Project Hiraethは完全にアダプティブで、プロによるミキシングとマスタリングを経て、オーケストラの生演奏でレコーディングされた、世界で初めてのビデオゲームスコアライセンスです。オリジナルミュージックが90分以上もあり、プレイヤーの行動に自然に従うことができ、1週間でゲームに完全にインテグレートするためのスクリプトも完備しています。このブログで、なぜ、そしてどのように、制作したのかを説明します。
パラダイムシフトにもってこいの朝
2017年秋に私はガイ・ウィットモア氏(Guy Whitmore)とコーヒーを飲んでいました。業界人なら誰もが知っている人です。中折れ帽をかぶった変わった男性で、かの有名な猫の合唱Peggleや、何とも満足感のあるXbox1の愛すべきポップ音とスウッシュ音を世に送り出してくれました。謙虚な彼はGANG賞を4回も受賞して私の憧れの仕事に就いていたので、若く未経験な大学院生として真剣に耳を傾けました。
ガイと私は、彼のスタジオで私がインターンとして働く可能性について、お互いに探りを入れながら話し合っていました。彼はブラックコーヒーを飲みながら、カーブを投げてきました。
「ゲームミュージックが『いい感じ』だと思えるのはどういうとき?」
私はしどろもどろになって、慣れない場で必死に気の利いたことを言おうとして沈黙してしまいました。やっとのことで、何とかまともなことを思いつき「デベロッパーが求めている感情をとらえて、巧みにつくられていれば、良いゲームミュージックだと思う」と言いました。
「その通り!でも、Wwiseはどうなんだ?」と彼は返してきました。「テクノロジーはどうなんだ?」
オーディオミドルウェアが?それがどうした?
彼はさらに「映画音楽とまったく同じように繊細に変化して人を惹きつけることのできるゲームミュージックを作るテクノロジーは、すでにそろっている。」と続けました。
ちょっと待って。 なに?
「もしプレイヤーの選んだ行動にリアルタイムで反応できる音楽をつくることができるなら、しかもトランジションが唐突でなく、何度もループしない音楽をつくれるなら、なぜつくらない?コンポーザーにそれを求めてこないのは、なぜ?技術はあるのに、僕たちを引き留めているのは何?」
ガイの音楽へのアプローチの中に芽生えたばかりの彼のイデオロギーに初めて触れた瞬間でした。彼は、私たちコンポーザーやアーティストこそ、新しい技術を使って自分たちの限界を超えていくべきだと考えていたのです。
ガイはそれを、かっこよく「ミュージックデザイン」と呼びました。
ミュージックデザインを簡単にざくっと説明
ご想像のとおり私はインターンになりました。2018年の夏にシアトルへ送り込まれ、何週間かガイのあとをついて回りました。サウンドパネルを設置したり、作曲したり、何キロも走ったり、ありえない量のコーヒーを飲んだり。
インターンシップも終わりに近づくころ、私はミュージックデザイナーという考えの信者になっていました。
知らない人のために、ミュージックデザインで仕事をする場合の真実をいくつか説明します:
- クリエイティブであってこその技術。
作曲し始めるときに、テクノロジーという障壁のない完璧な世界の音や感触を想像してみてください。映画のスコアを作曲するのとまったく同じように、ゲームプレイのキャプチャビデオのスコアを作曲するのを思い浮かべてください。そしてひき込まれるような音楽、動作に反応してくれる効果的な音楽が頭のなかで出来上がったら、それをどんな技術で実現できるのかをを考えてみてください。
- オーディオミドルウェアは、今の時代は作曲活動の一部。
最終納品がリニアなオーディオファイルだったりステムだったりする時代は、もう過去のものです。ミュージックデザイナーの最終納品は、最低でも1つのWwiseファイルです。ミュージックデザイナーは作曲するための道具としてミドルウェアを使い、ホリゾンタルリシーケンシングやバーティカルリミックスは、メロディーやカウンターポイントなどと同等のプロセス上の役割を担っています。
- ビデオゲームミュージックは、現代のアートミュージック。
ゲーム向けの作曲ほど可能性を提供してくれる作曲メディアはありません。私たちはプレイヤーが耳にする内容だけでなく、どのように耳に届くのかも、コントロールできます。バリエーションを取り入れランダマイザー機能も使えば、楽曲を作曲するだけでなく、ミュージックシステムをつくることができます。
私の旅が終わるころにガイと最後のコーヒーを飲みながら、私は当然の質問をしました。もしミュージックデザイナーが今までより確実に質の高い結果を出せて、もっと魅力的な音楽をつくれるのであれば、なぜデベロッパーたちはコンポーザーに、このような作業方法を要求しないのか、そしてなぜコンポーザーも、勢いよく新興テクノロジーを学ぼうとしないのか?
