「Divinuet」のインタラクティブミュージックシステム パート 3

インタラクティブミュージック

こんにちは、また会いましたね!以前のブログ記事やWwise Up On Airへの出演でご覧になられていない方のために改めてご紹介します。私の名前はメーガン・カーンズで、コンポーザー、オーディオインプリメンター、そしてゲームデザイナーをしています。いま「Divinuet」というタロット占いから音楽を生成するゲームを制作中です。前回までのブログを読んでいない方は、まずそちらをお読みになることをおすすめします。パート1 ではゲームのReading(読み上げ)フェーズで、めくったカード1枚1枚のテーマに合わせて流れる音楽について説明しました。パート2 では、引いた3枚のカードをもとに、独自の音楽が生み出されるGenerative(ジェネレーティブ、生成)フェーズのために計画していたミュージックシステムを説明しました。

「計画していた」と過去形になっていることに気付いたかもしれません。というのも、結局そのミュージックシステムは完全にボツにして、新しいものに置き換えたからです。今回の記事は最初のシステムがどうしてうまくいかなかったのか、何を変えたのか、そして新システムでは結局何をしたのか、についてです。この過程で多くを学んだので、それをみなさんと共有したいと思います!

"Divinuet" written in large white letters across a black intertitle. Underneath, in subscript, reads "a musical tarot experience".

音楽的な目標と、最初の試みが失敗した理由

「Divinuet」のGenerative部分は、Reading部分よりもやや漠然としています。カードごとにそのテーマを再生して、それでゲームを終わりにしてもよいのでは?でもタロット占いは個々のカードだけでなく、もっと全体的な観点、カードの組み合わせが重要なのです。1枚1枚のカードに音楽を付与することも大切でしたが、組み合わせ全体を表現する音楽で占いを締めくくりたかったのです。

音楽で達成しようとした目標は、次の4つです。

1) 音楽が占いのたびに明らかに違う音楽になること。同じメロディやコードを使いまわして楽器を変えるだけでは、占いを何度かやればすぐに分かってしまうので、不十分だということです。占いをするたびに新たなエクスペリエンスとして感じてもらうことが重要でした。

2) 音楽が占いに出たカードの意味を反映すること。当たり前のことですが、適当に選ばれた音楽にしたくなかったのです。聞こえてくる音におおむね前向きな占いか悲観的な占いか、元気や行動についてなのか休息や反省についてなのか、などを反映させたいと思いました。また引かれたカードの順番も音楽に反映させたいと思いました。それは例えば1枚目が非常にネガティブで、最後のカードが非常にポジティブであれば、逆の場合と比べて明らかに違う占いとなるからです。

3) 音楽的に、どのカードも同等の重み付けとすること。引かれたカードはどれも同じく大事なので、どのカードも聞こえてくる音楽に同等の影響力があるはずです。1枚だけほかよりも重要視してはいけません。

4) 音楽として聞こえること。ちょっと変わった要件です。音楽ですから当然音楽的に聞こえるはずですよね?でもダイナミックミュージックは時として、いくつものステムが適当に重なり合っているように聞こえたり、ランダムなフェーズが次から次へと、1つのまとまりとして聞こえることなく再生されることもあります。私は基本的にきちんと作曲された楽曲として、どの音符もコードもフレーズも意味を持つ音楽にしたかったのです。

Generative音楽の最初のバージョンでは楽器もコード進行も変化が激しく、占うたびに明らかに違って聞こえました。また個々のカードの意味も、間違いなく効果的に反映していました。問題はあとの2つの条件でした。

旧システムではCard 1が一番下のレイヤーにある上に、最初に始まるレイヤーだったので、ほかの2枚よりも音楽の感じや流れに対する影響が大きかったのです。それを軽くしようと、いくつか試してみました。例えばCard 1のレイヤーでメロディが再生された後、一度他の2枚のカードのレイヤーの伴奏となり、しばらく待った後にCard 1のレイヤーで再びメロディを再生させた方が、他の2つのレイヤーに耳がかたむくのではと期待しました。でも私が何をしても1枚目のカードのレイヤーがどうしても「メインレイヤー」のように聞こえてしまい、3枚のカードのレイヤーが等しく重要であるという私の目標に反しました。

