『Star Trek: Dark Remnant』の音 VRで伝説の世界を再現

ロケーションベースエンターテイメント(LBE) / VRエクスペリエンス

アメリカのエンターテイメント施設Dave & Buster’sは、エクスペリエンス第3弾となる『Star Trek: Dark Remnant』を北米の約120か所でスタートしました。プレイヤーは宇宙ゴミや邪悪なクリンゴンから宇宙船エンタープライズを救おうと、定員4名の宇宙船U.S.S. ガリレオに乗り込み、スターフリートの最新で最先端の宇宙研究船で定例の避難活動に出発したところ、問題が起きます。このエクスペリエンスでは様々なプレイヤーキャラクターが出現し、結末も変化します。Hexany Audioは、映画で使われたレガシーアセットを、自分たちのSFXや音楽に組み込み、オーディオによる没入感とインタラクティブ性で伝説の世界を再現しようと挑みました。

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HEXANY AUDIOがDave & Buster'sのロケーションベースエンターテイメント(LBE)に携わるのは、これで3回目ですね。今回、プロジェクトのほかのチームやステークホルダーたちとの協力体制で変わったことはありましたか?オーディオ関連の作業は、開発のどの段階で始まりましたか?

アレックス: 今回のコラボレーションでは、私が個人的に、今までのプロジェクト以上に現場に加わりました。毎週行われたVRstudiosやStrange Reptileとの電話会議に、リチャード・ルドロー(Richard Ludlow、オーディオディレクター)やブラダン・ドットソン(Bradan Dotson、プロデューサー)と共に私も参加して、自分の感想や意見を伝えました。おかげで、私たちはゲームに入れられる内容を見逃さずにすみ、最終的に、私たちがバランスよくプロジェクトを見渡すことができました。リチャードやブラダンは、どちらかというと全体を見てくれ、私は現場主義なのでディテールに集中しました。


オーディオは基本的に、物事が進み始めるとすぐに参加しました。オーディオ面のニーズをいち早くくみ取るように努力したので、締切り間際に追加や変更で不意打ちを食らうのを避けることができました。

伝説的なユニバースを再びつくるにあたって、クリエイティブな自由度はありましたか?このようなプロジェクトは、まずどのように手を付けようと思いましたか?

アレックス:  私にはクリエイティブな自由度がかなり与えらえ、リード・サウンドデザイナーとして、とても嬉しかったです。もちろんスタートレックらしく聞こえるようにしなければならないのですが、スタートレックをVRに「翻訳」していくには、没入感を深めるために自発的に決断しないといけない面もありました。

基本的なアプローチとして、由緒あるサウンドを使い、それにできるだけ近づけようとしました。何らかの理由で、もしそれがうまくいかなければ、そのサウンドをベースにさらに発展させるか、自分なりのアプローチで進め、オリジナルサウンドを私の音の「パレット」にして、絵を描きました。

作業を進めるにあたって、映画のアセットがレポジトリとして提供されたのですか?クリエイティブな理由や、技術的な理由で、アセットをつくり直さないといけないこともありましたか?

アレックス:  幸い、私はエイブラムス時代のアセットのうち、かなりの数にアクセスできました。これが、今回の多くの音の良いスタート地点となってくれました。ライブラリにはたくさんの宇宙船サウンド(ワープイン、通過、コックピットUI のピーッ音など)や、ブラスター音が豊富に取り揃えられていて、ほかにもアンビエンスや警告音、テレメトリ音なども適度に入っていました。でも、アクセスできたブラスター音はハンドヘルドのピストルタイプのブラスターだったので、ゲームに出てくる様々な宇宙船のウェポン音は、私が改めてクリエイティブな権限を行使するしかなかったのです。レガシーアセットだけでは、大型の宇宙船に乗船したり、クリンゴンに襲撃されたりする感触を、私が思うほどガツンと感じさせることができませんでした。元のブラスター音を基準にしましたが、それでも多少の自己判断をして、宇宙船のウェポンをほぼ完全にデザインしなおして、小さなピストルではなく、宇宙船からの発砲に聞こえるようにしました。


レガシーのアセットと、このエクスペリエンス用に改めてカスタム化した新サウンドを重ね合わせる際に、どうやってバランスを取りながら、本来の音響性を保ちつつ、没入感と信ぴょう性のレベルを上げたのですか?