ガイはいくつかの意味深なことを教えてくれ、私も自分なりに答えを出してきました。
- 作曲プロセスの一貫としてオーディオミドルウェアを活用しないのは、それ自体が悪いわけではない
ここ5年で音楽系の受賞歴のあるゲームは、どれも魅惑的なスコアばかりですが、ゲームへのインテグレーションに深みは感じられません。もちろんこのアプローチが標準以下だとはまったく考えていません。逆に、標準的なコンポーザーが自分のクリエイティブプロセスにミドルウェアを取り込めば、費やす時間に応えるだけの奥行が加わると私たちは思うのです。
- 最新テクノロジーにインスピレーションを受けるどころか、逆に脅威に感じることは、普通。
実際、Wwiseはかなり大きなプログラムです。Youtube動画、Wwise 201、301技能検定の講習、Wwise Project Adventureなど、素晴らしいリソースがあるものの、多くのコンポーザーは今までの音楽の考え方に新しい手法を取り込むことに不安を感じています。
- ゲームデベロッパーは、音楽をWwiseにインテグレートしてほしいとコンポーザーに依頼することを躊躇する。
大げさにするつもりはありませんが、コンポーザーとゲームデベロッパーの間のコミュニケーションが、なんというか、悩ましく感じられることが珍しくありません。両者とも相手の提供する内容を心から必要としているのは事実なのですが、往々にして相手とどうやって意思疎通をすればいいのか分からないのです。コンポーザーの意向を尊重するつもりでインテグレーションをしてください、とお願いしても、コンポーザーができなかったりやりたくなかったりすれば、無礼な依頼と受け取るかもしれません。
- コンポーザーは「これが自分の専門、そして自分のやり方」と意固地になることも。
「今まで、こうやってきたんだし、今さら変えるつもりはない」とコンポーザーが考えれば、簡単に落とし穴にはまってしまいます。しかも、これまでミュージックステムを納品して終了、というスタンスでキャリアを伸ばしてきたのなら、あえて変更する理由はありますか?(ちなみにミュージックデザイナーであれば「自分でオーディオミドルウェアを使いこなせば、結果的にもっといい音楽ができ、ゲームの面白みが増し、実は制作時間も短縮できる!」と答えます。)
この時点で、私たちはちょうど2杯目のラテを飲みながら、頭が高速回転しだしたのです。自分自身のミュージックデザインへの情熱を発見した私は、これからも協業することを強く希望していると伝え、ガイと言えば... 彼にはクレイジーな考えがあったのです。
彼のクレイジー・アイディア
ガイのアイディアとは安く簡単にプロ級のアダプティブスコアをつくれることを、実際の作品を通してコンポーザーに証明しよう、というものでした。それを実現させるために、なんとガイは、私が大学院の最後の年に彼のために働くことを提案してくれました。私は、今までにない方法でアダプティブスコアをつくり、完全にプロデュースされWwiseにインテグレートされたかたちで、しかもオーケストラの演奏で、完成させることに決まりました。しかも肝心のゲームは存在しない状態で、です。もし、業界経験がほとんどない新人にそんなことができるのなら、誰だってできるでしょ、というわけです。
もし私が目標を達成できたら、ガイはそのスコアに適したゲームデベロッパーにアプローチし、さらに、このプロジェクトのプレゼンテーションをGDC主催者に提案する、と私に約束してくれました。
その後、アダプティブオーディオへの自分の熱意と、本当に犯罪になりそうなくらいのカフェイン摂取量のおかげで、私はやってのけたのです。一年かけてHiraethプロジェクトの企画から実践まで続け、終わるころには自分でも本当に自信のある作品が出来上がりました。結局のところ、この仕事の目的は3つありました。
