はじめまして。ゲームチームBlazing Griffinのオーディオデザイナー、ジェイミー・クロスです。数か月前にMurderous Pursuitsをリリースしたので、自分が何をやってきたのかを、皆さんにお伝えしたいと思いました。このブログ記事では、コアの機能の1つである“Vignette”システムのオーディオソリューションを紹介します。今回の内容は、
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元々のコンセプトと、オーディオの要件
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ダイアログのレコーディオングや編集方法
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WwiseとUnityを用いた、システムデザインと実装
Murderous Pursuits をまだプレイしたことのない人のためにご説明すると、ビクトリア朝の、生きるか死ぬかをかけた1~8人用のステルスゲームで、他のハンターに見つかる前に獲物を射止めて殺さなければならず、その上、目撃されてはいけないのです。今すぐ、Steamで購入可能!
まず、Vignettes(短い会話)とはいったい何か?忍び寄るようなゲームプレイの途中に、レベル内の複数の場所でプレイヤーが環境に溶け込むために発生したり、ハンターから逃れたりQuarry(獲物)を追って急に襲ったりする時に、人込みに紛れ込むために発生したりします。以下のような流れです。
Vignettesシステムは、ワールドを生き生きとさせてくれると同時に、ゲームプレイの目的にもかなっています。人々が集まった時は、レベルが賑やかに感じられるように(聞こえるように!)会話に花が咲き、ワールドやキャラクターが少しビルドされていきます。キャラクターには3つのステート、具体的にはポジティブ、ネガティブ、ニュートラルがあり、それによって会話のアニメーションも異なり、うなずきや反発などの偶発的なリアクションも取り入れながら、同じことの繰り返しに見えない、聞こえないように、工夫されています。要は人が集まった時の実際の会話を模しているのです。
読者は「ボイスオーバーが大量に必要だろうな」なんて思っているでしょうが、それは間違いなく、特に、恐るべき「ダイアログがループする」状態を避けたかったので、かなり意識しました!
そこで妥協案として、また予算やスケジュールも考慮して、クリエイティブディレクターのキットカット(Kitkat)がSimlishの採用を提案し、所々に本物の言葉やフレーズを挟み込んでキャラクターが何かを話し合っているかのようにする方法を考えました。コメディー調のゲームの雰囲気にも合っていて、キャラクターが今までの失敗談を突拍子もなく話し始めることもあります。コメディー番組Fast Showに出てくるDrunk Guyのスキットと少し似ています:
これで会話用のVignetteに必要なスクリプトが、キャラクター1人に対して200ワードまたはフレーズまでグッと縮小され、よりテクニカルなソリューションとなったので、Simlishで話されるランダムなセリフを並べるためのプレイバックシステムを設定し、時々、本物の言葉が投入されるようにしました。ただし、その前にSimlishがどう聞こえるのかを決めなければなりませんでした。
知らない人のために説明すると、SimlishはThe Simsシリーズのゲームで話される言語です。プレイヤーのSimがしゃべるとき、会話に一定の意味を込めるために、できるだけユニバーサルなデザインに近づけた言語ですが、ボイスオーバーのリピートや、発売言語へのローカリゼーションなどの心配を排除した現実的なソリューションでもあります。現在、Simlishにはアルファベットがあり、大まかではあるものの、範囲の広いフレーズ本があり、 Simlishに訳された現実世界のポップソングも存在します。詳しくは、ここで説明しています。
Planet Coasterも、ワールド用の独自ランゲージであるPlancoを使い、似たようなソリューションを持っています。ただし、それは機能的なランゲージとしてデザインされたもので、専用の公式辞書があるくらいです。そのデザインプロセスについて、詳しくはここで。
残念ながら、私たちはそこまで細かいことをやる時間も予算もなかったので、少し軽めのソリューションを採用しました。つまり声優に、3種類のトーンで、長さを変えながらSimlishを話してもらったのです。また、この要件を4種類の長さにまとめ、Short、Medium、Long、Questionsに分けました。これらの設定の中でも、各キャラクターでフレーズの長さをある程度変えて、それぞれのクセを表現しました。
例えば、Brute(粗野な男)の短いフレーズは1秒から2秒ほどで終わり、長いセリフは8秒程度です。単刀直入に話す人なのです。
一方、Admiral(司令官)のフレーズは、短いものは3秒から5秒、長いものは20秒以上になることもあり、自慢気質で冗長な性格がよく表れています。
