前回のWwise Interactive Music Symposiumでは、業界最前線で活躍するパネリストたちが集まり、インタラクティブオーディオのビジネス面について話し合いましたが、これは作品そのものと同じくらいに大切なことです。専門家としての意見を提供しながらモデレーターをつとめたのは、Hexany Audioのオーナーでありオーディオディレクターのリチャード・ルドロー氏(Richard Ludlow)です。あなたは、成功するためのネットワークづくりをしていますか?GameSoundConの創設者でありエグゼクティブディレクターのブライアン・シュミット氏(Brian Schmidt)、Kraft-Engel Managementでエージェントをつとめるサラ・コバックスス氏(Sarah Kovacs)、弁護士のジェフ・W・ローズ氏(Jeff W. Rose)、そしてMateria Collective LLCグループのCEO兼創設者のセバスチャン・ウォルフ氏(Sebastian Wolff)が、この質問に一緒に答えてくれました。
作曲という旅に、弁護士を迎え入れる理由
なぜ、コンポーザーに弁護士が必要でしょうか?パネリストで弁護士のジェフ・W・ローズ氏は、これまで主にゲームオーディオに携わるコンポーザーを手伝ってきました。コンポーザーはいつ弁護士に連絡をすればいいのか、と尋ねられ、ジェフは「契約書を見た瞬間」と回答。「仕事をし始めた瞬間に。」こう言われると恐れ入ってしまいそうですが、弁護士は事業を確立するのを手伝ってくれる立場にあり、コンポーザーのゴールを理解し、正しい道を進んでいることを確認してくれる、とジェフは言います。また、たとえ弁護士を雇える立場になくても、すぐに弁護士に連絡することを躊躇しないでほしい、と話します。ビジネスであることに違いはなく、成功を納めるのに一番確実な方法は、アドバイスをしてくれるチームをもつことだ、というのがパネル参加者全員の意見でした。弁護士は、このチームの一員なのです。
顧問弁護士は、法的な助言を行うほか、必要に応じて法人の設立を手伝ったり、従業員との契約内容を確認したり、あなたのコンテンツを売買するときや、そのコンテンツを顧客にライセンス提供するときに助けてくれたりします。あなたのニーズを専任アドバイザーとして戦略的な観点で理解してもらえるので、あなたは、素晴らしい音楽づくりとビジネスの成功に専念できます。
エージェントがあなたの資金を守る
サラ・コバックス氏は、エージェントがゲームオーディオのコンポーザーをどのように助けることができるのかを紹介しました。どの案件を受け入れるのかを決めるときに、エージェントは仲介する資格を持っています。エージェントは、あなたに代わってお金の話をし、細かい数字や権限や使用料の割合などを交渉してくれます。なお、取り引きの詳細は重要ですが、これはコンポーザーのためにエージェントがやれることのほんの一部に過ぎない、とサラは説明します。実は、エージェントの時間の大半は、成功し続けるためのコンポーザーの意思決定を助けることに費やされます。たくさんの案件がある中で、どうやって選ぶのか?
サラは、自分のクライアント、つまりコンポーザーが仕事を選ぶときに、検討事項をまとめた3つの「バケツ」を引き合いに助言します:
1. 自分のキャリアのためになる仕事か?
2. 自分の銀行口座のためになる仕事か?
3. 自分の心のためになる仕事か?
自分のキャリアがどの段階にあるのかによって、3つの検討事項のなかから1つ以上を選ぶことで、引き受ける仕事を決められる、とサラは詳しく述べました。エージェントは、どの交渉に「Yes」と答えるのかを選ぶときに助けてくれるのです。あなたはコンポーザーとして自分のキャリアに投資するわけで、エージェントは、コンポーザーが限られた自分のリソースをどこに向けるかを戦略的に選ぶのを、一緒に考えてくれます。
さらに、契約がどのように交渉されるのかを説明しながら、サラは、コンポーザーが自分の音楽権利を保持できるような契約になっているかを確かめるのもエージェントの仕事だと言います。権利に関しては、プロジェクトのあなたの権利は、契約交渉の一部となります。また、経験の浅いコンポーザーにとって重要な情報として、会社側は、公的な場での演奏収入を得る権利をコンポーザーに許可したところで、何も損をしない、と彼女は指摘します。契約の内容は型にはまった形式があるわけではなく、交渉をする際は自分の陣営にエージェントに入ってもらうことを検討してみてください。
職務著作(Work-For-Hire)契約は、コンポーザーの権利にどう影響しますか?
