Jurassic World: VR Expeditionは、インタラクティブでシネマティックなバーチャルリアリティを楽しませてくれるロケーションベースのエンターテイメント乗物で、イスラ・ヌブラル島のまばゆいジャングルにプレイヤーを引き込みます。プレイヤーは、映画ジュラシック・ワールドから出てきたような壮大な救出アドベンチャーに挑みます。米Dave & Buster'sが100ヶ所以上のエンターテイメント施設にJurassic World VR Expeditionを導入し、過去最大のロケーションベース型VRタイトルのリリースとなりました!
そしてこの斬新なプロジェクトのオーディオ面を見事にこなしたのが、Hexany Audio社です。早速、オーディオディレクターでHexany Audioのオーナーのリチャード・ルドロー(Richard Ludlow)氏、テクニカルサウンドデザイナーのニック・トマセッティ(Nick Tomassetti)氏、サウンドデザイナーのジャスティン・ホリース(Justin Hollies)氏、そしてサウンドデザイナーのケレン・フェントン(Kellen Fenton)氏に、今回の経験談を聞きました。
Jurassic World: VR Expeditionは、ヒット作品のストーリーを忠実に守り、シリーズで馴染みあるメインの恐竜たちを登場させます。この背景や、映画とゲームですでに何百万人もの人がジュラシック・ワールドを知っているという事実は、クリエイティブな方向性にどう影響しましたか?独特な世界観のサウンドに、どのようなインスピレーションを受けてVR版を実現したのですか?
リチャード:
これほどファンの多いシリーズに関われることは、もちろんプレッシャーでした!また、Jurassic World VR Expedition(Expedition)を開発したThe Virtual Reality Company(VRC)と一緒に作業を進めながらExpeditionのソニックアイデンティティを探り出せたのは、かけがえのない経験となりました。
これだけ長く続いた、ブランドともいえるサウンドに、忠実に従いたいと思い、オリジナルのサウンドを引き継ぐような音にしたいと思いました。私たちは、VRCのクリエイティブディレクターでExpeditionのディレクターであるジム・リマ(Jim Lima)氏と協力しました。Jimの監督のもと、このシリーズ本来のソニックアイデンティティに忠実に従いながらも、新鮮な音を見出すことに成功したのです。
時どき、昔の映画などをゲーム向けにつくりなおすことがありますが、Expeditionでは違い、サウンドそのもので何かをしようという意図はなく、ジムは、観客が映画という形式を通じて慣れ親しんできた世界を、VRを使って、人々を虜にする全く新しい特別な世界にすることを思い描いていました。参加者がすべて見覚えあると感じてくれなければ、私たちは失敗したことになるのです。
Jurassic World: VR Expeditionでは、高品質のVRグラフィックスを、ハプティックス、サウンド、そしてトラッキングなどの技術と組み合わせています。オーディオ関連の作業は、開発のどの段階で始まったのですが?また、ほかの担当チームやステークホルダーたちと、どう協力したのですか?
リチャード:
プロジェクトによっては、かなり早期から参入することもあり、そうすると再生システムなどの開発が非常に有利だったりします。一方、Expeditionでは最後の方に参加する流れとなり、実はそれが大変上手くいったのです。ジムはこのエクスペリエンスで何を提供したいのか、とてもはっきりとした考えがあり、アニメーションスーパーバイザーのデビッド・シャーブ(David Schaub)氏が、デザイン作業の基準となるような恐竜のオーディオトラック第一弾を作成してくれました。恐竜のパフォーマンスの微妙な表現は、呼吸音や鼻を鳴らす音や発声など、アニメーション作業の開始前に完成させる必要があり、VRCがアニメーションを洗練させる段階で、シャーブ氏がさらに肉付けしました。まずアニメーションやゲームプレイのタイミングを完成させてくれたおかげで、私たちは入ってきてすぐに、数々の豊かなエクスペリエンスを実行に移すことができたのです。これは素晴らしいことで、いつもこのように進められるわけではありません。
乗り物酔いをしかねないほど、沢山の刺激が相互に作用する中、気分が悪くなるのを防ぐオーディオ面の配慮はありましたか?
