このブログ記事は、ビデオゲームにおけるインフォーマントオーディオ(informant audio)の使用、ゲームのサウンドをゲーミファイ(gamify)するためにゲームデザインとサウンドデザインを組み合わせてゲームデザインやプレイヤーガイダンスに活用する方法、そしてゲームデザインとサウンドデザインでより深く物語性をサポートする方法を検討します。特記のない限り、ここで掲載した事例はすべて私個人の観察であり、取り上げたゲームやデベロッパと個人的な関係は一切ありません。個々のゲームを推奨するつもりはなく、私が純粋にゲームオーディオやゲームデザインに興味があり、インフォーマントとしてのオーディオの活用に関心があるからこそ書いた記事です。では、本題に!
ワームホールで待機して誰かの到着を待つ宇宙船 - ワームホールの活発化を音で探知する機能は、ゲームオーディオの抜群のゲーミフィケーションといえる。
オーディオとグラフィック - それぞれのユニークな仕組みを、ゲームプレイやストーリーの中で活用
ビデオゲームが誕生して、しばらく経ちます。ゲーム体験を生み出す為に、グラフィック、ゲームプレイ、サウンドエフェクトなどを融合して活用する一方で、それぞれの分野で別々に開発が進むのを観察できたことは、とても勉強になりました。残念ながら、私達は分野を1つ、あるいはせいぜい2つに限定して着目して、ほかの要素を無視しがちです。実際にはすべてを組み合わせてゲーム体験が作り出される為、もったいないと思います。
人間の思考は原始的で、仲間に危険を知らせたり自分の回りの脅威を感知したりするための感覚を中心に構築されています。私自身もサウンドデザイナーとして、デベロッパ自身が協力し合える方法をよく理解できていないように思うことがあります。デベロッパ自身が悪いわけではないのですが、サウンドもグラフィックも、当然のようにゲームプレイやストーリーなどの脇役として捉えられてしまいます。一方、サウンドやグラフィックの使い方が技術的にも機能的にも進化し、これらの要素がゲームプレイやストーリーの中でユニークな役割を担えるようになっています。決してどちらか一方が優れているとか、優遇されているとか、重要ではないと議論しているのではなく、逆に私達の目標を高めて専門家同士の協力を推進することで、究極のビデオゲーム体験を提供するために何ができるかを考える機会だと思います。
ビデオゲームを主題にしたいくつかのドキュメンタリーでは、サウンドデザインが開発プロセスの中で、まるで意地悪な姉のように扱われ、必要とされているのに実際の目的やニーズがよく誤解されてしまいます。(1) 私が大学で書いた論文(2)は、既にプロのサウンドデザイナーとしてビデオゲームに携わっていた頃のものですが、音をビジュアルのサポート役として使うのでなく組み合わせるという観点で書かれた論文などが不足していることに、そのとき気づきました。
EVE Online をハッキング - 未発見のノードでホバーして、そのフィードバックに聞き耳をたてるのは、ゲームオーディオのゲーミフィケーション。
リニアメディアのときと全く同じように、ゲームのサウンドはストーリーやムードのサポート役でしかないという誤解があり、がっかりしました。ビデオゲーム研究の中でさえ、サウンドはリニアメディアのときと同様に分析され、取り扱われていたのです。さらに、私が働いていたいくつかのスタジオでも、同じようなことがみられました。ほかの開発者たちが誰も分かっていない、と主張しているわけではなく、以前はサウンドが限定され、コンピューターの力不足でコントロールしづらかったころの名残があり、この考え方がなぜか抜けきらず、未だに可能性を活用しきれていません。
もともと学生時代にアートやインタラクティブメディアを学んだので、ゲームのサウンドをインタラクティブアートとして取り扱うことの可能性に気付き、あらゆる形状のインタラクションからデータを取得して、フィードバックを、この場合ではサウンドを通して提供するのが、一種のインタラクティブアートのインスタレーションだと考えました。私はこれらをオーディオインフォーマント(audio informants)と名付け、ゲームの中で使用できる様々な方法を洗い出そうと思い、例えばゲームイベントの前後に直接リンクするダイレクトインフォーマントや、即時対応の形式や、イベントに直接リンクするサウンドと同じくらい役に立つような間接的にリンクされたサウンドや、より目立たない方法や、より曖昧なゲームパラメータやイベントへのリンクなどを検討しました。サウンドスケープをゲーミファイする際に、何もかもインフォーマントにできるわけでも、するべきでもないことを充分理解しておくべきで、サウンドの第一目的であるストーリーと期待されるムードのサポート役だけに専念させるサウンドも多数あります。