もう1つの問題は単純に、あまり音楽的に聞こえなかったということでした。複数の異なるレイヤーがいくつも重なって聞こえるだけで、1つの楽曲としてのまとまりに欠けました。これには理由がいくつかあったと思います。楽器の組み合わせの種類が多すぎて、どうしても合わない場合が出てきました。メロディ担当のレイヤーでコードを演奏している間、伴奏は1つの音またはオクターブしか再生しないという選択は、伴奏が非常につまらなくなるだけでなく、それぞれのパートが違う楽曲を演奏しているように聞こえました。つまりほかのレイヤーのいくつかの選択肢とどれと組まれても、技術的に衝突しないようなレイヤーを作った結果、それがそのまま音楽になったように聞こえてしまったのです。悪くはないですが、もっとうまくできるはずです。

これは旧システムがつくり出したと思われる音楽の一例です。

悪くはないです。部分的に結構クールなところもあります。でも私には考え抜かれて作曲された音楽というより、ばらばらのパーツを組み合わせたようにしか聞こえないのです。

新システム

Generativeフェーズの音楽を完全にやり直す決断はつらい判断でした。何しろ何か月もかけた仕事をごみ箱に放り投げるわけですから。でも決めた時点でもっと音楽的な意図をもって、新しいミュージックシステムに取り組む必要があると分かっていました。最初のシステムのときはインタラクティブに作用する音楽の要素に夢中になってしまい、コンポーザーとしての自分の直感に従うことを忘れていました。

新システムの構築にあたり自分に与えた一番の課題は、「Divinuet」のGenerativeフェーズの各インスタンスを音楽的な部品の寄せ集めではなく、作曲された完成品に聞こえるようにすることでした。

伴奏には1つの音だけ、としたルールは白紙に戻す必要がありました。ほかの状況でそのような伴奏を作曲することは絶対に考えられず(例外的に時折 ペダルノート を入れることはあっても、1フレーズ、長くても2フレーズ程度で、楽曲全部など絶対になく)、それは音楽的に非常につまらないからです。ここでも同じはずと思いました。

楽器の種類も制限しようと考えました。音楽パレットは縮小されますが、意図的に相性のいい楽器を選ぶことができるるのです。

最後にカード1枚を1レイヤーで表すというのがうまく機能しないことに気付きました。そこでもっと水平方向のアプローチに変えました。3枚のカードをそれぞれ別のミュージックセグメントにして順番に再生しますが、次々に3つの短い音楽ピースが再生されているだけにならないよう、ほかの要素も取り入れてつなげて1つの音楽にまとめていこうと決めました。

そして以下のようになりました!ここからは私がVGMTogetherの講演用につくった、Divinuetのミュージックシステムの図をお見せしながら説明します。

A process flow diagram with the title "horizontal building blocks". Beneath the title are 5 blocks, with arrows leading from the first to the second, the second to the third, etc. These blocks are "Intro", "Card 1 section", "Card 2 section", "Card 3 section", and lastly, "Vamp".

音楽は上図のような構成になっています。分かりやすいですね!曲の終わりではプレイヤーがクレジット画面に進むのか、もう一度曲を聞き直すのかを決めるまで、 バンプ(Vamp) がループします。この水平方向の積み木は、下図のようにそれぞれ最大3本のステム/レイヤーで構成されています。

"Vertical building blocks" is the title for this diagram. Below, 3 columns are stacked one on top of the other. The top one reads "non-viola melody/countermelody/high accompaniment". The middle column reads, "viola melody." The last column reads, "main accompaniment".

