今、ゲームコンポーザーとしてあなたのスキルが採用されるチャンスが増えています。ミュージックデザイン、そしてミュージックインプリメンテーションは、はるか遠くの人が勝手にやっている作業ではありません。お客さんに付加価値の高いサービスを提供する方法ととらえれば、自分が関与するミュージックチームを競合と差別化して、自分の音楽の聞こえ方、さらには最終成果であるサウンドトラック、ではなくゲームが、どう聞こえるかを左右できるかもしれません!
自分はちょっと前にフリーランスになりましたが、それ以来、お客さんは私のミュージックシステムの設計経験に非常に興味を示してくれるようになりました。もちろん、この専門分野の知識を得るのに20年という長い歳月がかかっていますが、コンポーザーチームがアセット作成以外の作業もしてくれるのはゲーム開発者も大歓迎、といった手ごたえを感じています。今では見積書に「ミュージックデザイン」と「ミュージックインテグレーション」を別項目として記載するようになりました。自分以外のコンポーザーチームにも、こうしたサービスを顧客に提案することをお勧めします(「上げ潮は、すべての舟を持ち上げる」ですよ)。音楽プロフェッショナルにとって新しい機会となるばかりか、それ以上に大事ですが、自分が作曲した音楽を採用するゲーム自体のエクスペリエンスが改善されます。
パート1: 定義
ダイナミックストーリーテリング、ダイナミックメディア
このブログで、私はダイナミックストーリーテリングと、より広い意味のダイナミックメディアの対象を、ゲームに限定されない最新のデジタルエンターテイメントエクスペリエンスとしてとらえます。ゲーム業界もハリウッドも、バーチャルリアリティとミックスドリアリティ(mixed reality)に非常に高い関心を示していて、ゲームデザインの手法をナレーションの仕組みに合わせて、我こそエンターテイメントの次のブレイクスルーを成し遂げようと躍起になっています。市場も対象人口も一気に様々なベクトルで拡散し、この新しいメディア(VR、MR)と、そのエクスペリエンスで、没入感のレベルがさらに深まり、感動の種類も広がり、繊細な感情の表現につながります。
そこで上がってくる疑問は、この激変するデジタルエンターテイメントの場で、これらのエクスペリエンスに向けた音楽作曲がどのように進化していくのか、ということです。あえて言わせてもらえば、従来のリニアミュージックの作曲技法だけでは、これからのダイナミックなストーリーエクスペリエンスという市場で生き延びることができなくなり、複数の視点や、複雑なストーリー展開や、不確実なタイムライン、そしてプレイヤーの選択と参加などを考慮する必要が出てきます。
ミュージックデザインのどこ、いつ、どのように
ゲームの音楽をどこで、いつ、どのように再生するかを決めるクリエイティブな作業はあまりにも軽視されていて、正式な業界用語がないくらいです。私たちは、ややぎこちなくミュージックインプリメンテーションという名称を用いることもありますが、これはゲームオーディオエンジンで行う音楽設定の技術的な作業を指すのが一般的で、すでにいつ、どこで、どのように、というクリエイティブな決断は終わっていて、技術的な制作作業をすれば良いだけだと解釈されてしまいます。
この記事、そして私がフリーランスコンポーザーとして仕事をするうえで、一連のプロセスをミュージックデザインという用語であらわし、ミュージックデザイナーとは、ゲームプレイ中の音楽がどこで、いつ、どのように設定され再生されるのかを、ゲームデザインや開発の担当チームと協力して決める人を表すのに使います。この作業結果がミュージックデザイン計画で、音楽制作チームのクリエイティブな、そしてテクニカルなロードマップができあがります。
ダイナミックストーリーテリングとゲームの為のスポッティングセッション
スポッティングセッション(spotting session)は、映画やテレビ業界で使われる用語で、音楽のキューや、音楽のエントリー、時間、トランジション、そして終了の設定作業を表しています。リニアメディアでいうどこ、いつ、どのように、です。この用語をダイナミックストーリーテリングに直接適用できますが、手順自体は、ゲームプレイの変化や、細かく分かれたストーリーラインや、不確定なタイミングなどを考慮するため、異なります。
ダイナミックメディアのスポッティングセッションは、まず目の前のゲームエクスペリエンスに慣れて、アーリービルドをプレイして、ディレクターやゲームデザイナー、そしてオーディオディレクターと検討を重ね、デザイン手順書(あれば)を読むところから始まり、映画業界のコンポーザーがディレクターと協力してアーリーエディットを見るのと似ています。これが、ミュージックデザインプロセスの第一歩です。
すべてのゲームミュージックが、アダプティブミュージック
アダプティブ(適応する)ミュージックが、必ずしも複雑なミュージックシステムとは限りません。私の大好きなゲームスコアのほとんどが、エレガントでありながら驚くほどシンプルなミュージックデザインです。全体のうちのどこにあるのかという度合いの問題で、アダプティブかどうか、という2択問題ではありません。クロスフェードする長いループの続く音楽でも、ゲームコールに対応しています。この話をするのは、アダプティブミュージックと呼べるのが、特殊で複雑なインタラクティブミュージックのシステムだけだとよく誤解されるからです。だから、ゲームの構造やプレイヤーの行動が、どのゲームでも音楽の再生に大きく影響しているのだと再認識することが大事なのです。ゲーム音楽は、すべてアダプティブミュージックなのです。
パート2: 現状は?