リチャード:
これこそ、VRCのみんなが優れているところなのです。チーフテクノロジーオフィサーのキャリー・ビジェガス(Carey Villegas)氏と、ソフトウェアアーキテクトのジオ・バージョー(Geo Barjoud)氏が、何百時間もかけて、開発とテスト、最適化とUnrealのイテレーションを行いました。重要なのは、このVRエクスペリエンスがモーション対応プラットフォームを使っているということで、動作の速度や、モーションや、途中で休憩が入ることや、顔に風を当てることなど、すべて乗り物酔いを軽減するのに役立ちます。オーディオ的な立場からいうと、私たちは乗り物酔いの問題をそれほど気にしませんでした。これまで沢山のVRゲームをプレイしてきましたが、Expeditionはプレイヤーがジャングルの中を吹っ飛んでいくのに、私はまったく酔わなかったので、素晴らしくよくできていると個人的に思っていて、ありがたいことに、オーディオ担当者としてこの点は心配する必要がありませんでした。
一旦VRの空間に入ると、プレイヤーは5分の制限時間内にできるだけ多くの恐竜を助けようとして、その間、車がワイルドな環境を目まぐるしいスピードで暴走したり、今にも踏みつぶされそうになったり、タイヤがはまりそうになったりします。エクスペリエンス自体の長さからして、どのようなオーディオ的な判断を下しましたか?
リチャード:
5分は、とても長い時間です。ジムのストーリーのメインポイントは、ヴェロキラプトルのボス的な存在であるブルーとの特別な出会いにあり、そのシーンの大切さを表現するために私たちは多くの時間を費やしました。これに合わせて、ヒーロー的な恐竜やT-レックス(ティラノサウルス・レックス)たちの音も強調する必要がありました。
VRエクスペリエンスのスターは恐竜たちであるという前提のもと、環境の効果音や音楽の役割は補助的になりました。
また、今回は比較的、時間の定まったリニアで短いエクスペリエンスだったので、最終的に一部のSFX(車両の音など)を音楽システムに入れ込み、音楽システムで提供される音量の自動調整を有効に活用することにしました。
プレイヤーの状況判断を支援し、注意を促すのに、サウンドはどのような役割を担いますか?
ケレン:
遠くに聞こえる恐竜のフットステップと鳴き声や、樹木の動き、そしてアンビエンスの切り換わりなどの音をいたるところに注意深く配置し、エクスペリエンス内の1つのシーン(セクション)から別のシーンに移るときに、場面の変化が音で裏付けられるようにしました。
このエクスペリエンスでは、各種サウンドの優先順位をどう決めましたか?プライオリティ付けのために設計したシステムがあれば、教えてください。Wwiseはどのように活用しましたか?
