Total Warシリーズのビデオゲームを知らない読者のために説明すると、Total Warはターン制ストラテジーゲームで、壮大なリアルタイムバトルもからんでいます。20年近くの歴史があり、時代背景も中性ヨーロッパから日本の封建時代、古代ローマ、17世紀の中央ヨーロッパ、暗黒時代に渡り、最近ではWarhammerのファンタジーユニバースに場を移し、三部作のプロダクションや多くの関連DLCが出ています。
背景
Total Warの音楽は当初からインタラクティブな要素を持っていましたが、2012年にWwiseを導入する以前のプロダクトは、デザインもプロダクションプロセスもシンプルでした。Wwiseへ移行する決断は難しいものではなく、サウンドデザインやダイアログやプロダクトのコードにおけるメリットはもちろん、本格的なミュージックシステムや、提唱された機能を利用すれば、ゲーム音楽で私たちが本当にしたいと思う部分に集中できると考えました。
この記事では、私たちのシステムの最新バージョンを説明し、2017年にリリースした Total War: WARHAMMER 2の事例を交えて音楽のつくり方を紹介したいと思います。このタイトルは、病みつきになるようなターン制の帝国繁栄のための会戦と、突発的で広範囲のリアルタイムバトルを組み合わせたゲームで、全てが色鮮やかで想像を絶するようなWarhammer ファンタジーバトルの世界で繰り広げられます。
Total War: Warhammer 2の音楽開発は、デザインからプロダクション、そして実装まで、完成するのに6ヵ月ほどかかりました。このプロジェクト用に、オーケストラやコーラスの大がかりな音楽を4時間分弱、プロデュースしました(これ以外にも代替バージョンのミックスもあり)。アンサンブルのライブレコーディングはブダペストにて、2017年の初頭から半ばにかけて実施され、セッションはオーケストラを合計47.5時間、コーラスを合計21時間かけて行いました。クリエイティブ面では、マルチカルチャーの世界観を表現するために、異なる魔法の流派や、モンスターや、キャラクターがあふれる世界をつくり出し、High Elves、Dark Elves、Lizardmen、そしてSkavenという4つの非常にユニークなカルチャーを織り込みながら、Warhammerの疑似中世の伝説的な要素を活用しました。さらにシステムの条件として、ゲームの広大なスケール感やアクションを描きながら、プレイヤーを引き込む感情を強化して導き出し、バトルシーンでは興奮を高めてキャンペーン(会戦)のイベントを交え、耳に残るインタラクティブでダイナミックなミュージックスコアを広げていく必要がありました。
ゲームの構成
私たちが今、音楽をどのように活用しているのかを理解してもらうために、ゲームの構成を少し説明したいと思います。ゲーム自体はCampaign MapとBattlefieldの2つに分かれていて、スタイルやゲームプレイの内容が非常に異なり、音楽的にもそれぞれに合った方法のアプローチをとっています。
Campaign Mapでは、ゲームのリアルタイム以外の戦略的な部分で音楽が再生されます。プレイヤーが、自分のリソースを配分したり軍隊を動かすのに集中して、なかなか判断できないかもしれないことを意識して、それに合わせてあります。音楽はバックグランドで静かに流れるだけで、自己主張もせずゲームプレイに対応しつつ、地理的な条件や文化の色に影響されます。例えばCampaign MapにあるHigh Elven 地域の音楽は、Lizardmen達の音楽と全く異なります。Campaign Map音楽は、このゲームのインタラクティブミュージックシステムに対応するために8小節分のブロックや個別のセクションで構成され、テンポの範囲は60~75 bpmほどです。
Campaignのマップ
戦場の音楽は、複数の作曲タイプに分けることができますが、基本的には複数の Threat(脅威) トラックと、Action(戦闘アクション) トラックで構成されています。Action音楽は、それ自体がダイナミックでインタラクティブな要素を持っていて、戦場でリアルタイムに発生するイベントに反応するのと同時に、地理的な場所や文化の影響も受けていて、エリア内における主要な役割は、Actionの合間の緊迫した時間をサポートして、闘いが始まったときに、大規模な戦闘をかもし出して興奮を強めることです。バトル音楽の典型的な構成は8小節分のブロックか個別のセクションで、音楽システムがゲームプレイにダイナミックに対応できるように、システムが適宜、新しい音楽を入れたり終了させたりします。
Battlefield
ダイナミックシステム
実はこのゲームには、2つの異なるダイナミックミュージックシステムがあり、1つは戦略的なCampaign Map用、もう1つはゲームのBattlefield用です。
Campaign音楽の概要
Total War: WARHAMMER 2のキャンペーンの音楽は、キャンペーン(会戦)のゲームプレイの状況を反映し表現します。音楽スタイルとして4つのカルチャーグループがある中、どのグループでも共通する3つの異なるcue(キュー)タイプがあり、それは、‘Normal’、‘Threat’、そして‘Pre-Battle’です。NormalタイプとThreatタイプの中を見ると、cueや、メイントラックや、代替ミックスなどのプレイリストが入っています。このシステムは、ゲームプレイの現状に合わせて、複数あるcueやカルチャーを賢く使いまわし、例えば平和なステートや、ほかのカルチャーとの戦争のステートなどをゲームが知らせると、音楽システムは、適切なNormal cueやThreat cueを再生してくれます。カルチャー同士の関係が変化すると(例えばプレイヤーのカルチャーがほかから攻撃されたり、逆に別のカルチャーを攻撃したときなど)、音楽システムがPre-Battle音楽をトリガーします。
