私たちが『ミダスマージ』のオーディオイメージを発展させ、Wwiseを使いファンタジーあふれ心安らぐマージ3のゲームエクスペリエンスをつくり上げた方法を紹介します。
はじめに
Wildlifeで私たちがゲーム開発をはじめる時、ゲームエクスペリエンスの全体像を決めるため、そして技術面や芸術面に配慮した上で対象プレイヤーに効果的にアピールできるゲームとするため、主に2つの点を重視します。
マージ3ゲーム形式のための芸術的な方向性:
- 芸術的な観点で私たちが目指したのはビジュアル面の特徴をさらに広げて機能を強化する、ファンタジー感あふれる居心地のよい雰囲気をつくり上げること、そしてモバイルゲームならではの技術的な制限に対応することでした。
『ミダスマージ』のターゲットプレイヤーに焦点をあてた技術的な段階決め:
- Wildlifeはモバイル端末のみにフォーカスしており、社内で7つの技術的な段階を定めています。この戦略に従い私たちはプレイヤーのエクスペリエンスをシームレスで強化されたものとし、可能な限り高いオーディオ品質を維持できるよう、ゲームシステムを適応させ最適化します。『ミダスマージ』において主な対象としたのは最初の5つの段階です。一部オーディオシステムを制限する境界線をすべてセットアップし、芸術的なアイデアを適用する別の方法を検討する場を設けることが不可欠でした。
私たちはこの2つの重要な側面を定義した上で『ミダスマージ』のサウンドの制作と配置を開始し、プレイヤーベースに届ける高品質サウンドの実現方法を検討しました。これらの面をさらに詳しく見てゆきます。
『ミダスマージ』とは?
『ミダスマージ』は複数のオブジェクトをマージさせて宝をアンロックするモバイルゲームで、プレイヤーを魅惑的なアドベンチャーに引き込みます。直感的に操ることができ、チャレンジ精神、整理整頓の満足感、そしてリラックス感を楽しく混ぜ、老若男女問わずすべてのプレイヤーに提供します。組み合わせた物の価値が上がるにつれ新たな富が見つかり、新たな土地が開拓され、プレイヤーはより多くの物を貯め込むために財産と場所を拡張し、整理整頓の技と忍耐力を向上させてゆきます。マージのたびに進歩する満足感があり、新しい宝への期待感が高まります。プレイヤーはかわいらしいビジュアルと没入感あふれるサウンドスケープを楽しみ、カピバラが空飛ぶ『ミダスマージ』の世界に引き込まれてゆきます。
アイデアの具現化(オーディオおよび方向性)
私たちとNever Forget Gamesの最初の検討会の焦点は、オーディオをつけたままにしたいと思うゲームをつくり、エクスペリエンス全体にとってサウンドスケープを不可欠にすることでした。実際、リリース後に多くのプレイヤーがオーディオをつけたままプレイしていることを知り、大変うれしかったです。
このゲームはWildlifeにとってはじめての大型プロジェクトとなり、最初から整ったかたちでスタートさせたいという意気込みがありました。当初はプレイアブルビルドもなく、開発側が提供してくれたバーティカルスライスのゲームプレイ映像が頼りでした。初回ブリーフィング後にオーディオディレクションの素案をつくりはじめましたが、これは私たちがすべてのプロジェクトにおいて行う重要なステップです。イメージでしかないアイデアを具体的な言葉に換えてゆく文書であり、オーディオチームに対する明確な期待値を設定し、クリエイティブな判断の指針とします。
私たちの方法論の1つに、社内のベンチマークプロセスがあります。同じジャンルで成功したゲームのオーディオ戦略を分析し、その開発者たちが引用した主な参考文献を確認します。このようなゲームでオーディオをどのように扱ったのかを研究し、私たちが提供するオーディオエクスペリエンスを洗練させ進化させるための秘訣を学びます。直球ですが効果的なアプローチであり、検討のたたき台となります。
