログラマーが作成したシステムを、私たちはMusicManと呼んでいました。オープニングでステートの変化のきっかけとなるのは、時間の経過か、プレイヤーがストーリーを進行させるアクションをとったときです。ここで面白かったのは、ステートシステムでかなり柔軟な設定が可能だったので、リニアな展開に合わせて始まった素朴なシステムが、その後、ほかの多くの音楽ステートを制御するために応用されたことです。

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次に、音楽的なスティング(sting)をいくつか追加しようと考えました。スティングとは短い音楽イベントのことで、例えばクエストで成功したり、動物に餌をやったり、ワールド内の魔法オブジェクトをどれかトリガーさせたり、といったゲーム側のイベントに合わせて使います。最初は、スティングをブレンドするときに、どうスムーズにトランジションさせるのかを悩みました。ゲームPeggle 2にあるような複雑なつくりでは、音楽のテンポをそろえるときの変調をシームレスに進めるためのトランジションが設定されていました。一方、Yonderのような広大なオープンワールドでは、これが非常に難しくなってきます。私がこのプロジェクトに計画していた音楽があまりにも大量だったので、いつ、どのような音楽の変調が発生するかなど、事前に対応したり予測したりすることはできません。音楽のテンポも常にいくつかの可能性があり、予測できない状況です。

開発中に、まずスティングの音が妥当かどうか、その確認だけでもしたいと思ったので、とりあえずサウンドエフェクトのように扱ってみました。イベントXが発生したときは、スティンガーXをトリガーさせること。再生中の音楽との衝突を避けるために、メインの音楽コンテンツを専用のミックスバスに入れて、スティンガーは独立した2つ目のミックスバスに入れた上で、チャンネルダッキング機能を利用しました。音楽的なスティングがトリガーされると、ミキサーがメイン音楽のボリュームをすぐに下げてスティングが再生されるのを待ってから、23秒かけてメイン音楽を徐々に戻すような単純な仕組みになっています。最初はスティングの妥当性を確認するためにやったのですが、あまりにも便利なシステムだったので、音楽的なスティングの場面用のソリューションとして、ゲーム全体で採用することにしました。

考えすぎは禁物

ここで、大事なポイントの2つ目です。問題があると、実践的なソリューションにたどり着くのに本来必要な時間よりも、長くかけてしまうことが多々あります。シンプルなソリューションが、前進するのに一番良い方法であったりします。Defect SDK用のダイナミックミュージックシステムを設計した流れを思い返すと、そのシステムの色々な面をややこしく設計しすぎたと正直思います。巧妙なシステムになったけれど、多くの場合、そこまで必要なかったはずです。

Yonder: The Cloud Catcher Chroniclesでは、比較的ベーシックな機能だけで、かなり効率的なダイナミックミュージックの活用方法が完成しました。

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ほかと違うものを、設計してみる

このエピソードで、最後に話しておきたいポイントは、ゲームに戦闘シーンがないことがどれだけサウンドデザインと音楽の両方に影響するのか、ということです。今までと違ったスタイルのゲームに関わることは、それだけで嬉しいことでした。ゲームで中心となる基本の戦闘機能をほかのゲームプレイの形式に置き換えることは、今でも珍しいことです。戦闘がこの業界の主要なゲーム機能となってしまっているので、私たちは身体的な戦いのない魅力的なゲームコンセプトをつくり出すのが苦手になっています。オーディオの観点でいうと、戦闘のかわりに、もっとクリエイティブなゲーム構成を採用すると、とても貴重な側面がありました。今まで経験したことがないくらいに、ミックスの幅がダイナミックに広がったのです。

戦闘の音はとても大きく、幅広い周波数帯に及びます。銃撃音や爆発音は、非常に低い周波数のコンテンツから、超高周波のコンテンツまで、スペクトル全体に広がっています。Yonder: The Cloud Catcher Chroniclesでは、空間的な余裕があり、無音状態も存在したのです。気候システムは、プレイヤーの周りを取り巻く色々な風をつくり出し、バイオームと対応して変化しながら様々な種類の音となりました。草原バイオームにいるときに風が少しでも強くなると、野原の草が風に揺れる音が聞こえます。一方、森の中は風に吹かれる葉っぱの音でいっぱいです。

私がLimboで感激したのも自然音の控えめな表現だったので、自分がこのような作品をつくれて大変うれしかったです。控えめなサウンドデザインが適する環境と、それを実行する機会に出会えて、素晴らしい経験ができました。このような条件では、音楽もささやきのように表現できます。夜のワールドは密度が低く、軽やかな空気の動きを示すサウンドエフェクトや、旅人にそっと寄り添うような音楽コンテンツがあります。

次のエピソードで、Gemeaのワールドの環境音について、もう少し詳しく書いて、オープンワールドに生命を吹き込んだ過程を探りたいと思います。

 

 

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This article was originally published on Gamasutra

 

ステファン・シュッツ(STEPHAN SCHÜTZE)

スペーシャルオーディオのプロデューサー兼コンサルタント

サウンドライブラリ案内人(Sound Librarian)

ステファン・シュッツ(STEPHAN SCHÜTZE)

スペーシャルオーディオのプロデューサー兼コンサルタント

サウンドライブラリ案内人(Sound Librarian)

ステファン・シュッツはゲームオーディオ制作に20年近く携わってきたコンポーザー、サウンドデザイナー、ロケーションレコーダー、そしてスペーシャルオーディオの実践者。仕事で幅広く多様なオーディオプロダクションスキルを身に付け、New Realityテクノロジーの主要企業と制作に携わったことをきっかけに、今まさに進化中のこのテクノロジーを使ったオーディオプロダクションテクニックに関する最初の本を著す。

 @stephanschutze

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