キャンペーンセッションでは、必ずNormalプレイリストの音楽を再生して始まり、そのカルチャーの最も代表的なトラックが流れます。次に、システムは、ゲームプレイに基づくプライオリティ順の再生モードに移行し、特定のアクションまたはイベントで指定されたcueを、queue(キュー、順番待ち)に入れてくれます。
新しいcueをトリガーするゲームプレイ側のイベントやアクションは様々ですが、一例を示すと、
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初対面のファクションとの出会い: New Faction Peace Track
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侵入する、非攻撃的なファクション: Trespassing Faction Peace Track
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リクルートしたヒーロー: Player Faction Peace Track
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不法侵入してきた敵: Enemy Faction Peace Track
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敵による市の占拠: Enemy Faction Threat Track
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外交による友好的な結末: Allied/Friendly Peace Track
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外交とプレイヤーによる宣戦布告: Player Faction Threat Track
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外交と敵による戦線布告: Enemy Faction Threat Track
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開拓地の植民地化: Player Faction Peace Track
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バトルとプレイヤーの勝利: Player Faction Threat Track
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バトル前: Most Powerful Factions’ PreBattle Track
イベントに優先順位があるので、あるアクションやイベントでトリガーされたcueが、再生中のキューよりもプライオリティが高ければ、それがPeace、Threat、Pre-Battleのいずれにせよ、そのcueとカルチャータイプに合わせて再生され、終わるべき再生中のトラックがトランジションポイント(詳細は後述)に到達したとき、または再生中のトラックが自然に終わったときに、切り替わります。
さらに、プレイヤーがカメラを動かして、ほかのカルチャーの上空を通るときは、その新しいカルチャーのNormalプレイリストにトランジションし、画面に現れたものを適格に表現します。
Campaign音楽の流れの可能性を示した図で、2つの色は、例えば2つの想定されるファクションなどを表す。
上記cueタイプにはそれぞれ、関連する変数が設定されていて、例えば‘state valid timer’、‘state cooldown timer’、‘instant transition’など、以下に示すような微調整の手段が提供される。
キャンペーン用の、CooldownやInstantanious(瞬時)のトランジションコントロール
トランジション
当然、ダイナミックなミュージックシステムが最適化された状態でシームレスに機能するには、トランジションcueの活用が必須です。Total War: WARHAMMER 2でもcueが広範囲で採用され、フル楽曲のブリッジとしてではなく、どちらかというと、終わろうとしているcueと新たに始まるcueの間を取り持つ接着剤のような役割を担っています。
あとで詳しく説明しますが、キャンペーンで使われるトランジションcueは簡単にいうと、ライザーとドローンを組み合わせたものです。トランジションcueの再生が始まり、終わろうとするトラックの上に重なります。これから終わるトラックが、トランジションのライザー部分と共に終わると、ドローン部分の再生だけ短時間続いてから、新しいトラックの‘in’部分のcueが重なります。
トランジションのルール
実装中に、SourcesとDestinationsの1つのセットに、3つの異なるトランジションルールが必要だと分かり問題となりましたが、具体的にはトランジションのタイミングが、トラックの最中なのか、トラックの終わりなのか、それともすぐにトランジションするのかによって、ルールが変わります。
実装時に、Wwiseはこの問題に対応できませんでした。問題を解決するために、プログラマー達がトランジションルールにState Filterを組み込んでくれ、なんとこれが、Wwiseの新バージョンに追加されたのです!