会話の「流れ」を意識し、Simlish的な言葉や本物の言葉が、単語同士またはフレーズ同士でつながる可能性も、検討しなければなりませんでした。
では、実際のレコーディングはどのように行われたか。The SimsやPlanet Coasterは統一感のあるワールドランゲージを目指していましたが、それらのゲームの個々の人はほとんど白紙状態から始まり、プレイヤーがそこに性格を投影したり、作り込んだりすることで、キャラクターのバックグランドが形成されていきます。Murderous Pursuitsのキャラクターは、ある程度のバックストーリーを持っているだけでなく、国籍なども違うので、声優は、私たちが望む長さやトーンなどの条件の範囲内であれば、もっと自由にセリフを言えるようにしました。声優さん達は全員、その使命を歓迎し「突進」してくれたので、複数の異なるアプローチが産まれる結果となりました。キム・アラン(Kim Allan)はニュース記事などをベースに言葉を混ぜ合わせて、Scottish Duchess(スコットランドの侯爵夫人)用にゲール風に話してくれたのに対し、ジェイ・ブリトン(Jay Britton)はDodger(ペテン師)にショートストーリーを語らせ、言葉をまぜこぜにしながら、話の抑揚を維持し、コクニーアクセントの生意気で軽い性格を表現しました。こちらは、フレーズ例です:
そう、ちょうど良い感じです!スケール感としては、各キャラクターに対しゲームで大体600個ずつのVO(ボイスオーバー)クリップがあり、ファイルにすると4,800ファイルほどです。さらにMr. Xや護衛たちを追加すると約5,100になり、これは元々12,000ほどあった収録内容を削減した結果です。この中にはSimglish、話し言葉、リアクションのフレーズ、攻撃や死去のうめき声、そして結局ゲームで使われなかった、別の変わったリクエスト多数なども入っています。
それは沢山のおしゃべりの成果であり、編集作業はもっと大変でした。特に、1人でやるには!そこで、この場を借りて、当時QAテスターであり、後日マーケティングに移ったステファン(Stephen)に感謝の意を表したく思いますが、彼はもうすぐ締め切りという時にAdmiralのセリフを細かく分ける手間のかかる仕事をしてくれました。Duchessの最終セッションは、このようになりました。
録音のクリーンアップに関しては、人が話す時に起きる破裂音や割れなど、唇を開いた時に聞こえる音などを削除するのに、iZ otopeのRXスイートを使いました。現実の会話において普段は気づかない音ですが、静かな場所でマイクを近づけて発声すると目立ってしまい、不自然に聞こえてしまいます。そのあと、バックグランドノイズの一部をカットアウトして、長いセリフ中の言葉のテイルオフをコントロールするのに、ゲートや、ボリュームのオートメーションを使ったり、破裂音(ess音など)を制御するために「ess」といった音を排除したりしました。ほかにも圧縮やEQを使い、音をならしたところもあります。
ほかの何人かのダイアログ編集者が推奨しているのを見たのですが、問題が起きやすい特定の文字や、単語が「破裂音」や「停止音」で終わる言葉(「ess」音、「t」音、「f」音など)は、後で追加編集や修正が必要になるかもしれないので、録音を余分にした方がいいということです。私自身はこれを行いませんでしたが、沢山のコンテンツをレコーディングしてあったので、通常は使えないようなレコーディングを縫い合わせて、手元にあるバリエーション数をさらに増やすことができました。
以下の簡単な例では、邪魔な「th」音がポストプロセス中に失われてしまったのですが、ボリュームやEQを自動化するのではなく、別のテークで録ったプロセシング前のクリーンなものを取り、ここに落とし込んでいます。2つのステレオクリップの間にモノクリップが入ると、少し変に見えるかもしれません。Abletonはトラックのオリジナルソースがモノであるにも関わらずステレオでフリーズし、あとから全てをモノとして合わせたので、最終的に妙なスペーシャリゼーションは発生しませんでした。
さてと。一旦ここでストップします。パート2では、Wwiseを使った実際の実装やシステムを説明しながら、私たちが遭遇した問題や解決方法などを説明します。最後に、協力してくれた声優さん達をここでご紹介します。ありがとうございました!
アリー・マーフィー(Ally Murphy)
アメリア・タイラー(Amelia Tyler)
デイビッド・マッカリオン(David McCallion)
ジェイ・ブリトン(Jay Britton)
ケニー・ブライス(Kenny Blyth)
キム・アラン(Kim Allan)
トニー・フルーティン(Toni Frutin)
この記事は、最初に Blazing Griffinのウェブサイトに2回に分けて掲載されました。
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