- コンポーザーが「ミュージックデザイナー」、つまり実装も制作も作曲もすべて自分でできるクリエイターになるのは、今の時代に音楽をつくる者として現実的だと証明すること。
- ほかのアダプティブスコアの元となるようなWwiseテンプレートを作ること。
- この楽曲とテーマが似たゲームであれば一週間以内にプラグインできるような、感情表現豊かなニュアンスのあるスコアをつくり出すこと。
それではHiraethの作成にあたった私のプロセスを説明し、最後に短い動画デモでまとめたいと思います。
第一部、A: 全体の構成
私がProject Hiraethを手掛けたのは、ガイの元で私のインターンシップが終了した2018年8月でした。私はこのプロジェクトの仕事を卒業する2019年5月までに完成させる必要があると考え、制作期間を約9か月とみました。まず最初に、完成した状態のスコアがどのような流れとなるのかを自分で具体的に決めました。簡単に言うと、プロ並みの出来栄えで、聞く人の感情を引き出せる、できる限りシームレスなスコアが目標でした。実在するゲームの作曲をするわけではなくても、売れるスコアにしたかったので、特定のジャンル(ダークファンタジー)を選び、そのジャンルの範囲内で10種類の音楽環境の概要をまとめてみました。私が提案した10本のキューと、思い描いた内容の簡単なメモを、以下に紹介します:
Project Hiraeth: 全体の構成
スコア名のあとに、そのスコア全体の雰囲気を伝えるための私の宣伝文句が入っています。
- Environment 1 - The Gorgeous Over-World
謎めいた冒険ミュージックで、程度をカスタマイズできる沈黙が全体的に存在します。
(フルオーケストラ演奏のBeautyキューが、タイミングよくスコアからシームレスに湧き上がってきます。)
- Environment 2 - The Mysterious Wood
非現実的なハープやこの世のものとは思えない管楽器で、夜間の冒険に潜む不安感をかもし出します。
- Environment 3 - The Dark Underworld
不気味なコーラス、歪んだブラス、絡まるストリングスの組み合わせで、肉体的でおぞましいアンダースコアが、ゲーム中の最も恐ろしい環境を強調します。
- Environment 4 - The War-Torn Landscape
トランペットのソロが、悲哀を感じさせるストリングスのダークなベッドの上に垂れ下がり、悲しみあふれる暗い過去が描かれます。
- Dramatic 1 - Dark Machinations*
悪の勢力が動き出すと、曲がりくねったパーカッションやカオス状態のホルンが、その雰囲気を的確に表現してくれます。
- Dramatic 2 - Rally the Troops*
突き刺さるブラス、大音量のパーカッション、急き立てるようなストリングスは、宿敵に最後の一撃を与えるヒーローを完璧に表します。
- Combat 1 - Bring the Mountain Down*
剣が舞い、脈打つビオラが、腹の底から聞こえるようなシンセやライザーや勢いよいベースと一体になります。闘いが頂点に達したときのためのバトルミュージックです。
(インゲームシネマティクスへは2秒以内のトランジション、そしてキューは感情的なシーン、緊張のシーン、暴力的なシーンの3種類。)
- Combat 2 - Men of Iron*
More subtle than Combat 1, but still with a hefty punch, this music is the perfect fit when a single warrior fights alone against all odds.