今日のミュージックデザイナーは誰?
最も成功しているケースでは、社内のコンポーザーや大手パブリッシングスタジオのミュージックスーパーバイザーなどがミュージックデザインを手掛けていることが多く、稀にフリーランスでありながら開発スタジオと長期に渡り緊密な関係のあるコンポーザーなどが関与しています。最近では、社内にミュージックインプリメンターがいるようなゲームスタジオも出てきました。しかし多くのゲームでは、重要な音楽的判断をしているのは、プロとしての音楽経験がわずかしかないか、皆無の人たち、例えばゲームデザイナー、プロデューサー、プログラマーなどです。オーディオディレクターが関与することも多いですが、彼らの本来の責任範囲を考えると(管理、サウンドデザイン、ダイアログ、ミュージック、サウンドテスト、外注など)、頭の中でミュージックデザインの占める割合は僅かのはずです。
このため、ゲームの音楽作曲にマンネリ化がみられ、ゲームコンポーザーと、彼らの音楽でサポートしようとしている媒体の間に深い溝ができてしまったのではないかと思います。フリーランスのコンポーザーがプロジェクトに関わる時点で、すでにミュージックデザインは終わっていて、コンポーザーはミュージックキューの準備されたリストを満たすために、スクリーンショットや動画を見るだけで、ゲームそのものを経験することはありません。
見て見ぬふり
本当のことを言うと、この関係に不満を持たない現役ゲームコンポーザーも多く、ミュージックデザインやインテグレーション部分は他人任せです。今日の業界では、生産効率や昇進の観点で理にかなっている話です。コンポーザーは、リニアメディアで取得したスキルを向上させることに集中でき、画像に合わせたスコアを作曲する必要もなくゲームの音楽キューに専念し、その過程で美しいサウンドトラックを生み出します。そしてこれがまた、将来のゲーム関連の仕事や、映画またはテレビの仕事につながるような最高のデモとなります。当然、プロのコンポーザーはリニアもノンリニアも、すべてのメディアを対象に仕事をしたいと考えるわけで、ダイナミックストーリーテリングに特化したスキルを取得しても、自分のキャリア全体の目標からそれてしまうと感じるかもしれません。
ただコンポーザーと、作曲対象の媒体の乖離は、それなりの犠牲を伴います。多くの素晴らしき例外的事例もありますが、ゲームの音楽が上手くインテグレーションされていないことが多いのも事実で、ユーザーはスコアに飽きて完全に音を消すことがあります(音楽自体は非常に優れていても!)。一方、グラフィックスは正確にリアルタイムについていき、詳細なゲームデザインシステムが開発され、ダイナミックストーリーテリングに合わせた感情的なニュアンスの表現が実現するなど、目を見開くような映像側の改善と比べ、音楽をゲームの映像に合わせて作曲するという作業は、実にのんびりしたペースで進んでいます。
自問自答してください。あなたが獲得したVRプロジェクトのディレクターが、音楽がキューからキューに変遷するときのアイディアを語り出したら、彼女と知的な会話ができますか?それとも、その部分の作業は別の音楽制作会社に譲らざるを得ないですか?新たなゲームの仕事を狙うゲームコンポーザーとして、経験豊かな映画コンポーザーよりもあなたの方が明らかに有利な点は、何ですか?ミュージックアセットのリストをこなしているだけであれば、特に何もなく、唯一の付加価値はクライアントとの関係くらいです。
パート3: 作曲プロセスの一貫としてとらえる、ミュージックデザイン
ミュージックプロダクションチーム
私たちは誰もが得意分野をもち、すべてをこなせる人などいないはずで、作業の一部をオーケストレーター、作詞家、指揮者、ミキサーなどに依頼します。このようなとき、パートナーを慎重に選び、長期の信頼関係を築き、自分の音楽の方向性を大事に扱い、最終製品で最大限のサウンドを発揮できるようにします。
それではなぜ、我々コンポーザーはミュージックデザインやインテグレーションを軽視するのか?自分の曲をクライアントに渡して、そのオーケストレーションを一度もあったことのない音楽の素人であるプログラマーに任せてもいいのですか?クライアントのインテグレーション計画を鵜呑みにするともったいないだけでなく、音楽の内容を聴くあなたの「聴覚力」を、クライアントから奪うことになります。たとえあなたのミュージックインテグレーションの技術的知識が限られていても、あなたが耳をゲームに向けてくれるのは、ほとんどのクライアントにとって嬉しいことのはずです。
このような力を自分の武器とするには、アプローチが2通りあります。クリエイティブなスキルや技術的なスキルを自分で学び開発したり、有能なコラボレーターを探し出して一緒に作業したりします。複数の役割を1人または複数の人で担うことができ、例えば提携したコンポーザーが、指揮者の役割を果たせることもあります。
ミュージックデザインとインプリメンテーションの、役目と詳細
ミュージックデザイン
- クリエイティブコンサルティング:詳細デザインを作成し、上記のとおり、音楽再生のどこで、いつ、どのように、を決めます。あなたの耳とイマジネーションを活躍させてください。既存の「アダプティブミュージックの技法」や教科書通りの定義に縛られて委縮することのないように。