常時続く、プレイヤーとマシンのやり取り
スティーブ・スウィンク(Steve Swink)は、その著書Game Feelで、ゲームとプレイヤーの間でコミュニケーションが発生する方法を的確に説明し、リニアメディアがモノローグとして分類できる一方、ゲームではプレイヤーアクションに対して常にフィードバックを出すため、ダイアログとして分類できることを述べています。私は、これをプレイヤーとマシンのコンスタントカンバセーション(constant conversation)と名付け、そのプロセスを明らかにするために、情報を言語や電子情報として交換する既存の様々なコミュニケーションモデルにリンクさせました。
このコンスタントカンバセーションモデルは、基本的にはベーシックなコミュニケーションモデルの組み合わせで、それにはモノローグ、ダイアログ、コンサルテーション、レジストレーション(登録)などがあります。さらに、それらを一緒に組み合わせたものがあります。
コンスタントカンバセーション - プレイヤーがアクションを実行すると、ゲームが反応して、プレイヤーがそれを受けとめ、新しいアクション、リアクション、レスポンスが起き、そしてリピート。(2)
インフォーマント: 直接、事前、事後など。
インフォーマントの種類を、事例を交えながら説明します。
推理型オープンワールドアドベンチャーのL.A. Noireに、素晴らしい例がいくつかあります。あなたは主人公としてプレイして、犯行現場の謎解きに重要な証拠や手がかりに近づくと、ピアノの小さなチャイム音が鳴ります。あなたがそのゲームオブジェクトに向かうと、チャイム音が再生されます。また、あなたがそのゲームオブジェクトと既にやり取りをしていたり、その役目を消滅させるようなほかのアイテムとのやり取りが既にあった場合、チャイムは少し違って聞こえ、プラスまたはマイナスのフィードバックがチャイムで伝わります。直接的で即時的なインフォーマントの非常に分かりやすい例です。ゲーム中に「直感ポイント」なるものを消費すればミニマップ上で手がかりをすべて確認できますが、このような手助けに全く頼らなくても犯行現場を歩き回りながらチャイムに聞き耳を立てるだけで、その場を簡単にクリアすることができます。
同じ状況で謎解きの音楽も再生されていますが、これは捜査中だけに再生されて、最後の証拠やパズルが発見されたり解かれたりすると、エンドスティンガーが再生されて音楽が終わります。
これは、主に戦闘場面でビクトリーゴング(victory gong)と呼ばれ、特定の状況の終わりを明確に示すためのサウンドで、非常に直接的な方法で音を使って、プレイヤーが新たな犯行や現場を求めて次に進めることを伝えます。また、L.A. Noireでは音楽が実際の犯罪現場周辺でしか再生されないので、現場の周りを歩いて、一定の場所を過ぎると音楽が小さくなるのを感じたら、あなたが探している証拠物品などが、その方向には絶対にないことを聴覚的に通知されていることになります。
このようなビクトリーゴング的な音楽スティンガーや音は、多くのゲームで取り入れられています。Uncharted、The Last of Us、Gears of Warなど数々のゲームで、戦闘中に独特の音楽を再生して、さらに、戦闘が終了したことを独特の方式でプレイヤーに聴覚的に通知するので、あなたはそれを聞くと、ひと息入れてコントローラをつかんでいた手を一旦緩めることができます(もちろん、それだけ難しいレベルでプレイしていればの話ですが)。ビクトリーゴングは、まさしくイベント後のインフォーマント要素であり、特に何かを伝えるというよりも、あなたが今やっていることをやめて、次に進むことを促すだけです。L.A.Noireには、取り調べモード用のピアノのチャイム音もあり、相手の質問に正しく答えなければならない場面で出てきます。あなたがアクションを決めた後にしか再生されない音で、その結果に関わらず、アクション後に変更することはできないので、これもまたイベント後のダイレクトインフォーマントといえます。