こうした社内プロセスが整備され、ゲームプレイの映像が揃ったところでサウンドや音楽のコンセプトを練りはじめました。この時、オーディオディレクターのVincent Diamanteが適切な質問をすることの重要性を強調しました。音楽を久石譲のスタジオジブリ作品にみられる東洋風の楽曲とするのか、トーマス・ニューマンの独特なディズニー音楽風とするのかについて、話し合いを重ねました。ここでの決定がサウンドデザイン全体へ影響を及ぼすことが予想され、サウンドエフェクトでアニメ風のかわいらしさを表現するのかに繋がります。社内で何度も検討と反復作業を繰り返してゲームのオーディオプロファイル第1弾を制作し、ユニークで魅力的なプレイヤー聴覚体験を形成してゆきました。
Never Forget Gamesに動画を見せた結果、私たちの疑問の多くは解消され、さっそく私たちの納品物のスコープ、バジェット、スケジュールなどを計画しました。同時に新たな質問も発生し、オーディオバジェットや私たちに提示されたスコープを考慮した際、割りあてることのできる量が特に気になりました。
『ミダスマージ』のサウンド
『ミダスマージ』の制作において私たちが重視したのは、いかにサウンドデザインの音楽的な要素を活用してゲームの世界を豊かにするかでした。このため協和音と不協和音の領域を慎重に定義しました。マージから収穫にいたるまで、ゲームの各場面で独自の演奏と動きがあり、ダイナミックな聴覚体験が約束されます。同じ音の繰り返しを避けながらもオーディオバジェットを守れるよう、アセット数を綿密に調整しました。
目指す雰囲気を伝えるために、明るくて幻想的なことで知られるEリディアンスケールを選びました。『ミダスマージ』で求められる、魅惑的で不思議な雰囲気が凝縮された、ぴったりのスケールです。
サウンドエフェクトに関してはプレイヤーの没入感を高め、ゲームプレイの要素を差別化することに重点を置きました。サウンドエフェクトを「メカニカル(機械的)」と「ミュージカル(音楽的)」の2つのカテゴリーに分けました。
メカニカル音:ゲームの世界で発生する物理的な作用に直結した音です。例えば、オブジェクトをマージさせたり資源を収穫したりした時、プレイヤーは画面上のアクションに対応した聴覚的なフィードバックを受けます。この音を目立たせ意識してもらうために、内輪で「キュートネスオーバーロード」と呼んでいたテクニックを活用しました。東洋のアニメのサウンドデザインに刺激されたもので、大げさな周波数シフト、コーラスエフェクト、ディレイなどを取り入れました。これらのエフェクトを機械音に重ねることによりプレイヤーの気を引き、没入感を高め、濃厚でイキイキとしたオーディオ環境をつくりました。オブジェクトが衝突または破壊した時などは、リアルな音が発生してかわいらしさが注入され、ゲームの全体的な魅力が強まります。
ミュージカル音:私たちのアプローチの中心となったのが音楽的なサウンドエフェクトをメカニカルレイヤーに重ねる手法でした。これをもとに、すべての聴覚的キューが魔法のような『ミダスマージ』の波長と共鳴するように計画しました。宝石のきらめきや妖精の羽ばたきなど、どのサウンドエフェクトも楽器やメロディー性の組み合わせが異なり、特定の動きをほかと差別化する役割を担い、クリックまたはマージするたびに前進するワクワク感を伝えます。
ミュージカルスティンガー:今回の音楽的サウンドデザインの中でも特徴的であるのがミュージカルスティンガーです。これらスティンガーをゲーム内の特定イベント、例えばオブジェクトのマージやレアなコンボの達成などに結びつけました。ゲームプレイイベントに基づく固有スティンガーを作成することにより、プレイヤーエクスペリエンスのドキドキ感とワクワク感が増します。マージ成功の歓喜のファンファーレや、レアアイテムを発見した時の別世界的なチャイム音など、ミュージカルスティンガーの使用が瞬間的な感動を高めます。プレイヤーを完全にゲームアクションに引き込みます。