曲中どのセクションもMain accompaniment(メインの伴奏)があります。メインの伴奏の楽器は、一回の占いで、どのスートが多数を占めたかで決まります。楽器の選択肢は6種類あり、大アルカナ、ソード、ワンド、カップ、ペンタクル、そして多数派なし(全部のカードが違うスート)です。

IntroとVampの2つのセクションでは、メイン伴奏だけが再生されます。ほかのセクション(Card 1、Card 2、Card 3)では、素晴らしいビオリスト Drew Forde 演奏のビオラのメロディも入ります。さらにNon-viola melody/counter-melody/high accompaniment(ビオラ以外のメロディ、対旋律、High伴奏)もあり、演奏する楽器はカードのスートによって異なります。大アルカナはハープ、カップはピアノ、ワンドはカリンバ、ソードはウーリッツァー、ペンタクルスはダルシマーです。そこで例えば「カップの4、ワンドの2、ソードのキング」のカードが出たら、Card 1セクションでピアノ、Card 2セクションでカリンバ、Card 3セクションでウーリッツァーが流れます。

全体としてメイン伴奏とビオラが一貫して演奏されることで音楽がまとまり、ビオラ以外のメロディに異なる楽器の可能性があることで、個々のカードに差別化が図られています。ハーモニーやメロディやリズムも差別化につながります。

私はカードを意味に従い13種類のテーマ別グループに分けました。タロットカードの意味は千差万別なので、テーマ別グループの種類も多くなります。例を4つ挙げると、喜び、悲劇、平和、野心のグループがあります。どのグループも音楽的に遊べる余地があります!カードが属するテーマ別グループに合わせて、そのカードに対応する音楽セクションで発生するコード進行やメロディを決めます。図で表すとこんな感じです。

A diagram that pieces together the horizontal building blocks and the vertical building blocks.

各カードには3つのセクション別にテーマ別グループのコード進行が紐づけられているので、何枚目のカードとして引かれたことによってコード進行が変わり、前のように伴奏をたった1つの音でこなす必要がなくなりました。各レイヤーでコード進行に合っていればなんでも再生できます。コード進行は4種類あり、それぞれ3~4種類のテーマグループにつながっています。そのprogression(進行)は以下の通りです。

A cross table linking the 4 possible progressions (which are Major 1, Major 2, Dorian, and Minor), and the 3 card chord progressions.

例えば占いの1枚目のカードがとてもポジティブで、2枚目がニュートラルまたはミックスで、3枚目がネガティブであれば、順番にCard 1 Major 1、Card 2 Dorian、Card 3 Minorが流れるのです。

お気付きかもしれませんが、すべてFです(長調、単調、ドリア旋法のどれでも)。こうすることでカードごとに異なるキーに切り替えるときも、常にスムーズに行えるようになりました。IntroとVampは、Root、第4、そして第5(F、Bb、C)だけで構成されているので他のキーと被らず、どのコード進行にも簡単に移行できます。

楽器の種類が一貫しているので水平方向の結束感があり、コード進行が設定されているので縦方向にもまとめやすくなり、私は本当に楽しくメロディをつくり、すべてまったく違うものにすることができました。テーマ別グループごとに、カードセクションによる、特定のメロディがあります。リズムや音域、全体のトーンもバラエティに富んでいて、しかもそれぞれのテーマ別グループに関連したコード進行にこだわっています。

例えば、Card 1セクションの、ビオラのメロディを2つ、ここで紹介します。どちらもドリアンモードですが、非常に違う印象です。

Sheet music screengrab of the piece "Ambition".

Sheet music screengrab of the piece, "Peace".

さて、いよいよ全部を一緒に聞くと?タロット占いの例を用意しました。

占いの例

Three cards on top of a black background. The first is Ace of Cups, the second Queen of Swords, and the third 10 of Cups.

この回では1枚目のカードが豊かな愛情や創造性や良い感情を表し、2枚目のカードが野心と鋭さを表し、3枚目のカードが人間関係や家庭での充実感を表しています。多数を占めるカードはカップで、これはよく感情、人間関係、創造性などを表します。そして音楽は以下のような構成になります。

A diagram of the piece's musical structure based on the 3 cards picked.