(インゲームシネマティクスへは2秒以内のトランジション、そしてキューは感情的なシーン、緊張のシーン、暴力的なシーンの3種類があります。)
(Dramatic 2へシームレスにつながる。)
- Menu Music - The Hero's Rest
霧のかかった優しい島を旅するヒーローは、忘れ去られた深い謎を解き明かします。
- Main Theme - Overture to Hiraeth
スコア全体の礎石です。一流のソリストたちと、マスターサウンドエンジニアが組んだ世界トップレベルのパフォーマンスは、このテーマに隠れた秘密のひとつです。
*複数のインテンシティレベルがあり、それぞれの独立したバリエーションもあります。
第1幕、B: プロジェクトスケジュール
私は極端なまでに綿密に計画するのが好きなので、10種類の音楽環境をまとめたあとは当然、制作スケジュールを明確に設定しました。目標をはっきりさせ、あとから微調整もできるスケジュール方式として私が採用したtrello.comは、物事を整理してプロジェクトを管理するための驚くほど機能的なサービスです。下図はこのプロジェクトの最初の数か月間の、当初のゴールです:
最初の音符をしたためる前から、上図のような明確なかたちで一年分の毎週の目標を決めました。それ以外にもしたこと:
- ベンチマークを分野別に色分け。
- 各週の冒頭にその週の仕事の忙しさを、1~4段階で数字で記入。
- この概要スケジュールをガイに見せ、無計画に進めていないことを報告。
簡単に説明するとプロジェクトの制作は、以下のように分割しました:
- 8月から11月1日まで: 最終納品物は、電子モックアップとして完全にWwiseにインテグレートした状態のゲームミュージック。
- •11月1日から11月30日まで: 物理的なスコアと各パートをつくり、オーケストラと契約を結び、レコーディングを行う。最終納品物は、生演奏でレコーディングした完全なスコアの、WAVファイル形式の全ステム。
- 12月1日から2月1日まで: 各種楽器の生演奏と、MIDIを組み合わせ、ミキシングし、すべてのステムのマスタリングを行う。最終納品物は、各楽器または各セクションの独立したステムすべて。Wwiseでランダマイザーを最大限に適用できるような状態にし、最終的なファイルサイズにも配慮する。
- 2月1日から3月まで: ステムの最終版をWwiseにインテグレートし、トラブルシューティングをしてからGDCで発表。
プロジェクトの最後までガイと2週間おきにSkypeで話せたのは、特に心強かったです。
Part 2: 作曲
Hiraethの作曲を始めたとき、まさか90分の音楽になるとは思っていませんでした。長さは有機的に決まっていき、毎週の厳密なガイドライン内で作業をしました。作曲を9月に前倒ししたのは、10月が大学院の授業や、講師としての大きな負担や、自分の映画スコア事業で大忙しになるとわかっていたからです。一週間ごとの作業は、大体このようになっていました:
- 第1週: Environment 1用にスケッチを作成。
- 第2週: Environment 1のスケッチに肉付けをしながら、Environment 2に取り掛かる。
- 第3週: Environment 1のステムをWwiseで使い、音楽の再編成を行い深みを与える。Environment 2の肉付けをする。Environment 3に取り掛かる。
- などなど。
最終的には毎週20分間分の音楽をかき、それを10分程度の、感情に訴えるマテリアルに仕上げていきました。スケッチ作業はDAWで行いましたが、この作曲プロセスにおいてWwiseは不可欠でした。
キューの完成形は:
- ステムとしてWwiseに実装されている。
- ミドルウェア実装のために採用した「ネスト化されたシステム」で動く。(今回のブログでは詳しく説明しませんが、その概要を最後の動画で見ることができます。)
- ガイの承認済み。
コンバットのキューは、少しやり方を変える必要がありました。Combat 1には、シネマトグラフ的に最も奥深いバトルシステムと言えるGod of Warから、10分間のコンバットクリップを選びました。そのクリップを映画のように再編成してから、これと同じだけのインタラクションをもった音楽を私の存在しないゲーム用につくるには、どうすればいいのか、自問自答しました。最終的に以下のような形式のコンバットキューとなりました:
- インテンシティレベルは3~4段階に分け、敵との接近の度合い、敵の数、プレイヤーヘルスなどに基づいて、段階を前後させる。
- シネマティックなミュージックセグメントを3本(Emotional、Intense、Beatdown)用意し、トランジションは2秒未満とする。
- 何層にもおよぶバーティカルリミックスで、変化に富んだ感触を生み出し、リスナーが疲労するのを防止。