この変更で、トラックの‘post event’マーカーを使い、State Groupを設定できるようにしました。つまりトラック冒頭で‘Campaign_Music_Transition’から‘Allow_Midtrack_Transition’ へのトランジションを可能にしたり、トラックの終わりに‘Disallow_Midtrack_Transition’を設定したり、コードで設定したトリガーを使い、特別な状況のときに‘Immediate_Transition’に切り替えることができるようにしたり、1つのパスで3つの異なるトランジションルールを利用できるようになりました。
ゲーム中にフレーム毎の音楽のステータスを更新し続ける状況を回避するために、トラック内のマーカーを使い、アップデートをトリガーするようなシステムになっています。トラックの真ん中に ‘Update_Faction_Higher_Priority’ というマーカーを置くと、システムがその時点のmusic queue(ミュージックキュー)に入っている最もプライオリティの高い情報に合わせて音楽ステートを更新できるようになり、例えば、現在、 ‘Normal – High Elves’というトラックが再生中であり、マーカー時点で‘Enemy Sieging City – Dark Elves’という情報が入ってくれば、システム側は音楽階層の引数パス(argument path)に使用するステートを更新し、トランジションを起こします。このpriority queue(プライオリティキュー)を採用するとクリエイティブな要素を織り込むことができ、例えばトリガーされた最新ステートが‘Recruited Hero’であったとしても、その時点でqueueに‘Battle Winning’というステートが待機していれば、そちらのプライオリティの方が高く、ゲームプレイをより正確に表せるので、優先して再生します。
トラック末尾でのトランジション
トラックが結末まで自然に流れ、その他のトリガーがなければ、同セット内でサイレンスのトランジションcueを経て別のトラックに移行します。
トラック最中のトランジション
私たちは、楽曲のベースのルート音(root-notes)の選択肢を、意図的に3つに絞りました。これは作曲のルールセットとして決めた条件の1つですが、理由は、管理しきれない結果がシステムから導き出されるのを防止するためで、トラックのトランジション後に、今までと同じベースルート音のトラックが不足する事態を避けるためです。
このため楽曲は3つのルート音のいずれかをベースにして、上下に短3度だけトランジションするようになっています。楽曲間のトランジションで音楽性を確保するために、事前に組み込むトランジションcueとして、パーカッションと、現在のカルチャーの音楽に関連するほかの音色(timbre)と、現在の音楽ルートのルート音の低ドローンで構成したcueの3つを用意しました。
ルート音をシステムでトラッキングして、必要に応じて適切なトランジションを採用します。音楽が、8小節ブロックか固有の音楽セクションで成立しているため、トランジションを始める点と終わる点を設定する位置は、決まっています。
音楽が沈黙してしまったり、音楽的に妙な開始ポジションに切り替わったりすることがないように、これから入ってくるトラックの開始ポイントは、トラック上の指定の‘in’マーカーの位置に限定しました。
すぐにトランジションする
ゲーム中に、ミュージックトラックをすぐにトランジションさせた方が良い場面もあり、例えばDiplomacyスクリーンが選択された場合などは、トランジションと同時に画面が変わり、ボイスオーバーのセリフがトリガーされ、音の大きいサウンドエフェクトが使われます。音楽のトランジションが聞こえないので、異音を気にせずにビジュアルと厳密に同期した音楽の切り替わりを実行できます。
Battlefield音楽の概要
ゲームのバトルフィールド部分に導入する音楽システムの大事な条件の1つが、戦闘の状況にリアルタイムに、しかも音楽的に洗練された形で対応するように、ダイナミックな音楽の変容を可能にするcueを活用することでした。Battlefield音楽は、ゲームプレイの様々なイベントやステートに対応しながらも、1回の会戦中に見られる精神的な変化を、確実に表現する必要があります。
単一のContinuous設定のミュージックトラックではもちろん不十分で、細かく分かれた構成の音楽であっても、求められるバリエーションに応えられません。これでは、私たちが求めている適応力もなく、ゲーム中に出てくる幅広いゲームプレイや感情の変化を表すことも不可能です。そこで多数のcueタイプを使いこなすミュージックシステムを設計し、完全なミュージックセットとして、このように準備しました:
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Reveal(導入のスティンガーで、その環境のシーンを設定する)
