自動車のオーディオ管理の一元化

オートモーティブ / インタラクティブオーディオ

コンチネンタル社は、高度なオーディオ管理ソリューションであるWwise Automotiveなどを利用し、あらゆる車載音源を総合的に管理する方法を提供します。Functional Audioソリューションは、ドライバーにとって有意義な情報として展開できるデータソースを統合管理し、そのデータで、カスタマイズされたサウンドデザインを実現します。真のオートモーティブシステムとしてFunctional Audioは、ハイフィデリティ性能と、ヒューマン・マシン・インターフェースの聴覚的チャンネルの機能性を組み合わせ、オートモーティブシステムに必要な信頼性も備えています。

車内の音には複数のレベルがありますが、多くのドライバーが最初に思いつくのは音楽再生やラジオ放送の音である一方、運転行為に直接関係する情報を提供する別のレベルもあります。現状では、このヒューマン・マシン・インターフェースというレベルのオーディオが、別に処理されるので、様々な種類の音が、複数の車載コンポーネントや電子制御機器によって個別に生成され管理されています。例えば、方向指示器などの自動車の基本音や、当然のことながらラジオやUSB入力などの音源、メール受信音や電話の着信音、インフォテイメント用のアプリケーション音、そしてもちろん、ドライバーにとって重要なナビゲーション指示の情報、そしてブラインドスポット支援や駐車補助システムなどのアラート音などがあります。

音を使ってドライバーに情報を伝達する方法は、自動車の優れた音響エルゴノミクスによって強化されます。音は、立体的に方向を表して瞬時に理解できる「チャンネル」である上、視覚的な「チャンネル」の負荷を軽減してくれます。交通情報や、その他のビジュアル情報が充実すればするほど、感覚が圧倒されてしまいます。そこで近年、自動車業界はユーザーフレンドリーな情報の提示方法を追及しています。最近まで、視覚的な表示が注目されてきましたが、マルチモーダル(multimodal)アプローチという、ヒューマン・マシン・インターフェースやインタラクションの概念では、聴覚的メッセージが重要な役割を果たし、特に、メッセージの内容や緊急度に応じて様々な人間の感覚(視覚、聴覚、ハプティック)が利用されます。

このような全体的な考え方で1つのチャンネルに負担がかかりすぎるのを回避できるほか、段階的な注意喚起を進めやすくなり、運転中の状況や瞬間的なドライバー負荷に考慮しながらドライバーの注意を引いたり、誘導したりできます。これは、全ソフトウェア対応のFunctional Audioソリューションの大きな特徴の1つであり、データの「ソニフィケーション(音化)」 [1] によって、具体的な状況や要件に対応できるサウンドデザインを実現し、安全運転のレベルを向上できます。 

音への全体的な取り組み

全体的にとらえるインタラクションの概念は、自動運転、自動車の電化、スマートシティのフリート車両など、世界的なオートモーティブトレンドに応えるための要件でもあります。例えば、自動運転モードから通常モードへ、できるだけシームレスに切り替えるには、新種の情報が必要です。また、電気自動車はエンジン音がないため、音の活用方法を変えることができます。現在、自動車には相互に無関係な音源が多数存在するので、それぞれの音の範疇を超えた領域で、音の優先順位を判断することは困難です。音は特定の機能表現であることが多く、全オーディオメッセージを包括的に管理することはできませんでした。しかし、新たな車両アーキテクチャの出現により、全ての音源を統合する必要性が出てきました。Functional Audioは、この課題に完璧に対応する技術ソリューションを提供できるソフトウェアです。

 

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1: ヘッドユニットやアンプのオーディオ管理を一元化することで、機能とデザインの幅が拡大。

Functional Audio(図1)はこれまでオートモーティブ業界で不可能とされてきたサウンドデザイン機能を実現させます。集約されたオーディオマネジメント機能に助けられ、特定の現象にドライバーの注意を引きつけることができます。例えば、運転中に右側から車が近づくと車内の右側から警告音を鳴らし、ドライバーのフォーカスを直感的に、見なくてはいけない方に向かせ、ほかの音はフェードアウトさせます。Functional Audioは、コンチネンタルの 統合インテリアプラットフォーム(IIP を基盤としたソリューションです(図2:  

Picture2

2: コンチネンタル社の統合インテリアプラットフォーム に基づくFunctional Audio

IIPと、そのアーキテクチャによって、インフォテイメント機能やインストルメントクラスタを同じハードウェア内で組み合わせられます。ハイパーバイザ(hypervisor)テクノロジは、安全運転の関連システムを確実に常時稼働させ、インフォテイメントシステムと分けて扱います。ソフトウェアアーキテクチャは全てのモードにおいて、状況に適した、スムーズで特定分野にとらわれない情報供給を保証します。これを利用することでFunctional Audioは全ての情報を処理し、全音源のアウトプットを管理できます。また、車内サウンドをカスタマイズしたり、既存ノイズの優先度を上げたり大きくしたりするのも、このソフトウェアです。例えば、車両のうしろを人間が歩けば、動かない物体の存在を警告する音よりも、大きなアラートを鳴らすことができます。 