アレックス: レガシーアセットは、入手できる範囲で、すべての音の大体の基盤となりました。物足りなくなければ、その音がVR環境でもちゃんと聞けるように最小限の処理を施して、環境エフェクトやスウィートナーを多少追加するだけにしました。宇宙船エンタープライズのワープインが、そのいい例です。レガシーサウンドをほぼそのまま使い、コンプレッションやEQでミックスを微調整しました。ところがかなりドライな音だったので、フランジャーの効いた爆発音のテイルや、非常にピッチの低い動物の鳴き声など、少しだけ環境音を重ねました。SF的な爆発を少し加えてワープインのあとの空間を埋め、エンタープライズがもう少し激しく入ったように感じさせ、その瞬間の激しさを強化しました。

そしてアンビエンスなどには、キャビン内のコンピュータやテレメトリ音などの切れ端を使って、自分の音とブレンドしました。なお、ガリレオは新しい宇宙船なので、そのSFXは自分で一から開発しました。スタートレックユニバースに出てくるほかのエンジン音はとても特徴的で、再利用するわけにはいきませんでした。入手できた既存エンジン音を分析して少し分解してから、自分でガリレオのエンジン音をつくりました。そうするとスタートレックのファンに馴染みのあるサウンドがちょうどよくミックスされ、新しい音で現代的な雰囲気を出しつつ、スタートレックらしい音になりました。

このエクスペリエンスに向けて、各種サウンドの優先順位をどう決めましたか?プライオリティ付けのために設計したシステムがあれば、教えてください。

ニック: 同じワールドに、プレイヤーが4人まで入れるエクスペリエンスなので、ローカルのプレイヤーを、ほかのプレイヤーよりも優先させました。具体的には、自分のワールドでは、自分のフェイザーの銃撃音の方がほかのプレイヤーのものよりも大きく聞こえますが、それは自分のショットのインパクトを、ほかのプレイヤーのものよりも強く感じてほしかったからです。ある意味、だれもが自分のエクスペリエンスや行動に合わせてカスタム化されたミックスを聴きます。

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プレイヤーがこのエクスペリエンスの中にいるとき、プレイヤーをガイドして視線を誘導するのに、オーディオはどう役に立っていますか?

アレックス: 『Star Trek: Dark Remnant』でプレイヤーを誘導するのに、ボイスオーバーを活用しています。プレイヤーが何に集中すべきなのかが分かるように、そして同時にストーリーが前進するように、多数のセリフを用意しました。

サウンドデザインの観点からいうと、ゲームの大部分は比較的リニアな構成になっています。いくつかの場面はまるで映画の音のカッティングのように取り組めました。惑星の崩壊など派手な場面にプレイヤーが入るときに、この惑星が徐々に不安定になる様子を表すために振動と音を追加しました。プレイヤーはヘッドセットで頭を回せるので、音を3次元に正しく設定して、脅威を表す音が正しい方向から聞こえるようにするのが鍵でした。クリンゴンのバトルクルーザーはファイトシーケンスで何回もクローキングしたり、クローキングを解除したりするので、戦闘の混乱のなかでクリンゴンが見つかるように、正確にすることが重要でした。

没入感のためにバックグランドやアンビエンスのディテールに充分に気を配りながら、クリーンなミックスを維持してプレイヤーがシーンの一番重要な要素に注目し続けるように、まとまりのあるサウンドトラックを目指すことは、何かの方式でバランスをとったのですか?

アレックス:  プレイヤーの没入感を維持しながら、必要な情報を提供できシステムが、複数ありました。まず最初に、キャビン内でスペーシャリゼーション処理をしたコンピュータなどのようなアンビエンスは、すべてAzimuthパラメータが設定され、プレイヤーがそれを見ていなければ音が静かになるようにしました。こうすれば、特に最初の余裕がある頃は、周りを見て様子を確認しながらアンビエンスを楽しめるようにしておいて、いざプレイヤーの関心がゲームプレイに移ったときは、ミックスが混乱しないようにしました。

『Star Trek: Dark Remnant』のエクスペリエンスに、独自シミュレータプラットフォームとHTC Viveヘッドセットを使用しています。今回は自宅内ではないVRエクスペリエンスということで、このエクスペリエンスで特に配慮した点は何ですか?

