壮絶なバトルの最中に、再生中のゲームミュージックを本当に意識したのは、最後はいつですか?ゲームスコアというものは、どうしても、ジョン・ウィリアムズ級の印象的な映画スコアと同じように注目されることがありません。彼がファシスト軍の兵士に命中する壮絶なパンチを、音楽で見事に強調するのに対し、ゲームのスコアは、静かにバックグランドミュージックをダッキングさせて、音楽を弱めます。主な理由は、映画のコンポーザーがほぼ完成したバージョンの映画を見ながら、アクションに音楽を合わせるのに対し、ゲームでは、プレイヤーの予測不可能な行動への対応が必要だからです。音楽的に目立たせようとするいくつかの行動を、プレイヤーが一切やらないという状況が考えられます。ゲームの開発側にいる私たちは、予測不可能なプレイヤーの行動に合う楽曲を作成するなかで、映画の世界で1世紀以上にわたり感動を与えてきた楽曲に匹敵するような没入感を達成するには、一体どうすればいいのか?
ゲームをミュージックスコアに合わせられるようにするには、まず、ゲームミュージックをアクションに合わせる「リアクティブ(反応)」と「プロアクティブ(積極)」の2つのオーディオ方式を理解しておく必要があります。ほとんどのゲーム開発者は、リアクティブ型のゲームオーディオについてよく知っています。トリガー、スイッチ、ステート、イベント、RTPCを取り入れた方式で、ゲームの状況のアップデートをオーディオエンジンに提供することで、オーディオエンジンがサウンドミックスを調整します。この方式はすでに多くのゲームで素晴らしい結果を出しています。このアプローチを使えば、例えば『レジデント イービル』で、特定のパズルの鍵が見つかったときにホール音楽を大きくできます。Xbox Oneの 『キラーインスティンクト』 の開発者は、コンボのシステムを巧妙なミュージックシーケンスのシステムに変身させ、 ウルトラコンボを適切に実行できたときに キャラクターのライトモチーフをBGMに取り込んでいます。任天堂は、MIDIのダイナミック作曲を使い、場所や重要キャラクターイベントなどに応じて変化する音楽にしました。『 スーパーマリオカート 』ではエリアのトリガーを使って、レベル内のプレイヤーの位置に基づいて音楽の楽器を切り替えています。『 Middle-Earth: Shadow of War 』はサウンドトラックがカスタマイズされる感覚を出すために、具体的なアクションに反応してミュージックスティンガーが再生されるシステムを導入しています。これらはすべて、Wwiseのようなオーディオエンジンが可能にする、高度なシステムによって成り立っています。
こういった方式は必ず印象に残るゲーム体験をつくり出してくれますが、ゲームミュージックが、その場のプレイヤーアクションに応じて、それを目立たせてくれるという、映画と同等のレベルにまで、私たちの音のインタラクションを引き上げるにはどうすればいいのか?その答えは、逆転の発想にあります。ゲームアクション主導の音楽にするのではなく、音楽に基づいてアクションを駆動させるのです。これが、プロアクティブ(積極的な)オーディオデザインです。従来のインタラクティブゲームオーディオは リアクティブ(反応型) であり、対話がゲームエンジン側から始まり、オーディオエンジン側で完結します。
リアクティブ型と、プロアクティブ型のゲームエンジンの違い
プロアクティブ 型のオーディオシステムは、つまり、オーディオエンジンがゲーム側に情報を送り返します。Wwiseでは、Marker、MIDI、Musicの各コールバックを通して、プロアクティブなオーディオデザインに対応できます。Markerコールバックは、 オーディオにキュー(合図)を埋め込む ことができ、それを元にWwiseはゲームにノティフィケーションを送り返すことができます。
Wwiseのシステムが、プロアクティブなデザインにぴったりの基盤をつくりますが、このアプローチを極限までもっていくとしたら?もし、音楽が一番面白くなるのはこのポイントだ、と単純に伝える代わりに、次のビートはこれで、その強度は これくらい で、何ミリ秒後にくるよ、と明示するとしたら?この情報を入手したゲームシステムは、重要かつ明解な判断を論理的に出せます。乱闘のシステムが、ゲームのノックアウトパンチのアニメーションを40ミリ秒ほど遅らせてちょうど音楽の拍子に合うようにしてくれれば、潜在的にある音楽的な「衝撃」と同期され、パンチが強化されたような感覚が生まれます。