職務著作とは、「私は、誰かのために、これをやっています」と宣言する契約上の合意で、あなたの創造したものに対する所有権は、あなたを雇った人または会社に付与されます。もし会社の社員であれば、あなたの仕事はすべて自動的に職務著作となります。著作権法は、具体的な契約のもとであなたが創作した作品の、所有者について定めています。
職務著作の状況においては、詳細が契約書に書かれています。この法律はいくつかの段階があり、できるだけ内容を弁護士と共に読むことが賢明であると、パネリストたちの意見が一致しました。実際の契約書は、パブリッシャが作品から利益を得ようとするときに、その所有者が誰なのかを明確にしておく必要があるので、パブリッシャにとって、重要です。
レコード会社やミュージックパブリッシャが、コンポーザのためにできることは?
最近は、自分で簡単にパブリッシュして、配信して、権利を管理できます。ただし起業家という立場では、自分の事業のあらゆる側面を詳しく見る時間は、限られています。パブリッシャと協力すれば、時間をかけ豊富な知識を活かしてビジネス面を管理してくれるので、この部分に関してあなたの負担がなくなります。あなたにとっては事業のほんの一部のように思えても、パブリッシャにとってはこれが業務の内容そのものです。
パブリッシャが、音楽権利の管理や、音楽配信や、物理的な媒体の印刷などを担当してくれます。彼らはチームの一員として取り組んでくれるので、あなたがチャンスを活かせるように手伝ってくれます。ビデオゲームのコンポーザーがロイヤリティや使用料を獲得する手段は、何百とあります。あなたの財産です。一生ロイヤリティを受け取り続ける可能性もあるのです。
長年のあいだ、著作権は変化してきたのでしょうか。
著作権は意外にも変わっていない、とブライアン・シュミット氏は話します。ブライアンが仕事をし出した頃は、誰もが会社の社員であるという80年代で、何事も職務著作という扱いでした。フリーランスで働く人は、まだ珍しかったのです。その後、業界の仕事の仕方は大きく変化しましたが、著作権法はそうでもありません。
ビデオゲーム業界以外で働くコンポーザーの誰もが驚くのが、ビデオゲームを買ってプレイする、という通常の流れの中で、法的には、演奏が発生しているとみなされず、演奏の著作権の支払が発生しないということです。自分のゲームミュージックで、公的な場での演奏に関連するPRO(Performing Rights Organization)収入を受け取れないことに驚きます。
一方、ゲーム業界の弁護士はPROが何であるかを知らないことが多いです。ブライアンの経験上、雇う側の会社は、PROの条項を契約書に入れたり、社内で契約書を書くリーガル部門を教育したりすると、かなり複雑なことになるので、契約書に盛り込まないようにするとのことです。なお、ジェフリー・ローズ氏は、交渉をしたゲームデベロッパの間では、この分野で多少の動きがみられる、と言っています。
サウンドトラックの売上に対する作曲家の報酬はどうなっていますか?
契約の内容は様々で、ゲームのサントラの売上収入の分け方も違います。報酬の額は、まさに個々の案件で変わります。業界標準があるわけでもなく、音楽の世界には、エッジケースや例外があふれています。サラは、自分の経験上の分配率を説明してくれましたが、どれも標準値があるわけではありません。コンポーザーは、アーティストとして8~9%を受け取り、プロデューサーとして3~4%を受け取るようです。
標準的な契約はない、ということが見えてきました。クライアントによって、ニーズや懸案事項も異なります。あなたのキャリアが発展していくにつれ、仕事でのお金の稼ぎ方も変化するので、経験豊富な人たちが助言して支えてくれるのは、様々な面で必ずプラスになります。自分のキャリアを成長させて新たなチャンスをつかむために、プロたちのネットワークを自分の味方につけたければ、パネルディスカッションの動画も是非ご覧ください。
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