きっかけは
バーチャルリアリティ(VR)が広がる中、没入感を最も効率よく実現できる実在のオーディオテクノロジ―はどれなのか、デベロッパーから聞かれるようになりました。私たちもアドバイスを提供したいと考えましたが、開発途中のあらゆるゲームやVRエクスペリエンスに合うような、万全なソリューションはありません。なぜならば、考慮すべき要素として、バイノーラルプラグイン用のハードまたはソフトによるレンダリング、クロスプラットフォーム対応、ゲームプレイやストーリーテリングなどのジャンルの違い、芸術的な感覚や好みの違いなど、多数あるからです。
ちょうど同じ頃、私たちはジオメトリ情報を取り込むアーリーリフレクションプラグインを開発中で、これがWwise Reflectという成果をうみ出したほか、Wwise Spatial Audioの新たな拡張機能として、3Dバス、ポータル、方向性のあるリバーブなどを導入して強化していた最中でした。改善を重ねれば重ねるほど、様々なスペーシャルオーディオのシナリオをテストできる3Dゲーム環境のようなものが必要だということが明らかになりました。
このような背景でWwise Audio Labプロジェクトが生まれ、多様なスペーシャルオーディオ現象を明らかにすることを目的とした疑似ゲーム環境が、WindowsとMac向けだけでなく、OculusやHTC ViveといったVRの稼働も視野に入れて整備されました。Wwiseプロジェクトのソースは公開して、ゲーム制作に使われたUE4プロジェクトも、プリコンバイルしたソースまたはフルソースで提供することになりました。
3Dオーディオのシミュレーションや比較ができるプラットフォーム
WAL (Wwise Audio Lab) は、スペーシャルオーディオのテクニックやテクノロジーをテストしたり比較したりするためのレベルが、2つあります。Villageレベルには、異なる大きさや形の部屋があるだけでなく、野原、山、道などを伴った屋外の広い環境もあります。Echo Chamberレベルはダイナミックアーリーリフレクションをテストするのにとても便利で、部屋の大きさや音響仕上げをリアルタイムで変更できます。
Wwise Reflectや、静的とダイナミックなアーリーリフレクションの2種類を比較する使い方以外にも、サウンドポータル、方向性のあるリバーブ、オクルージョンやオブストラクション、オーディオLOD (level of detail)、アンビソニックスとQuad、バイノーラルと標準ステレオなど、様々な技術を試して比較検討できます。シナリオによってはゲームにWwiseを接続する必要がありますが、ほとんどの機能がゲーム自体に実装されているので、サウンドオプションのメニューから数秒で、AB比較などを実行できます。
ゲーム内のSound Optionsメニュー
Information Nodesの導入
ユーザーが没入感を維持できるように(そしてドキュメンテーションを読む必要を少なくするために!)、各レベルの色々な場所に重要ポイントを示すInformation Nodes(情報ノード)を追加して、ゲーム内研修またはガイド付き観光のようにしました。Information Nodesが着目点を簡単に説明して、ゲームまたはWwiseでの使い方や、何が期待できるかなどを教えてくれます。
Information Nodes
Radioの登場
スペーシャルオーディオ現象を理解するために重要なもう1つの面が、予想がたてやすく、再現しやすいシナリオ設定です。そのために、私たちは空飛ぶラジオを設計しましたが、チャンネルによって音楽、会話、ホワイトノイズ、ティックなどが聞けるようにして(音は、Wwiseプロジェクトを修正すれば簡単に別の音源に入れ替えられます)、プリセット機能はプレイヤーがカスタマイズして保存できます。インターフェースは一見、複雑そうですが、かなりパワフルです。ラジオの動きは3Dオシロスコープに似たつくりで、周波数、振幅、フェーズ、DCオフセットなどのプロパティを、3つの軸のどれに対してでも設定できます。例えば、異なるバイノーラルテクノロジーを試したり、サラウンドサウンドシステムのコンフィギュレーションをテストしたりするのに理想的なツールです。
Radioと、バックグラウンドのAstrolabe
クレジット
Compulsion Gamesのギヨーム・プロボ(Guillaume Provost)氏には、彼らのゲームであるWe Happy FewからVillageレベルを構築するためのグラフィックアセットを提供してもらえ、大変感謝しています。おかげで開発が格段に速まり、非常に助かりました。特にギヨームは、我々が何を変えたのかを知った上で承認してくれたのはありがたく、何しろ我々はダイナミックライティングを台無しにして、(グラフィックスの最適化を安く済ませたわけですが、それよりもAudiokineticがグラフィックス制作の知識があまりないことを証明したようなものです!)、スカイボックス(ユーザーの一部にとっては暗すぎ)も、沢山いたNPCも、無駄にして、ゲームの暗くどんよりした雰囲気を破壊してしまいました!
Villageの街路
ギヨームが、レベルを整備したり新しいプロップや地形をつくったりするのに、3Dアーティストのウォーレン・マーシャル(Warren Marshall)と協力することを勧めてくれました。ウォーレンがとてもクリエイティブで効率的に進めてくれて、一緒に仕事ができて嬉しかったです。もっと極める時間があればよかったのですが、非常にタイトなスケジュールで、制作時間が限られていたにもかかわらず、ここまで達成してくれた彼に感心するしかありません。
また、Empty Clip Studiosのマット・ショアーズ(Matt Shores)とフランソワ・ベルトラン(François Bertrand)は、ゲームのプログラミング面を担当して、追加エンジニアリングにはDistruptive Gamesを採用してくれ、感謝しています。時には障害のある道のりでしたが、確かに完成させてくれました!
Signal Spaceのトゥーサン・ルノー(Toussaint Renaud)はフォーリー、メニュー、そして一部のアンビエントサウンドを担当してくれました。Sonorumのステファン・ラリビエ(Stéphane Larivière)は、部屋のトーンをアンビソニックスとQuadの両方で提供してくれたので、2つのフォーマットでレンダリングされた同じレコーディングを比較することができます。
そして最後に、Audiokineticのみんなもそれぞれの方面で活躍してくれ、QA、ドキュメンテーション、ローカリゼーション、インプリメンテーション、コミュニケーションなどで多数が協力してくれました。みんなの名前を列挙するには多すぎますが、その中でも特にブノワ・サンテール(Benoît Santerre)が、ほとんどのオーディオ機能を実装してくれたほか、このプロジェクトのビルドマスターであり、リードプログラマーでもあり、Blueprintマスターでもありました。ブノワ、ありがとう!
駅
室内のインテリア
いざ、アクション
WALの機能で遊んで、私と同じくらいに楽しんでもらえたら嬉しい(音速をWwise Reflectで遅くするがお勧め)ですが、それよりも、現在入っているマテリアルが、皆さんの開発中や企画中のプロジェクトの役に立てば、と思います。ゲームのコンテンツやジオメトリを変えたい場合はフルプロジェクトをダウンロードできますが、おそらくWwiseプロジェクトのコンパイルバージョンで充分だというユーザーが多いでしょう。両方ともWwise Launcherから直接、入手できます。
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