ではどんなものか聞いてみてください!

旧システムの音楽と比べると作曲されたという印象がぐっと高まり、ステムがランダムにつなぎ合わさっている感じはなくなり、かつカード1枚1枚が固有の音楽で表現され、順にスポットライトがあてられます。またカードごとにセクションが分かれているため、聞き手の気を引こうとしてカード同士が争うこともありません。

もう1つ気付いたかもしれませんが、Card 2とCard 3はセクションの最初(だいたい0:55と1:36)にピックアップノートを入れています。これで一部のメロディは、もっと音楽的になり、セクション同士のつながりが増します。新しいセクションにピックアップノートを入れるときに、そのピックアップノートの再生中に再生されるかもしれないコードのどれとも、衝突しないことを事前に確認しました。先ほどのコード進行の便利な表があるので、実際はとても簡単にチェックできました。

では比較のために別の組み合わせで作成された音楽も聴いてください。

占い例を比較

Three cards on top of a black background. The first is The Star, the second Death, and the third is Queen of Swords.

今度の1枚目のカードは暗い時期に続く希望の光を表し、2枚目は終わりと移行を表し、3枚目は再びソードのクイーンなので野心と鋭さを表します。過半数のスートとなるのが大アルカナで、人生の重要な出来事や大きなテーマを表しています。

A diagram of the piece's musical structure based on the 3 cards picked.

実は星はカップのエースと同じテーマ別グループなので、Card 1セクションのメロディが同じになりますが、非ビオラの楽器として今度はピアノでなくハープが再生されます。またここにもソードのクイーンを入れてみたのですが、同じカードやテーマグループでも位置が変わればメロディやコード進行がガラリと変わるのを見てほしかったので、Card 2ではなくCard 3として入れました。そしてもちろん音楽に伴うのはカップの伴奏ではなく、大アルカナの伴奏です。

それはこのように聞こえます!

似たような占い結果でも聞こえ方がかなり違うこともあるのが、分かっていただけたでしょうか。私は早くこのゲームを完成させて、みんなに沢山の組み合わせを試してもらいたいと思います!

自分の旧ミュージックシステムから、新しいものに換える決断をして本当にとても良かったです。こんな大きな変更は大変で既に終了したものを廃棄することになりましたが、最終的に前よりも素晴らしいものができました。みなさんも直観的に何かうまくいっていないと感じることがあれば、たとえ沢山の時間を費やした後だとしてでも、仕切り直すことも検討してみてください。

この音楽システムについての詳細、Wwiseでのセットアップ方法や、コールバックを使って、つくり出される音楽に伴うミュージックビデオをつくる方法などについて、『Wwise Up On Air』の私の回で、WwiseやUnityを使いゲームと音楽の細かい話をダミアンとしているので、是非ご覧ください!

A screengrab of Megan and Damian smiling during an episode of Wwise Up On Air.

私の一風変わったアート系タロット音楽ゲームについてお読みいただき、どうもありがとうございました!もっと詳細を知りたい方や、「Divinuet」の最新ニュースが気になる方は、 私のTwitter「Divinuet」のTwitter 、または Indiegogoのページ をフォローしてください。また私の作品や経歴などにご興味がありましたら、是非 私のウェブサイト もチェックしてください。

メーガン・カーンズ(MEGAN CARNES)

コンポーザー、ゲームデベロッパー

メーガン・カーンズ(MEGAN CARNES)

コンポーザー、ゲームデベロッパー

ロサンゼルス拠点のコンポーザー、ゲームデベロッパー。特にインタラクティブでジェネレイティブな音楽に興味を持ち、音楽ベースのゲーム「inter-view」や「Divinuet」を制作。また、インディーズの2D Platformerゲーム「A Crooked Heart」の音楽を担当予定。Game Audio LAの共同主催者。

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