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Threat(嵐の前の静けさであり、憂鬱な予感に満ちたアクション)
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March(隊員たちが戦場に挑むときの行進曲)
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Skirmish(小競り合いを表す、弱いアクション音楽)
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Dynamic Action(アクションによってプレイリストからトリガーされる複数のアレンジがある、強いアクション音楽)
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Results stingers(勝ち負けや引き分けの結果)
主要なカルチャー毎に複数のBattle音楽セットを用意して、バラエティを確保してあります。戦闘が開始されると、最も大きい軍を持つカルチャーに基づいたミュージックセットが選択されます。戦闘中は、戦いに勝っているカルチャーに合わせてミュージックセットを変えることができます。
Cueタイプが多種多様なので、ミュージックシステムがシームレスに移行できるように、作曲段階のルールを事前に作成しました。
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トラックやミックスの切り替えが耳障りにならないように、トラック毎にルート音を指定し、キーを切り替える際のルールも決めました。
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ミュージックトラックに入る時や出る時の音楽的な境界線を設定しやすいように、cueタイプ毎にテンポを定義しました。トラック内でテンポを変えることは禁止しました。
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拍子も、トラックやミックスの切り替えが耳障りになるのを避けるために、事前に定義しました。
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Cueのステート
音楽の再生方法とタイミング
Battlefieldのミュージックシステムは、展開されるバトルの形状に反応します。個別のcueタイプに特に順序はなく、最初にRevealでスタートでき、必ずResults Stingerで終了するといった程度です。間に流れる音楽は、完全にユーザーのアクションやリアルタイムのイベントに支配されるので、前後に変化したりします。
Revealの各cueはバトル開始時にトリガーされますが、それもプレイヤー自身の軍隊が一定以上の強さを持った時に限られます。そうすることで、戦闘の壮大さや緊迫感をつくり出すための音楽が、規模の大きいバトルだけに使われます。Reveal音楽のトランジションアウトは、トラックの最後のクロスフェード1つだけです。
Threat音楽はバトルの始めにトリガーされるか、Reveal音楽のあとに、適切であればトリガーされます。Threat音楽のフレーズやモチーフが、トランジションの時に途切れてしまわないように、トランジションアウトのタイミングの候補を示すマーカーcueを、音楽的に適切な場所に挿入します。
Marching音楽がトリガーされるのは、プレイヤー周りの既定の範囲内で一定の割合を超えた部隊が動いていて、行動開始の指令が出た時です。この音楽のトランジションアウトは2種類で、Threat音楽に戻る時と、Skirmish音楽やAction音楽に直接移る時があります。アウトの場所も2つあり、1つは標準的な‘End’マーカー、もう1つは、その前にくる‘Out’マーカーです。早い方の‘Out’マーカーのタイミングで、音楽をSkirmishやActionに切り替えることができ、このマーカーはMarching楽曲の盛り上がりの頂点にあり、クライマックスのダウンビートに合わせてあります。Marching音楽の再生中に戦闘が始まっても勢いが失われることがないよう工夫されています。逆に、プレイヤーまたはAIが部隊を動かしたあとに、戦闘開始の前に間があれば、Marching音楽のアウトロ経由で音楽が自然に消え、Threat音楽に戻ります。
Skirmish音楽やAction音楽の選択は、戦闘中の部隊数によってトリガーされます。Skirmishをトリガーするのに必要な部隊数は、Actionよりもかなり少なく、プレイヤーまたはカメラからの範囲も狭くなるので、軍隊全体のうち、小数の部隊だけが戦っていても、Skirmish音楽をトリガーできます。
Battle音楽に可能な、様々な流れ。
ダイナミックなActionステート