アレックス:  実は、私が一番気を使ったオーディオのポイントは、Dave & Buster’sの環境が個人宅と比較して非常にうるさいことです。つまり自分が実装したい控えめで繊細なディテールはうまく使えないので、ミックスの中を突き抜けてくれる明瞭なアセットをデザインすることに専念して、あとは邪魔をしないようにしました。

オブジェクトベース方式とアンビソニックスをどのように調節して、立体感のあるまとまったミックスを達成したのか、詳しく教えてください。

リチャード:  ゲームで我々がやったことはすべて、実はオブジェクトベースだったので、アンビソニックスは使っていません。シンプルな方が効果的なこともあり、このプロジェクトでは、これが一番だったのです!

ニック:  ほとんどの場合、聞こえてくる音はすべて空間にあるオブジェクトに添付されています。どこにも添付していない音に関してはWwiseでEmitterのAutomation設定を使って、プレイヤーのところにあるかのように、音を手作業で配置してワールドの中で動かしました。

クリエイティブな課題やテクニカルな問題で、行き詰ったことはありましたか?もしあれば、クリエイティブな決断や、テクニカルな選択に、影響しましたか?

アレックス:  自分にとって一番の課題は、本当に環境関連でした。さっきも言いましたが、ゲームはDave & Buster’s施設にあるので、ミックスがたくさんの雑音のなかを通り抜けるには、超クリアでなければいけません。プロジェクトの最初の方で、私は不要なディテールをあまりにもたくさんデザインしたので、音を本当にクリアにするために、やり直してレイヤをいくつも除去しました。私がデザイン過程で自分のスピーカーで聞いて素晴らしいと感じる控えめな音の多くが、ゲームに入れ込むと、ただの邪魔になることに気づきました。

Wwise機能のうち、あなたたちのクリエイティブな方向性を実現するのに特に役立ったのはどれですか?

ニック: Wwise Meterは、RTPCを添付できるので、たぶんWwiseで自分が一番好きな機能です。私はサイドチェインコンプレッションの大ファンなので、ボリューム以外にもこの考え方を適用できるとなると、たくさんの可能性が開けてきます。私たちが気に入った使い方の一つは、常に再トリガーされているようなワンショットを、ゆっくりと減らしていくことです。例えば、プレイヤーが何度も繰り返してフェイザーやシールドを使っている場合は、プレイヤーが撃つのをやめてメーターがリセットするまで、ボリュームを少しずつ下げます。そうした方が第一打撃の印象が強烈になるのと同時に、ほかの音や音楽のための「間」を空けられます。

このプロジェクトで、一番誇りに思うことは?

アレックス:  私が一番好きだったのは、第2幕に入るときのオープニングシーケンスのデザインです。このセクションには本当にたくさんの愛情を注ぎ込み、プレイヤーがストーリーに引き込まれ、ゲームのトーンが分かるようにしました。ワープスピードのシーケンス中のエンジン音は、基本的にシェパードのトーンで、あの徐々に強まる不安感を利用したかったのです。同時に、ワープシーケンスから出て、不安定な惑星の魅惑的な景色を見るプレイヤーは、強い解放感を感じます。そうする間もプレイヤーが惑星に近づくにつれテンションが高まるようにして、とうとう惑星は炸裂して第2幕が始まります。

このプロジェクトで、一番楽しかったことは?

アレックス: 私はゲーム開発の最初のころが、すごく楽しかったです。それは、このゲームの音を真剣に学び、調整していく時期でした。スタートレックならではの印象的なサウンドの重みを感じながら、必要に応じてゲームに自分で音を追加したり発展させたりできるように、余裕と自由をバランスよく維持する必要がありました。このゲームは、惑星が炸裂したり、巨大な宇宙船が破壊されたり、ワープスピードで時間が流れたり、本当に大げさな場面をデザインする機会がたくさんあって、どんなサウンドデザイナーにとっても夢のような話でした。

Richard Ludlow   Audio Director, Owner Alex Barnhart  Sound Designer Nick Tomassetti  Technical Sound Designer

 

HEXANY AUDIO(ヘキサニーオーディオ)

HEXANY AUDIO(ヘキサニーオーディオ)

Hexany Audioは米ロサンゼルスを拠点とし、ゲームやインタラクティブメディア向けサウンドデザイン、作曲、そしてボイスオーバーを提供する、業界トップのプロバイダー。オーディオディレクターのリチャード・ルドローと、リードコンポーザーのマシュー・カール・アール(Matthew Carl Earl)が共同で所有するHexany Audioは、ゲーム向けのオーディオをユニークな方法でつくり出し、世界中の優秀なゲームスタジオと協力しながら、カスタム化されたオーディオソリューションを様々なプロジェクトで実現。

https://hexanyaudio.com/

 @HexanyAudio

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