『ミダスマージ』の音楽的なサウンドエフェクトは聴覚的な反応を提供するだけでなく、ゲームプレイのしくみに細かく織り込まれています。このような統合により全体的な没入感が強化されただけでなく、プレイヤーにとって貴重な「音によるヒント」が提供されます。音楽的なサウンドエフェクトとゲームの骨組みであるメカニカル面の整合性を確保することにより、プレイヤーを最初から最後まで虜にするシームレスかつ調和のとれた体験が成立します。
マージの技術的な部分
難しかった点
アートを担当するチームの希望に応えつつ、モバイルゲームの制約に対応することに大変苦労しました。
開発をはじめたころから私たちのメモリ使用範囲は制限されていることが分かっており、私たちはそれを考慮した上で制限を逆手に取るような戦略を立て、音楽重視の本ゲームに取り組もうと考えました。音楽的に1つのキーにフォーカスすることにより、Wwiseとプログラミングを併用して費用対効果の高い方法ですべての音楽的サウンドを制作・実装しました。
ダイナミックな全体像
『ミダスマージ』のサウンドエフェクトは順番に連続してトリガーされることがあり、音楽キーのピッチも変化するため、カオス状態にならないようにダイナミックに制御する方法をいくつか試しました。例えば1つのアセットを使いWwise内でピッチをあげる、スケールの範囲内でピッチをランダム化させる、複数のアセットを使いシーケンスをつくるなど試みました。
最終的に重要性と優先順位に基づいて、これら3つの方法を合体させました。
より詳細でプライオリティの高いマージ音などはシーケンス用に専用アセットを作成し、シーケンスのピッチがスケール内で上がるだけでなく、楽器演奏が大きくなることにより、プレイヤーは長いシーケンスを充実したものと感じ満足します。
一方、非常にはやくトリガーされるサウンドの固有アセット数は限られ、ディテールも少なくWwise内でピッチバリエーションが設定されるため、スケール内で多くの音符を使いながらもスペースを節約できます。このカテゴリーの音の多くはクールダウンがありランダムに再生されるため、スケールを直線的に上がることの多いほかの音と区別でき、複数のサウンドが数秒間の間にトリガーされるためミックスをコントロールしやすいです。
さまざまな音楽的なインタラクション音に加え、ガーデンレベルがアップした時やアイテムを発見した時、能力をアンロックした時など、フィードバック用に使うストリンガーも大量にあります。
これらの機能はゲーム内で非同期であり、オーディオの混乱を避けるためにルールをつくる必要がありました。ほぼすべてのスティンガーにハードリミットがあり一度に1つしか再生することができず、再生中にトリガーされた新たなスティンガーは落とされます。少数ですが例外的に優先順位の高いレベルアップなどのスティンガーは、ほかのスティンガーの上から再生することができ、ミックスを制御するために再生中のスティンガーのボリュームをダッキングして騒音を回避しつつ、プレイヤーのマイルストーン獲得を認識してあげます。
多くのミュージックイベントが発生し、ゲームのエクスペリエンスを快適にするために音楽の実装は非常にゆったりとしたアプローチで臨むことにしました。音楽でプレイヤーを圧倒させてしまうことは簡単で、聴覚の疲労が発生しやすくなります。メモリバジェットはすでにほぼすべてをミュージカル音に割り当ててしまったため、アセット数を抑える必要がありゲームプレイ用にトラックを数本のみとしました。
シーケンスとしてうまく機能し、サウンドの魅力を感じることのできる空間的な余裕ができました。音楽は非常にクールで落ち着いており、順番通りに再生され、途中で5秒から40秒のランダムな長さの沈黙が入ります。音楽にこのような沈黙の時間を注入することによりアンビエンス音が浮上し、プライオリティの低い音も飛び出すことができ、ミックス全体がダイナミックになります。
ミキシング