バトルの大半はDynamic Actionステートで進むので、システム的にも非常に重要な部分です。バトル時に、単一で不変のActionトラックを再生させたくないという考えの下、メインのActionトラックと、変形ミックスやアレンジされたcueが入ったプレイリストを事前に設定し、リアルタイムのイベントに合わせて切り替わるようなシステムをつくりました。例えば、このような状況が考えられます:
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Allied Unitsが勝っている
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Allied Unitsが逃げている
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敵軍が勝っている
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敵軍が逃げている
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Allied HeroやAllied Generalが死にそう
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Allied HeroやAllied Generalが攻撃中
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敵軍のHeroやGeneralが死にそう
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敵軍のHeroやGeneralが攻撃中
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Infantryが突進中
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Cavalryが突進中
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Unit達が混戦中
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Unit達が戦略的な地点を防御中または攻撃中
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Unit達がProjectile(投射物)を発射中
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Unit達が大がかりな魔法を使用中
上記の各種ゲームステートを表現するため、そしてゲームのその時点のサウンドエフェクトの組み合わせになじむように、メインのActionトラックのプレイリストミックスを作成しました。例えばステートが‘Units using large magic spells(Unit達が大掛かりな魔法を使用中)’であれば、大型の打楽器やリズミカルなストリングパートを大幅に削減し、代わりに高音の弦楽器や木管楽器に注目がいくようなミックスをつくりました。軽さやスピード感がかなり高まるだけでなく、魔法詠唱 を表現する 低音ランブルを入れ込むための余裕が、ミックス内に生まれました。
逆にミックスを拡張してサウンドエフェクトとブレンドするようなバージョンも作成しましたが、例えば突入のステート用に編集したミックスは、ほぼ完全に、速くて低音の弦楽器と低音のエスニックでシネマティックな打楽器が中心となっています。これが大地を駆け抜ける蹄の音や足音を強化するのに役立ち、力強さやサスペンス感を築きます。
システムを設計する上で、編集されたミックスやアレンジの元となったオリジナルの曲の素材を繰り返さないようにすることが、ゴールの1つでした。これを回避するために、Action音楽をいくつかのセグメントに分け、現在のステートを更新するためにマーカーとコードを使いました。例えば、‘Segment:01’はSegment Stateを‘02’に変えるようにコードに指示を出すもので、Wwiseのインタラクティブ階層の引数パスが更新されます。現行のミュージックトラックのステートをいつでも把握できるようになり、ダイナミックなミックスのステートと使用中の素材をタグ付けすることで、楽曲の同じ場所から取得した素材を2度も耳にすることがないようにしました。
'Action'トラックは始めから最後まで、ルート音や設定するテンポなど定義のルールが同じため、楽曲のメインミックスのバージョンと、編集された代替ミックスの間の行き来が、トランジションcueの採用で簡単になりました。ミックスとフルトラックの間で再生するトランジションcueを一式そろえる方法も検討しましたが、テストするとシステムに遅延が出ることが分かり、トランジションの繰り返しを避けるために大量の素材を生成する必要も出てきます。そこで、即時のトランジションを試し、トラック間の継ぎ目は接着剤のような役割を担うライザーでカバーしてみました。非常にうまくいくことが分かり、システムの遅延もなくなりました。
