屋外インパルスレスポンス

サウンドデザイン

人工的なの空間のために信ぴょう性のある音響をつくり出すことは常に難しく、これが屋外の場所ともなると、なおさらです。リバーブやエコーはあまりにも多種多様で無秩序で、アルゴリズムによるリバーブやディレイだけでは、本物に聞こえる屋外空間を形成することがほぼ不可能なので、私たちはドライソースを屋外に設定するのに悪戦苦闘します。ところが、いざ音源を物理的に外に置いてみると、どのような屋外シーンでもぐっと現実味が出てきます。

Field, Narrow, Small Hills, Mics in Forest (50.354415,6.645377)

屋外空間は、ゲームだけでなくあらゆるメディアにとって非常に重要なので、私たちは何らかのソリューションを見つけたいと考えました。屋外インパルスレスポンスのライブラリ作成に着手して、リバーブが音響体験となるのに必要な繊細なニュアンスをすべてとらえて、聴く人の邪魔をするのではなく、奥へと引き込もうと試みました。

IROutdoor-forest

インパルスレスポンスの録音方式は、これまで大きく発展してきました。インパルスレスポンスのレコーディング方法は、インパルスまたはバング(bang)、スウィープ(sweep)、シーケンシャルノイズと、いくつかあります。最近のインパルスレスポンスの録音方法として最も一般的なのがスウィープで、屋外レスポンスの録音にも使えるのかを実験しました。しかし残念なことに、人里離れた雪深い山中を一生懸命スピーカーをかついで挑んだのにも関わらず、2つの理由のため、外ではうまくいかないことが分かりました。まず、実に強力(!)な増幅がなければ、遠距離におよぶスウィープを変換して、充分なシグナル対ノイズの比率を獲得できません。次に、外だと、スウィープを完全に発動させて、さらにリバーブテイルまで、軽く10秒を超えてしまうほどの時間を、邪魔な音が入らないように確保するのが困難です。

Field, Wide, Small Hills and Forest (50.351109,6.640162)

繰り返しテストし、スウィープ対インパルスの計算を何度も間違えながら、バングのレコーディングの基本原理を使うということで落ち着きました。ただバング、つまり単発の発砲音の録音も、ほかと同じく単純ではありません。大きいのもあれば、小さいのもあります(ミサイルを発射するのと、針で風船を刺すのとを、想像してください)。なかには非常に独特なものがあり、特別な周波数レスポンスが生じたり、場合によっては避けなければならない周波数のエンベロープがあったりします。

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結局私たちが使ったのは、9mmピストルでした。ショットの分析後に、できるだけニュートラルにするために、FFT処理を施しました。ただ、一番良いソリューションは私たちが実際にやったように、遠距離でレコーディングすることだと判明しました。

柔軟性のためにIR(インパルスレスポンス)を静寂な場所で録音する必要があったので、冬季にレコーディングすることになりました。しかも、氷が溶けて水が滴る音や、ほかの不本意なバックグランドノイズがあってもいけないので、氷点下で録らなければなりません。もちろん冬の方が、色々な動物もずっと静かですし、犬の散歩やハイキングに出かける人も少なくなります。ノイズ除去をしてしまうと余計な音を発生させてしまうので、それは避けたいと考えました。凍えるような寒さだと独特のリバーブが生まれ、例えば雪が多すぎると音響が湿り過ぎて使えません(要は、リバーブ皆無になります)。面が固すぎると、リバーブが何となくきつくなり、聴き心地が良くありません。求めているインパルスレスポンスをキャプチャできるまでに、かなりの遠出や散策をし、ちょうど良い天気になるまで待つこともよくありました。今回のコレクションをまとめるのに全部で7か月ほどかかりましたが、テストやロケーション探しに2か月、移動やレコーディングに4か月、そしてレコーディングを使用可能で柔軟なIRにする後処理に1か月かかりました。