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デザインディレクターやオーディオチームとのコラボレーション
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- テクニカルコンサルティング:クリエイティブなデザインをもとに、現実的な制作計画を確立させます。どのような音楽アセットが必要でどう実装するかの判断が含まれます。また、デザインに最適なツールを決め、ミュージックシステムのメモリフットプリント、ロード戦略、RAM使用、CPU消費などの技術要件を予測します。
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テクニカルディレクターやプログラマー、そしてオーディオチームとのコラボレーション
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ミュージックインプリメンテーション
- 音楽アセットをオーディオエンジンにインポートし、ミュージックデザインに従ってノンリニアのDAW環境における再生の設定と調整を行います。
- ゲームデザイナーやプログラマーと協力して、ゲームフック(オーディオ・ミュージックエンジンと、ゲームエンジンとの接続)を設定します。
- ゲーム向け商用オーディオ・ミュージックエンジンとして、AudiokineticのWwise、Elias SoftwareのElias、Firelight TechnologiesのFMODなどがあるほか、UnityやUnrealゲームエンジンの組込みオーディオ機能もあります。
さらに深く
あなたの音楽的ジャーニーは、ミュージックインプリメンテーションで完結するのではありません。個別のゲーム要素や仕組みに接続する必要があります。これから記載する仕事を行う人たちと良い関係を保てば、効果的に行えます。
- ゲームエディターの仕事:ゲームエンジン(UnityやUnreal)とオーディオエンジンのつながりを作成します。
- ミュージックスクリプト:必要に応じて音楽にロジックプロセスを追加し、ハードコードなしで対応します。
- オーディオプログラミング:UnityやUnrealなどの商用ゲームエンジンを使った最近のゲーム制作ではオーディオプログラミングを最小限に抑えるのが理想ですが、それでも非常に大事で必要な作業です。
もちろん、すべて提供する必要はありません。ミュージックデザインで協力するだけでも、大きな一歩です。ここでのカギは、クライアントや開発チームが助かるようにサービス提供をとらえるということです。制作作業を、代わりにしてあげます。彼らの仕事量を増やすのではなく減らし、同時にゲームを向上させます。
パート4: 仕事を勝ち取ってお金を儲けるまで
仕事をとる
あなたの既存顧客からスタートするのが、新サービスの提供方法として妥当だと思います。既にコンポーザーとしての仕事をとっていれば、ミュージックインテグレーションの計画について聞いてみて、助けて欲しいか聞きます。小さくスタートして、そこから広げていきます。
新規顧客や有望な顧客については、ミュージックデザインやミュージックインプリメンテーションをオプション作業として、見積もりに別項目として追加します。お客さんも最初は躊躇するかもしれませんが、見積書の項目として目にすれば、業界でこれらの役目を確立させるのに貢献できます。いくつか仕事をこなしていけば、お客さんも試してみようと思うかもしれません。
あなたがもし若いコンポーザーで業界も初めてであれば、この技術をベテランコンポーザーに持ち込めば、お互い、ゲームの仕事につながるかもしれません。同様に、ベテランコンポーザーは、こういった能力をもったアシスタントコンポーザーやインターン生を探すのも良しです。
以上はどれも売り込みが必要で、説得力のあるデモ、例えば今までのゲーム関連の成果や、Wwiseのプルーフオブコンセプトなどを持ち込むのが最善の方法です。聞けば、納得してくれます。
請求方法と請求額
ミュージックデザインやインプリメンテーションの請求額について、前例は特にありません。あなたの経歴や、プロジェクトの規模と予算にも関係します。今のところ週単位や日単位のレートを別項目として見積もるのがいい方式だと感じています。ミュージックデザイン料を固定料金にすれば、クライアントはコストが予測しやすく喜びます。また、ミュージックデザインと作曲の両方を含む料金にする方法もあります。ただしこの場合は、必ず2つの役割を明記し、あなたがより多くの仕事をすることをクライアントに認識してもらった方がいいと思います。
まとめ
当然、この真新しい機会は自動でも簡単でもありません。黄金が転がっているわけがなく、全員が金を探し回っている状態です。道は平らでまっすぐではありません。どちらかというと森の中の細道であり、今は木を切り開きルールを決めていく段階です。正直なところ、まだアーリーアダプター、イノベーター、そして冒険家たちの時代です。確かにビジネスリスクはあります。でも、長い目で見ると、今のままでいる方がリスクは高いかもしれません。
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