ニック:
恐竜たち中心なので、彼らの鳴き声や効果音を一番目立たせる必要がありました。Dave & Buster'sの施設ほどうるさい環境では、場内の騒音も、ゲーム内の状況と合わせて考慮しなければなりませんでした。WwiseのMeter機能と自動ダッキングを利用して、大事な場面では恐竜がミックスの中で最も目立つように、アンビエンスや、重要でない効果音を、小さくしました。
リチャード:
ジムは恐竜たちの突進シーンを劇的な場面にしようと考え、狂ったような恐竜の群れに囲まれる、大がかりなアクションシーンを目指しました。サウンドデザイナーのウォルター・マーチが世の中に広めた「3つのルール」は、スクリーン上に3つ以上の似た音が発生していると(例えば恐竜のフットステップなど)、視聴者は、音とその具体的なアクションを結びつけることができなくなってしまうという現象を表しています。
ところが、VRでは少し状況が異なることを私たちは発見しました。首を回して自分の左右や前にいる恐竜を自由に見ることができるようになると、ファーストパーソンという視野の狭さから、何か足りない音があると、その欠陥に気づいてしまう確率がぐっと高まるのです。「3つのルール」自体は、もちろんまだ有効です。ただVRとなると様々な視点や視野があるので、考慮しなければなりません。
そこでプレイヤーの間近にいるすべての恐竜たち(これにT-レックスなど巨体の恐竜も合わせ)には、実際にアニメーションと紐づけられたフットステップが必要でした。これと合わせて、「左側」フットステップのオーディオトラック(ステレオ)と、「右側」フットステップのトラック(これもステレオ)を用意しました。この2つにたっぷりのスプレッドを設定し、アニメーションに紐づけられたフットステップを合わせると、突進場面のサウンドはかなり満たされたものになり、その空間的な配置も維持できました。
もちろんその他の要素にもスプレッドを適用し、例えばT-レックスの鳴き声などは、T-レックスが接近するにつれ、よりステレオ音になり、シネマティックになります。
オブジェクトに設定した音と、アンビソニックスを、どのように調整して立体感のあるまとまったミックスを達成したのか、詳しく教えてください。
リチャード:
実はこのエクスペリエンスにアンビソニックスは採用せず、その代りにオブジェクトベースの音と、より伝統的な2Dステレオ音を組み合わせ、できるだけ映画のようなエクスペリエンスに仕上げました。基本的にタイミングが固定されたエクスペリエンスだったおかげで、特定の要素は2Dでデザインし、それを空間性のある音で強調するという手法を取ることができました。例えば、プレイヤーがプテラノドンに襲われそうになるとき、実は、翼が大きすぎてスペーシャリゼーションの意義がそれほどないので2Dの羽音とし、それに対し叫ぶような鳴き声は3Dのモノ音とすることもあり、万が一プレイヤーが空からの攻撃に気付いて居なくても、はっきりと位置が分かるようにしています。
Jurassic World: VR Expeditionでは、同時に4人のプレイヤーの注意を引く必要があります。複雑になり過ぎたのでは?また、プレイヤーたちは、恐竜の捕獲数を競い合いますが、バーチャルエクスペリエンスの中で、ほかのプレイヤーのシルエットが見えます。モーション対応の遊具で座る位置、つまり左端か、右端か、中央か、などによってオーディオエクスペリエンスも変わりますか?
リチャード:
幸運にも、それは問題になりませんでした(私たちにとっては)!VRCチームのおかげですが、彼らは裏方で魔法のような技術を駆使し、どのプレイヤーも実際には同じようなエクスペリエンスとなるようにしたのですが、私たちが処置しないといけないようなプレイヤー間の大きな差は、ありませんでした。
このエクスペリエンスには、モーション付きの椅子とHTCのVive VRヘッドセットが使われています。これは自宅のVRエクスペリエンスと違い、施設型のVRエクスペリエンスですが、どのような特別な配慮が必要でしたか?また、クリエイティブな決断や、テクニカルな選択に、どのような影響を与えましたか?
ケレン:
最初から遭遇した大きな課題が、ミックスの方法でした。これが自宅用のエクスペリエンスなら、もっと密度の濃いダイナミックなミックスをデザインしますが、施設型のVRエクスペリエンスでは、その他の刺激が常時、プレイヤーに降りかかってきます。サウンドデザイナーとして、今プレイヤーが聞き取る必要のある重要な音は何なのかを考える必要があり、私たちのミックスは、これに基づいて決まりました。
物理的な環境や五感にうったえるエクスペリエンス(匂いや風など)の中で、オーディオエンジンが効果的に働くものはありましたか?なければ、オーディオエンジンで起動するのに向いているのは、何だと思いますか?