このゲームはインタラクティブ機能を重視しており、すべてのインタラクティブ操作に音が伴うため、聞き心地のよいミックスとなるようにさまざまなテクニックを駆使しました。StateやRTPCの切り替えと場面に応じたオーディオ選択が中心で、一部にサイドチェインも用いました。
複数のマクロレイヤーがありますが各レイヤーの音のボリュームをRTPCで制御しています。例えばプレイヤーがズームイン・ズームアウトした時、ゲームのアンビエンス、音楽、3Dサウンドなどのボリュームを変化させ、XPバブルのポップ音など、特定音のリバーブやディレイの強弱を調整しています。
Stateは主にUIのオーバーレイやゾーン遷移などに使いました。ゲーム画面の上にウィンドウやチュートリアルなどのUI要素がある場合や、ガーデンやスロットゾーンに入りサウンドスケープが変わる場合は、ゲームサウンド、音楽、アンビエンスなどのボリュームやフィルタをコントロールして変化させます。
特別な場面ではRTPCとStateの両方で目的を達成することもあります。例えばニクスがガーデンに入った時はRTPCやStateを使いミックス全体を変え、音楽のピッチを下げて不穏な雰囲気にします。
私たちが開発中に遭遇した大きな問題の1つがトリガー数の多い一部インタラクションです。プレイヤーはマージ、ランドのクレンジング、タイルのアンロックなどを長く連ねることができます。この時に音の連鎖が延々とトリガーされ、ボイス数が劇的に増加してしまいます。対策として一定の閾値を超える長いイベントの連鎖を検知した時は複数の個別サウンドを置き換え、長くリッチな1つのサウンドにしました。これによりミックスのボイス数、ボリューム、全体的な印象などがすっきりしました。
複数の音が同時に再生される時、数種類のサイドチェイン技法を用いてバランスをとります。エフェクトを厳密に制御する必要のないサウンド(つまりカットシーン)では、標準的なオートダッキングシステムを使います。すべてのスティンガーに「無音」を送り込むオートダッキングのトリックを使い、スティンガーのテイルと合わせてエフェクトのリリースを滑らかにします。
ミックスの中で弾んでポップさせたい音はWwise Meterエフェクトとプライオリティリストを活用し、ボリュームだけでなくEQ周波数やゲインなどのエフェクトのパラメータも制御しました。
最後に忘れてはならないのが1つずつしか再生しないサウンドであり、そのようなハードリミットが設定されたサウンドは、1つの再生が終わるまで次のものを消します。マージや複数タップイベントの時などに連続トリガーされるサウンドは、コード側でクールダウンシステムをつくり対応しました。
直線的なシーケンスをリセットする際はリセットタイミングに多少の猶予を設けている場合が多く、プレイヤーの動作に間があいてもコンボは続き、プレイヤーの動きが遅くてもひけ目を感じないようになっています。
最適化
最適化は手作業中心でした。私たちは試行錯誤を繰り返しながらファイルを変換しては品質をチェックし、行ったり来たりしながら圧縮率を増減させ、変換用のShareSetを細かく管理することでメモリ予算を最大限に使いこなしました。同時に心地よい音色を感じてもらう工夫をこらし、音楽の音質をあえて高い水準にしています。
音楽サウンドの多くはアセット自体に複数の楽器レイヤーがベイクされており、ピッチのランダム化を適用した場合は音程がずれて聞こえてしまいます。そこでこれらのツールは音楽以外のサウンドに多用し、アセット数のバランスを保ちました。音楽以外の多くのサウンドにピッチとフィルタのランダマイゼーションを頻繁に使っており、アセットのバリエーションは少ないです。
アンビエンスのアセットはRTPC、LFO、エンベロープを多用して数と大きさを抑え、実際よりも長く多様に聞こえるようにしています。
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