複数のソースからくるデータのソニフィケーション

Functional Audioは、高度なドライバーアシスタントシステムやコンチネンタルのeHorizonのようなクラウドアプリケーションに接続できます。システムでデータを受信し、それに基づいて様々な音を生成したり調整したりします。例えば、ソニフィケーションを車両接近通報システムに適用できます [2]。先にドライバーの方が危険を察知すれば、早期の警告は不要です。一方、危険現象がドライバーの視界に入っていなければ、早めの警告を発信し、適切な対策を促します。カメラを使いドライバーをトラッキングすることで、ドライバーの目線を検証できるので、危険認識のレベルも検証できます。システムは、データを特殊なサウンドデザインに合わせて処理し、聴覚ディスプレイという形式で再現します [3]

スペーシャルオーディオのおかげで空間配置を意識したアウトプットができ、車内のほぼ全ての場所が音源配置の対象となるので、単独、またはほかの音に重ねて、任意のスピーカーから音を出してドライバーの注意を引くことができます。あとはドライバー自身が聞こえてくる信号の方角を調整し、最大8度の角度まで正確に設定できます。データを音に変換することで、ナビを利用するドライバーを補助できます(図3)。

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3: データに常時接続することで、ナビ内容のソニフィケーションが可能に。

曲がるポイントに接近中のときは、徐々に大きくなるアラート音でドライバーに知らせます。ドライバーは、ディスプレイの距離情報に目を向ける続ける事もなくなり、距離を推測する必要もありません。

このような調整されたオーディオアウトプットは、運転中のほかの状況にも役立ちます。例えば、方向指示器の音に追加情報を含めて効果を上げることもできます。ドライバーが前の車を抜かそうとして車線変更の前に方向指示器を起動させると、システムは、ブラインドスポットの補助を開始します。後ろから別の車両が接近する時は、方向指示器の音に重ねて警告音を鳴らします。問題となった車線が空いたときに初めて、方向指示器の音を通常音に戻します。車両衝突通報の考え方もこれに似ています(図4)。

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4: 間に合うように衝突を警報する、スペーシャルオーディオを使ったアラート

このシステムは、ドライバーに障害物や危険性などを音で知らせます。コネクテッドカーはデータに常時接続しているので、衝突の可能性があれば、その危険が角を曲がったあとや、坂を上り切ったところに潜んでいたとしても、警告できます。 

プラグインに基づくシステム

テキスト読み上げエンジンや、Auro3Dオーディオ強化など、サードパーティのサウンドアルゴリズムをプラグインとしてFunctional Audioに柔軟に採用できます。これらの機能や設定は全て、サウンドデザインツールWwiseを使えば、ビジュアル表示が豊富なユーザーインターフェースで設定できます。開発者は、様々なサウンドデザインや設定方法を事前にシミュレーションして、リアルタイムでテストし、変更し、車に保存することができます。効率性も向上するので、各サウンドエフェクトの開発時間が短縮されます。

集約型のオーディオマネジメントシステムは、従来のなじみ深い機能も全て提供します。例えば、携帯端末からコンテンツをストリーミングしたり、音の再生の優先順位を設定したりできます。ハードウェア側の変更は必要ないので、ソフトウェアを、例えば統合インテリアプラットフォーム(IIP)上で実行できます。場面ごとに再生すべき音や、様々な音の優先順位などは、自動車メーカーが決定できます。使用するサウンドは、社内で独自開発することも、外部委託することも可能です。コンチネンタル社が、要件項目を受け取り、信頼できるシステムに組み込みます。

高品質でマルチチャンネルのスピーカーシステムを搭載すると強化される機能は多数ありますが、基本的には車載スピーカーが2つあればFunctional Audioが機能するので、あらゆるクラスのモデルで採用できます。車をセキュアな接続でクラウドにつなげ、サウンドデザインを更新したり変更したりすることも可能です。このため、ドライバーはアプリを使って新機能をインストールしたり、自分のカスタマイズしたサウンドデザインを、車両フリートの今日使う車にダウンロードすることさえ、できるのです。

 

Literature
[1] Thomas Hermann, Andy Hunt: The Sonification Handbook, first edition, 2011, Logos Verlag, page 10.
[2] Jaka Sodnik, Sašo Tomažič: Spatial Auditory Human-Computer Interfaces, first edition, 2015, Springer Verlag, page 62.
[3] P. Bazilinskyy: Auditory Displays for Automated Driving, 2017. www.researchgate.net/publication/312940263_Auditory_displays_for_automated_driving
[4] Continental: Integrated Interior Platform, 2017. Link: https://www.continental-automotive.com/en-gl/Passenger-Cars/Interior/Display-Systems/Integrated-Interior-Platform.
[5] Continental: 3D-sound improves driver assistance systems in cars. Link: https://www.continental-corporation.com/en/press/press-releases/2018-02-26-predictive-connectivity-122554.

コンラッド・ヒラリウス(Konrad Hilarius) & ヨルグ・ヴィタウス(Jörg Witthaus)

Continental Automotive GmbH

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