はじめに
Audiokineticより先日リリースされたたPhysics(フィジックス)は、包括的であらゆるプロジェクトに使用することができる、Strataで最も汎用性の高いマルチトラックSFXコレクションです。一貫したクオリティと適応性を備えた50GBを超える高品質なコリジョンサウンドが、ゲームに命を吹き込みます。
このコレクションにはゲーム用の12種類のサーフェスと11種類のオブジェクトが、さまざまなサイズ、インタラクションタイプ、スピードなどで収録されているため、想像できる限りの物理サウンドをほぼ作成することができます。完全なコントロールがすぐに利用でき、ライブラリの構築に使用するすべてのサウンド、そのバリエーション、エフェクト設定を編集できます。これはBOOM Libraryによって1から録音され、使いやすさを考慮して完璧に編成された、Strataユーザ限定コレクションです。
今回Strataのプロダクト・オーナーを務めるサイモン・プレッシーに、Physicsコレクション制作の背景や想定されるユーザなどについて聞いてみたいと思います。それでは早速はじめましょう!
Physicsとは?
ゲームオーディオ用語としてのフィジックス(Physics、物理)は、ゲームエンジンにおけるオブジェクト(物体)とサーフェス(面)の間のコリジョン(衝突)でシミュレーションされる音のことで、オブジェクトの動きの重力モデルをシミュレーションしています。例えば陶器の花瓶(つまりオブジェクト)が、コンクリートの床(つまりサーフェス)に落下した時の音です。この時に再生される音の一般的な選択方式は物理マトリックスを用いる方法であり、サーフェスとオブジェクトの種類、それぞれの大きさ、コリジョンの力の強さ、コリジョンの種類などのマトリックスに基づいています。
なぜStrataでPhysicsコレクションを作成したのですか?
かつて私がオーディオディレクターであった時分(罪なき人を守るために、ここでは名前を伏せますが…)、リリース間近のAAAコンソールローンチタイトルがあり、ゲーム全体のバランスをよくするためにプレイヤーが便利な戦利品をいくつか集めるしくみを導入しました。各レベルに破壊可能な陶磁器の鉢が、広い範囲にわたりランダムに配置されました。私はオーディオの観点でさほど気にしていませんでした。花瓶が割れた時は「剣が花瓶にあたって割れる」時の適格な音を再生させました。さすがに各マップのいたるところで数100個もの花瓶が出現するとは思っていなく、それらを割ってささいな戦利品を集めることに熱狂するプレイヤーが出てくる可能性を予測できませんでした。コリジョンを起こしたいのであれば、もっとおもしろいものがほかにいくらでもあったからです!当然のようにゲームのリリース後に私が見たすべてのゲームプレイの動画では、プレイヤーが1つのレベルで100個ほどの花瓶をたたき割っている姿があり、そのたびに「大型陶磁器オブジェクト破壊音」の3つのバージョンのうち、どれか1つが再生されました。きっとフットステップ音に次いで、このゲームで最もよく耳にするサウンドになったはずです。聞くに堪えませんでした。
そこで次のプロダクションではより完全で包括的なフィジックスマトリックスを整え、繰り返しに気付かれないための魔法の最低ラインである11種類のバリエーションは、少なくとも準備しようと誓いました。ところが結局、どうなったと思いますか?新しいゲームに必要な新しいサウンドを追加するための予算しか確保できず、あとはすでにあるもので何とかするしかなかったのです。
私はStrataのプロダクト・オーナーとなったいまこそ、この問題を解消できます。Physicsコレクションを採用することですべてのゲームで、オーディオ予算を使い果たしてしまうことなく、完全な、自由にカスタマイズできる、ユニークで適切なコリジョンサウンド一式を揃えることが可能です。グラスや鉢や宝箱が割られるたびにサウンドデザイナーが寒気を感じてしまうことがなくなり、戦利品を獲得した時のプレイヤーの満足度も高まるはずです。
Physicsコレクションの対象者は?
Physicsコレクションは何らかのコリジョンが発生するゲームを作成する、すべてのオーディオデザイナーのためのものです。品質はAAA級であり、どのようなプロジェクトに使うこともできます。
包括的なPhysicsコレクション、その中身は?