このプロジェクトの作曲部分を終えるころには、モックアップを使って完全に動作するWwiseデモが出来上がっていました。このデモの初期バージョンをWwise Interactive Music Symposium(2018年11月6日)のガイのプレゼンテーションで披露しました。
第3部: 印刷とレコーディング
プロジェクトの初期の段階に、ニューヨーク州ロチェスター(私が当時在学していたイーストマン音楽学校のある街)を拠点とする2人の委託先に連絡し、Project Hiraethの演奏を40人規模のオーケストラでお願いしたいと話しました。以下の理由のため、これはかなり度胸のいる内容でした:
- 私が作曲していた音楽は、簡単ではありませんでした。
- 正しくやることにこだわりがあり、生演奏をレコーディングするのであれば、絶対に良い演奏を求めていました。
- Hiraethの予算が一切なく、どのミュージシャンもオーディオエンジニアも委託先も、バックエンドで支払われるお金だけを目当てに働いてもらう必要がありました。
協力してくれた委託先2人はマックス・ベルリン(Max Berlin)とグラント・オブライアン(Grant O’Brien)で、彼らのおかげでこれを実現できたのです。マックスとグラントはロチェスター(たくさんのアーティストが活躍するコミュニティ)在住のトップの演奏家40人を集めてくれ、レコーディングに至りました。その多くは熱心なゲーマーでもあり、Hiraethへの私たちの熱意に共感してくれました。最終セッションの楽器の構成は、この通りです:
私はイーストマン音楽学校の院生だったので、無料でEastmanのスタジオタイムを10時間予約することができました。
90分間におよぶ音楽の楽譜の印刷とコピーを、一人で二週間以内にできないとすぐに気づきました。この時点で、プロジェクトアシスタントとして、コンポーザーのショーギ・ヘイス(Shoghi Hayes)を採用しました。ショーギはセッションの準備の中心を担い、ブースでは私の耳として活躍してくれました。
最終レコーディングセッションは、11月17日の午後3時から10時まで行われました。結局、セッションのスケジュールはかなりタイトになりました。
3:00 – 5:15 ストリングス
5:15 – 6:15 夕食
6:15 – 7:30: ブラス
7:40 – 9:00: フルートの2人のソリストを、同時に
9:00 – 10:00: オーボエとイングリッシュホルンのソリスト
バイオリン、ビオラ、トランペットのソロは、次の週に別々にレコーディングしました。
図1: ストリングスのレコーディング準備
図2: 楽譜、契約書、セッションスケジュール、お土産40人分! 図3: 委託先のマックスとグラントと共に
図4: セッション開始から数時間経ったころ、コーヒー3杯目を手に。
セッションを終了ころには、私は感激していました!計画していたものをすべてレコーディングできたばかりでなく、Wwiseで実装するために個別のセクションを独立して編集できるように、すべてステムでやりました。終わったあとは48時間ぶっ続けで寝ました。
第4部: ポストプロダクション
自分のミキシングスキルに自信を持っていますが、絶対にHiraethはどこからみてもプロレベルにしたかったのです。そこで一緒に仕事をするプロを探す必要がありました。最終的には、ロチェスターの天才オーディオ家のユージン・ビスディキアン(Eugene Bisdikian)に協力してもらいました。ユージンに課された難題とは:
- 各ステムをミキシングしてマスタリングすること。ただしあとからWwiseでリミックスされリシーケンシングされることに配慮すること。
- タイトなスケジュールに合わせてすべての作業を完成させること。
あと何も書くことはないということこそ、ユージンがどれだけ大変なことを成し遂げてくれたかの証です。深夜にまで及ぶミキシングセッションを数週間おこなったあと、Wwiseに最終オーディオファイルをインテグレートする準備が完璧に整いました。
Main ThemeはHiraethでステムとしてWwiseにインポートしなかった唯一のミュージックセグメントです(計画上はメインメニューとエンドクレジットの2回、再生されます)。最終バージョンを(MP3として)ここで聞けます:
第5部: 最終インテグレーションと、トラブルシューティング
実際に動くWwiseセッション(私のモックアップファイルで構成されたもの)がすでにあったので、最終的なオーディオを再度インテグレーションするのは楽でした。いわゆる「殻」の部分は変えずに新しいステムをドラッグ&ドロップすれば、あとはWwiseが勝手にやってくれました。最終的に、このミュージックシステム全体が、1つのスイッチコンテナにきれいに収まりました!