トランジション用 セグメントは、先行セグメント(またはミックス)に重なりフェードインし、後続セグメント(またはミックス)に重なりフェードアウトしていき、上図のマーカーのあるダウンビートのところにヒットします。ルート音やドラムやメタリックパーカッションなど、カルチャーに適した増減を含めることで、セグメントとセグメントを心地よくつなげることができました。現在、ゲーム内のActionトラックと、そのマーカーの間のトランジションルールは、121個あり、各カルチャーや各ルート音のミュージカルトランジションのcueが、それぞれ3つ以上あります。
このダイナミックステートシステムはプログラミングコードで統制されていて、各ステートの変数はデータで定義され、ランタイムにトラッキングされます。新しいミュージックステートをトリガーするための必要条件がそろえば、そのステートがコードによってMusic Queueに追加されます。Queue機能のおかげで、複数のステートの条件が同時にそろった時に対応でき、その状況をいつまで有効にするのかを、その都度判断できます。例えば、‘Infantry/Cavalry Charging’(歩兵の突進中、騎兵の突進中)というステートは、どちらも非常にビジュアルな要素に結びついているため、有効な期間は短いのです。逆に‘Allied Hero/General Death’(連合軍のヒーローの死、将軍の死)というステートは、どちらの場合も、プレイヤーが自分の陣営を組みなおしたり、軍の幹部の死亡を悼んだりして、キャンペーンに影を落とすことさえもあるので、このイベントの雰囲気はプレイヤーの頭の中にしばらく残り、ステートとしても、長くなります。
音楽の準備と、オーサリング上の考慮
以上のシステムを計画通りに完成させるには、音楽の作曲方法を充分に検討するだけでなく、そのレコーディングやミキシングにも気を使う必要がありました。まず、cueとcueの間のトランジションを楽にするために、楽曲に入れるメーターやテンポやルート音(プラスマイナス短3度の範囲)の標準を定義した上で、特定のトラックを8小節ブロックの範囲や個別のセクションに制限しました。
ミュージックレコーディングの準備に関しては、既存の素材を使ってトランジションや代替ミックスなどを作成する柔軟性が必要で、簡単に素材を適応させたり編集し直したりできなければなりませんでした。これを達成するために、コンポーザーから納品される音楽のフォーマットの、ステムエクスポート表を作成しました。つまり、どのcueの場合も、納品フォーマットが一貫しているので、MIDIステムをProToolsで編集したり、最終的なライブレコーディングと合わせて活用したりできるようにしました。
編集作業、トランジション作成、代替ミックスの作成、そしてアレンジなどの作業は全てProToolsで行いました。
インタラクティブなオーケストラスコアは、ライブレコーディング用に素材を準備する段階で、興味深い独特の課題がいくつか出てきました。私たちが求めるミックスや、後日のオーサリング対応や、インタラクティブな柔軟性を実現するには、オーケストラのサブセクション(木管楽器、弦楽器、コーラスなど)を、個別にレコーディングする必要があることに気付きました。特定のcueでは、リズミカルな部分をサステインの素材から切り分けることを考慮し、さらにアンサンブルを上下で分けることもあり、例えばバイオリンとビオラを合わせてレコーディングし、チェロやコントラバスとは隔離したり、さらにはバイオリンのスタッカートをレガートから隔離させたりすることもありました。
こうして進めることで驚異的なレベルの柔軟性を確保でき、様々な派生形や、アレンジや、トランジションや、トラックとセグメントのミックスの変化形を作り出せたので、それらをインタラクティブシステムに投入しました。
まとめ
Total War: WARHAMMER IIという、幅広い感情の変化や、多様なカルチャーや、数多くのアクションを誇るタイトルのために、ミュージックスコアを編成することはとてもチャレンジングで、巧妙な計画性と柔軟性、そして高度な技を備えた大きいチームが必要でした。私たちが作成したシステムは、スコアのインパクトを最大限に引き出すものと信じていて、ゲームプレイやビジュアルに緊密に結び付いているのと同時に、楽曲の音楽性が弱まることはありません。
Total Warの音楽の内部にある工夫を説明したこの記事を楽しんでいただければ、私たちも嬉しいです。
ジャック・メルハム(Jack Melham)
Creative Assemblyオーディオデザイナー
ジャック・メルハム(Jack Melham)はCreative Assemblyのオーディオデザイナー。BAFTA受賞作品Alien Isolationプロジェクトを完成させた後、Total Warシリーズに関わって4年、特にミュージックシステムや関連コンテンツの開発などを行う。
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