リチャード:
時どき、ロケーションベースのエクスペリエンスで私たちがオーディオやWwiseを効果的に使うことでハプティック面を担うこともありました。ただ今回のプロジェクトでは、送風機の風など、聴覚以外の感覚的な要素はすべて、VRCがデザインし作成しました。Hexanyは、その優れた内容をサウンドでサポートしただけです。
今までに関わってきたロケーションベースエクスペリエンスのうち、複数の案件で、送風機が風の音を充分に出すうえ、サウンドを部分的に聞こえなくしてしまうので、結局、風のサウンドをカットする必要があったことが何度かありました。開発中に度々モーション対応プラットフォームをテストしましたが、これが大変役に立ちました。
ヘッドフォン外で、このロケーションベースえなーテイメント環境のほかのスピーカーなどから、オーディオを流すことはありましたか?
リチャード:
もちろんDave & Buster'sでは環境ノイズが多いほか、エクスペリエンス設備に乗っているグループとは別に、次のグループのプレイヤー向けに再生されるプレビュー動画がありました。外部音はかなりありましたが、それらのスピーカーはプレイヤーにとって不用のものでした。今までにヘッドフォン用のゲームでLFEコンテンツをサブウーファーで強化することはありましたが、今回は環境が環境だったので、それは行いませんでした。
始める前に考えていたクリエイティブまたはテクニカルな方向性が、思った通りにいかずに採用できなかったことはありましたか?なぜですか?特定のクリエイティブな課題やテクニカルな問題で、行き詰ったことはありましたか?
ジャスティン:
プロジェクト開始時点で、私たちはプレイヤー周りのワールドをとても生き生きとした躍動感のある環境にして、細かいバックグランドやアンビエンスを入れようと思っていました。私たちの最初のころの提案内容を見ると、鳥や昆虫や遠い恐竜のレイヤ、風や木や水のレイヤなど、もっと数が多かったのです。ただエクスペリエンスの内容がさらに発展し濃くなってくると、アクションやシネマティックな場面がたくさんあるシーンなど、特定シーンから私たちは音の要素をそぎ落とし始めました。その結果、ミックスがすっきりし、プレイヤーの目を各シーンの重要な要素に向けることができ、サウンドトラックにもまとまりが出てきました。
Wwise機能のうち、あなたたちのクリエイティブな方向性を実現するのに特に役立ったのは何ですか?
ニック:
全く変化しない変形曲線にそって動くアトラクションなので、コリジョンゾーンをつくり出し、それでWwiseでデザインした様々なアンビエンスをトリガーさせることができました。User-defined positioningを使えば、ゲームのワールド内を移動する物理的なオブジェクトに頼る必要がなく、ポジショニング用のパスを自分たちで設定し、自分の周りでモノが動き回っているような効果を出せます。
リチャード:
ほかにもスプレッドやWwise Meterやダッキング機能は、先ほども説明したとおり、大変役に立ちました。それに加え、プロジェクト内でメモリ再生かストリーミング設定かを選べることは、パフォーマンスの最適化の段階で必ず、非常に役立ちます。
このプロジェクトで、一番誇りに思うことは?
ケレン:
Jurassicシリーズのワールドにしっくりくる音でありながら、プレイヤーたちの経験を格段に高めるような没入感と信憑性を追加できたと思います。
このプロジェクトで、一番楽しかったのは?
ケレン:
私たちが使えるように、1993年の映画Jurassic ParkのオリジナルのSFXステムを数多く提供してもらいました。VRCがこれらの音を使い恐竜たちの鳴き声や会話をマッピングし、恐竜たちのパフォーマンスのアニメーション作業に使いました。私たちは、このアセットをさらに編集したり、新コンテンツを別レイヤとして追加したりしてアニメーションに合わせたほか、自分たちの音やコンテンツも追加レイヤとして重ね、ジャングルのアンビエント音や、突進場面の恐竜たちの音として利用しました。
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リチャード・ルドロー(Richard Ludlow) オーディオディレクター、オーナー |
ケレン・フェントン(Kellen Fenton) サウンドデザイナー |
ニック・トマセッティ(Nick Tomassetti) テクニカルサウンドデザイナー |
ジャスティン・ホリース(Justin Hollies) サウンドデザイナー |
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