図5: いくつかのトランジションを除き、すべて1つのスイッチコンテナで動いています!
もともと、4つの独立した環境をつくるつもりでした。結局は、そのうち2つがEnvironment 1に吸収され、日夜のサイクルを効果的にしています。
ご覧のとおり、各環境に、インゲームの再生用に選択肢が複数入っています:
- Standard: 音楽は停止することなく再生されますが、長さをカスタム設定できる「サイレンス」を、オンオフできます。
- AFK (Away from Keyboard): プレイヤーがキーボードから離れて入力がないと、音楽の複雑さが徐々に軽減されます。
- Short: 常に音楽を再生するのではなく、短くシンプルに抽出した音楽を再生します。
- Beauty(Environment 1専用): ゲームがスイッチグループ経由でBeautyコールを送ると、音楽がシームレスにトランジションし、より豊かなセグメントへと変わります。これらのセグメントはクロスフェードせず、論理的な音楽ランドスケープ内だけに存在します。Hiraethにはクロスフェードしながら出入りするキューがないわけではないのですが、できるだけ、このトランジション方式を避けるようにしています。
前述のとおり、Hiraethのスコアはすべて、WwiseのStateをたった1セットだけ使って実行しています。これらのステートを実行するためにゲームエンジンがイベントをコールしますが、これらのイベントが変えるのは、どのステートをアクティブにするかということだけで、特定のミュージックセグメントを呼び出すわけではありません。
図2 Hiraethを動かすネスト化されたシステムの図。
このスコア全体を、少数のイベントで動かせます。
Wwiseの中の各ミュージックセグメントはバリエーションが豊かで、以下のように、様々なレベルのバーティカルリミックスや、ホリゾンタルリシーケンスが行われています:
Environ1_Dayセグメントの1つで、バーティカルリミックスを少しだけ行っています。
Main Menuミュージックセグメント内の、基本的なホリゾンタルリシーケンシング。
Environment 1_Dayプレイリストの内容
Hiraethで最後に行ったこととして、例えばセグメント間のトランジションを補強したり、全体的に音に統一感があるようにオーディオレベルの設定を変えたり、ランダムなバリエーションの中でうまくいかないものをトラブルシューティングで探したりしました。ご想像のとおり、これは進捗中のプロセスですが、最終的なプロジェクトは期待通りにクリーンで感情に訴えるプロフェッショナルな作品に仕上がりました。
活躍するHiraeth
幸い、Hiraethは割と短い間に何度か展示されています。完成から数か月の間に、なかなか良い機会に恵まれました。
- HiraethはWwise Interactive Music Symposium、GDC(Game Developer’s Conference)、そしてロチェスターの“Breaking Boundaries”コンベンションで展示されました。
- 2019年1月にFilm to Screenコンサート第1回でイーストマン音楽学校において生演奏されました。
ガイと私はHiraethが引き続きミュージックデザインの推進に役立つことを期待しています。もちろん、すでに開発中のプロジェクトがあるインディースタジオも真剣に探し求めています!
さそて最後に、ここまでついてくれた読者に聞いていただきたい、Hireathの音楽の短いデモビデオです:
このプロジェクトについて、さらに詳しく知りたい方はwww.sethwrightmusic.com/project-hiraethをチェックしてください。私がもっているゲームミュージックの知識は、もちろんすべてガイ・ウィットモアから学んだもので、この挑戦の黒幕は彼なのです。
質問があれば、下のコメント欄に投稿してください。また、コラボレーションに興味があればsethwrightmusic (at) gmail.comまでご連絡ください。
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