さらにゲームは並行してサウンドエフェクトまたは音楽的な盛り上がりをキューに入れて待機させ、これからくるシンクポイントに乗せたり、標準的なリアクティブのオーディオトリガーを利用して激しい音楽を楽曲の上に重ねるために、オーディオシステムにキューを設定したりできます。そして、その新しい音楽からゲームに新しい信号を送り込めます。デザイナーは、このゲームループを自分でつくり、その仕組みを複雑にすることも、単純にすることもできます。その結果、音楽を従来のような方法で作曲でき、ゲームをオーディオに合わせることが(そして、その逆も)可能なシステムが成立します。今までより、かなりスマートなインタラクティブオーディオとなり、ゲームシステムとオーディオエンジンが、互いに 調整を取り合う ことができます。さらに、ゲームロジックのオーバーヘッドを最低限に抑えることができ、Wwiseのように、既にあるオーディオシステムを補完する形で実現できます。
それでは、いくつかの例を見てみます。どんなアクションゲームにもありそうな、標準的な乱闘シーンをプロアクティブオーディオで強化する流れを、少し掘り下げて考えます。映画的な乱闘システムでは、主人公と敵たちの優劣の変化に伴い、バックグランドミュージックの強弱に変化がみられ、強烈な一撃や壊滅的なブローと音楽の盛り上がりが一致します。音楽は、プレイヤーのアクションを補強すると同時に、昨今のゲームオーディオに当然のように求められる、状況への反応を提供します。では、このエフェクトを出すまでの様子を見てみます。以下の図は、アニメーションのパンチの衝突と、音楽の激しさの頂点を一致させることを目的とした、いくつかの例です。
標準のリアクティブオーディオのアプローチでは、ゲームのアニメーションシステム側が、オーディオで何が起きているのかを全く知らないので、アニメーションが単純にそのまま再生され、結果的に、音楽やサウンドエフェクトや音楽的な演出と、アニメーションは、シンクされません。
アニメーションシステムに、プロアクティブオーディオシステムが詳細な時間情報を提供することで、アニメーション(あるいはシミュレーションそのもの)と、それに伴うサウンドエフェクトを、合わせてスローダウンさせて、その特別な瞬間を音楽の感動的な瞬間に合わせることができます。この例では、最初から300ミリ秒経過したときに発生するパンチの衝撃のアニメーションを、150ミリ秒ほど引き延ばすことで、最初から450ミリ秒入ったところの音楽的な衝撃と、一致させています。
また、別の方法として、アニメーションシステムがアニメーションの開始を遅らせて、アニメーションとミュージックのクレッシェンドが同時に起きるようにすることも可能です。
これらのソリューションをゲームのニーズに合わせて組み合わせて使うことで、プレイヤーのための柔軟でレスポンスのよいエクスペリエンスが成立します。
その結果、プレイヤーへの悪影響が全くなく、「アクション」と「ミュージック」が自然に揃い、プレイヤーの行動を強化する音楽的スティンガーのタイミングを事前に判断できるシステムが、できあがります。
ところで、なぜわざわざ、オーディオデザインを逆向きにするのか?プロアクティブなオーディオがあれば、ゲームシステムが従来の(リアクティブ型の)オーディオシステムと調和を取れます。予測不可能なプレイヤーの動きを、サウンドトラックに合わせるときに、ゲームオーディオを裏方に押しやる必要はないのです。さらに凝るのならば、プレイヤーアクションによって稼働し、プレイヤーアクションと同期したダイナミックミュージックのシーケンサーを作成できます。ゲームのサントラと、大ヒット映画にあるようなシネマ音楽の差を、ゲーム開発者は、この新方式で縮めることができます。もはやゲームだからといって同等の品質に到達できない理由など、ありません。
音楽は、ゲームのエクスペリエンスにとっても、ゲーム業界が魅惑的な物語を語るためにも、非常に大切です。よりリアルなビジュアルで売り込もうとするあまり、グラフィックレンダリングの性能ばかりを押し上げては、音楽制作をおろそかにしかねません。しかし、飛躍的なグラフィック制作が限界に来たときこそ、音楽と、その他のシステムの連携を強めることは、今まで以上に大事です。プロアクティブなオーディオシステムと、Wwiseのような優れたオーディオエンジンと、気の利いたゲームデザインを組み合わせることで、すぐにもダイナミックな音楽のスコアを実現できます。
サウンドデザインを、楽しんで!
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