私たちが求めていたのは長くて自然なテイルで、アーリーリフレクションはそれほどでもなかったので、最大100 mほど離れたところからインパルスをとらえました。録音場所によっては物理的にインパルス音源とマイクの間にそれ以上の距離を確保できなかったり、意外にも距離が離れていない方が単純に音が良くて使いやすかったりするので、最も近いときの距離はたったの4 mでした。ほとんどのレコーディングは、30 mまたは50 m離しました。また、この場合は比較的長いインパルスレスポンスとなり、2秒から10秒ほどの長さになりました。

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ここでベストプラクティスをいくつか紹介します。クローズマイクのレコーディングにインパルスレスポンスを使うことはできますが、もしドライソース音を遠方にするのであれば、多少のランタイムプロセシングを適用した方が現実的です。そうするとインパルスレスポンスを単純に100%ウェットで使うよりも、没入感のあるエクスペリエンスをつくり出せます。インパルスレスポンスのリバーブの前に、ある程度の距離感を出すためにハイカットやローカットを使ってください。ゲーム環境内の目立つ視覚的な障害物、例えば壁や車など音を反射する大きいオブジェクトについては、インパルスレスポンスのリバーブの前に、ディレイのラインを設定することで、部屋の中の音源の位置をより現実的にします。これをランタイムに実施するためにぴったりのソリューションがWwise Reflectで、反射はConvolution Reverbを経由させるか、Convolution Reverbにミキシングします。ライフル銃に限って言うと、全体をデザインしたガンショットにはすでにアーリーリフレクションやテイルがたくさん入っていることが多いので、Convolution Reverbにそのまま送らず、スパイクや短いスナップ音だけをフィードするほうが妥当です。これらのスパイクを事前に処理して、銃のタイプに合わせてEQをかけておくのも忘れないでください。その方がずっと現実味をおび、扱いやすくなります。

私たちはこの屋外インパルスレスポンスから、一番良いものを69種類ほど選び、街中や工業地帯、草原や森林、山中や渓谷などをWwise Convolution Packageに入れました。実際に使ったときの聞こえ方が分かるデモを、ここにいくつかご用意しました。

これらが実際に活躍しているのを聞くのをとても楽しみにしているので、もしよければ、使ったときは教えてください。もちろんフィードバックやコメントは常に歓迎しますので、いつでもご連絡ください。私たちがつくり出したインパルスレスポンスが、あなたのプロジェクトにとってプラスになり、音響的な信ぴょう性を高めるのに役立つことを願っています。

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BOOM LibraryのOutdoor Impulse Responsesは、 Wwise Convolution Reverb プラグインと合わせて使えます。

いくつかの例をお聞きください:

 
犬の鳴き声、丘陵 50m、DRY 30 Mix 100 Mix
女性の声、丘陵 50m、DRY 30 Mix 100 Mix
男性の声、丘陵 50m、DRY 30 Mix 100 Mix
ドラム、丘陵 50m、DRY 30 Mix 100 Mix
草原 小さい叫び 森林 50m、女性、ドラム、男性、犬
都会 住宅数件 50m、女性、ドラム、男性、犬
草原 周辺に木々 10m、女性、ドラム、男性、犬
 
山々 50m、女性、ドラム、男性、犬
高い山 強いエコー 50m、女性、ドラム、男性、犬
丘 小川 森林 50m、女性、ドラム、男性、犬
森林 低木 20m、女性、ドラム、男性、犬
都会 細い道 前面開放 30m、女性、ドラム、男性、犬
谷間 広い森林 50m、女性、ドラム、男性、犬
 

 

 

Boom Library

Boom Library

BOOM Libraryは2010年に、ドイツのマインツにあるヨーロッパ最大のゲームオーディオスタジオDynamedion出身で、受賞歴のあるオーディオ仲間たちが設立。高品質で究極のサウンドエフェクトを、あらゆるメディアやオーディオのプロたちに、自信をもって提供。プロダクトには、ほかにはない特徴的なエッジが感じられる。最高級のサウンドエフェクトやソースレコーディング、そしてソフトウェアツールを、高解像度で提供することをミッションとする。

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