PhysicsはStrata内で最大かつ最も応用の利くコレクションであり、50GB相当を超えるソースファイルが、69個のREAPERサブプロジェクト内に収められ、10,045個のバリエーションが、レンダリングされたファイルとしてゲームにすぐに使える状態で用意されています。最も複雑なフィジックスマトリックスにおいても必要となる、最も一般的なサウンドの多くがこのコレクションに満載されています。含まれているサウンドの内訳を以下で簡単にご紹介します:
- サーフェスタイプ(大、中、小のバリエーションあり)
- カーペット
- コンクリート
- ざらざらしたコンクリート
- 土
- 森林
- 草
- 砂利
- 氷
- 泥
- 岩
- 砂
- 雪
- 水
- オブジェクトタイプ(大、中、小のバリエーションあり)
- 人体
- セラミック
- 布
- ガラス
- 金属(空洞)
- 金属(巨大)
- 金属(筒状)
- 植物
- 岩
- 木製(空洞)
- 木製(巨大)
- すべてのサーフェスタイプとオブジェクトタイプの、サイズ別のコリジョンタイプ(該当する場合に限る、例えば「土」の「曲げ」はありません)
- インパクト
- 破壊
- こすり
- 曲げ
- 回転
- コリジョンタイプ「インパクト」の強さ
- 軽
- 中
- 重
- 曲げ、こすり、スライド、回転のスピード(シームレスなループ、スタート、ストップを含みます)
- 遅
- 中
- 速
- バリエーション
- 14種のインパクト(大きさ別にさらに6種の“Add(追加)”バリエーションがあります)
- 14種の破壊(さらに6種の“Add”バリエーションがあります)
- インパクトと破壊の付加価値:強さ別に10種
- 曲げ、こすり、回転、スライド(該当する場合に限る、3つのスピードに3種のバリエーションがあります)
StrataのPhysicsがほかと異なるところは?
PhysicコレクションのサウンドはStrataのほかのサウンドと同じく、ユーザのあらゆるニーズに合わせ迅速にカスタマイズできるようになっています。ベイクしたサウンドのライブラリとは異なり、自分のプロジェクトに合わせてその都度サウンドをつくり変えていくことができます。
ほかのライブラリの多くは、ノンリニアメディアを念頭に検討されレコーディングされたものではありません。例えば従来型のSFXライブラリの金属のこすり音などは使いやすいかもしれませんが、オーディオデザイナーが同じ音のバリエーションを10種類以上求めるような、ゲーム環境の使用目的で収録されていないと思います。
StrataのPhysicsはすべての種類のコリジョンサウンドに対し、オブジェクトタイプ(岩など)とサーフェスタイプ(カーペットや森林の地表など)の両側が提供されます。リニアな映像の場合、花瓶はすでに判明しているサーフェスに落下します。一方ノンリニアなメディアの場合、どこにプレイヤーが花瓶を落とすのかなど分かりません。プレイヤーが落とすまでそれは決まりません。これこそコリジョンの両サイドが使えるようにしてある理由です。Physicsコレクションのマトリックスから得られるサウンドの組み合わせは、オブジェクトやサーフェスごとに各種サイズ、コリジョンタイプ、強さがあり、合算すると828個になり、マルチレイヤーのバリエーションは3~14種類あり、それぞれ個別にカスタマイズできるため、ゲームプレイの展開に合わせ求められるサウンドをつくり出しながら再生することができます。
既存のフィジックス音でよくみられ、StrataのPhysicsコレクションで解消することができる典型的な問題は?
たった1つのオブジェクトまたはサーフェスを表すソースサウンドの収録は、必要とされる品質、一貫性、そしてバリエーションの条件を満たそうとすると、費用も時間もあっという間に増大します。私たちはそれをよく知っていますが、なぜならばこのコレクション作成に費やした時間が平均的なゲーム制作サイクルよりも長く、同ゲームのオーディオ予算をかなり消化してしまうだけの費用がかかったためです。
いままで働いたどのスタジオも(Ubisoft、BioWare-EA、Crytek、ソニーを含め)、さまざまなプロジェクトから受け継がれ、長い時間をかけて進化してきた、コリジョン音のコレクションを持っています。サウンドの品質に統一感がなくバリエーション数が少なすぎたり、あまりにも違いすぎたりすることが多く、一部のサーフェスやオブジェクト、またはサイズやスピードが不足していることがあり、そこに音を追加したいと思う場合はできるだけ既存のサウンド集に合わせる必要があったりと、一筋縄にはいきませんでした。サウンドのリメーク作業はどうしても優先順位が低くなり、実際にいまでも多くのAAAプロジェクトで、最初のプロジェクトでいまいちであったコリジョンサウンドが最新ゲームにおいても再利用されているのを私は耳にしています。おそらくあなたも気づいているのではないでしょうか?あの木箱が壊れる音は、絶対に前に聞いたことがあると。
ノンリニアなオーディオデザイン専用に作成されたわけではない既存ライブラリを採掘したとしても、金鉱石のように音響を掘り当てる可能性は低いと思います。ノンリニアな状況においては花瓶がいつ放り投げられるのかを予測することはできず、衝突先は砂洲かもしれませんし、木戸かもしれません。私がいままで見てきた商用リニアメディア向けコレクションでは、さまざまな材質に異なるスピードや大きさで引きずったりひっかいたりするループ音に必要なソースを見たことがありません。これはもどかしく感じます。自分でソースを見つけてレコーディングし、たった1つのシナリオのために編集することは、おそらく最低でも2日分の仕事です。
スタジオが独自にこのようなコレクションを作成した場合にかかる時間は?費用は?
このプロジェクトの構想から仕上げまで、合計で3年近くかかりました。フルタイムのオーディオデザイナーが14か月間かけてレコーディングと編集作業をした場合、だいたい100,000ドル~200,000ドルかかることになります。それ以外にもサウンドやオブジェクトの準備、ロケの手配、その他収録の成功につながる付随的な作業があります。そして忘れてはならないのは、正しく行うために長年のノウハウを携えた非常に経験豊かなオーディオデザイナーが必要だということです。
またStrata を作成したときに、このようなレコーディングを活用しやすいセッション形式で提供するための下調べをすでに行っていたことも重要です。さまざまなデザインや構造を試してみるだけでも、1年以上かかりました。つまり総投資額としては、おそらく50万ドル程度が妥当なところです。
おそらくこれだけの金額を単体のゲームのオーディオ予算から捻出できることはないと思います。つまり何が起きるのかというと、プロジェクトごとに特定のゲームに必要な特定のサウンドの物理マトリックスを構築するのです。そしてこれらのサウンドは結果的に次のゲームに引き継がれ、ほかのサウンドが少しずつ追加されていく過程が何年も続くわけです。新しいサウンドを追加する時は収録する人も使用する方式も当然違うため、マトリックスの一貫性が徐々に失われていきます。StrataのPhysicsコレクションは全体が合致し、拡大や縮小が可能で、一貫性があるという前提ですべてが制作されています。ユーザが自由にカスタマイズでき、どのようなプロジェクトにも応用できる柔軟性と一貫性がこれでようやく達成されます。
まとめ
要約すると、多くのコリジョンライブラリがゲームシナリオ用に作成されていません。StrataのPhysicsは違います。必要な要素を全種類、すでに設定された状態でゲームプレイのシナリオにすばやくカスタマイズできるように提供されます。カオスのような崩壊から積み木のパズルやチェスのなめらかな駒の動きにいたるまで、どのコリジョンタイプにも充分すぎるほどのバリエーションがあり、極小から巨大、のんびりから高速、硬質から軟質までの表現が、曲げや滑りや転がりなどの動きも加わり揃っています。しかもすべてがStrataだけのものです!
Physicsコレクションをぜひチェックしてみてください
最近のWwise Up On Airで、Tristan Horton、Simon Pressey、そしてFlorian Bodenschatzが、このコレクション作成のきっかけや、レコーディングのメイキングについて話していますので、こちらも併せてご覧ください。
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