The Last of Us(私が今までプレイした中でもトップを争うゲームの1つ)にもインフォーマントが沢山あり、L.A.Noireのインフォーマントと似ています。戦闘音楽は戦闘中に再生されて、最後にビクトリーゴングと共に終了しますが、敵に見つかりそうなときに、その接近値に直接リンクしているノイズ的な音があり、こちらの方が重要です。ステルスモードなどで特に役に立つ音で、イベント前の大事なダイレクトインフォーマントです。The Last of Usの中では実に完璧に機能していて、ステルスの場面では、目を閉じて耳を澄ますだけでクリアできる瞬間もあるくらいです。一旦敵に見つかるとノイズの再生が急にストップして、敵に感知されたことを示す直接かつ瞬時のインフォーマントとして特別な音が再生され、ゲームプレイは、戦闘モードなど、あなたが現状に対応するために選んだ状態に切り替わります。このように、The Last of Usのステルスと戦闘に、事前、事後、そして即時の聴覚的なインフォーマントが採用されていて、プレイヤーを大いに補助しています。
なお、この音はプレイヤーを補助するためにある、とチュートリアルやゲームのほかの場面で説明されることは一切なく、これも重要なポイントで、なぜかプレイヤーは、すぐにその意味を把握して利用するようになり、ゲーム中にその音に影響されて自分自身のアクションを何らかの形で変えたとは、自分で説明したり思い出したりできなくても、実は活用しているのです。Last of Usの開発チームは、違ったソリューションを採用して、例えば敵が接近してくる方向を矢印だらけにしてビジュアルで表現したり、見つかりそうになると色を変えたり、そのほかのビジュアルソリューションを検討することもできたと思います。ビジュアル的な表現は悪くないですが、全てのアート、そして特にこのようなゲームに組み合わせた場合のアートは、ある瞬間、飽和状態に達してしまうと思います。ビジュアル的な負荷をサウンドで軽減できるのであれば、なにも画面のUI要素を使い過ぎる必要はなく、当然その逆も言えます。その方が、プレイヤーのエクスペリエンスがぐっとスムーズになると、信じています。
飽和状態、別名「情報オーバーロード(情報過多)」
飽和状態(saturation)は情報オーバーロード(information overload)と言ったり、infobesity(情報肥満)、infoxication、cognitive overloadなどと表現したりします。このトピックについてWikipediaに記事がいくつかありますが、基本的に飽和状態とは、一度に情報を大量に受け取り過ぎて、正しい判断を下すことができなくなった状態を示します。きっと、私よりも上手に説明できる人がどこかにいるはずです。是非、誰かにこれを博士論文の主題として、ビデオゲームをプレイしている時に、人間が一度にどれだけの情報を消化できるのかを情報の種類別、例えば視覚的、聴覚的、さらに感情的に受け取れるのかを、研究してもらいたいです。
そしてもちろん、画像情報オーバーロードの恐れがあるのと同じく、聴覚的な情報オーバーロードが発生する可能性も確かにあり、そうするとプレイヤーに伝えたい情報が音の泥沼の中に消滅してしまいます。これをエンジニアリングの観点から技術的に解消して、ミキシングして、修正する方法は、また別のブログトピックとなります。今回は理論的な観察に限定したいと思います。
グラフィック、UI、そして情報のオーバーロードは、様々な様式や形状で出現します。「充分」とはどれくらいなのか、そして人間がどれくらいまで解釈できるのかは、非常に主観的で個人的なものです(あくまで個人的な考えですが)。World of Warcraftをプレイするのと、ほかの人がプレイするのを観戦するのとでは、少なくとも自分の場合は全く異なり、なぜなら私は、何が起きているのか全く分からないし、UIやアイコンをパワー別に整理する個人のスタイルなども、分からないからです。ほかの人がプレイしていると、私は情報が多すぎると必ず感じます。きっと、受け入れられるUI的な情報量に関して、自分はミニマリストなのだと思います。また、以前の同僚でIO InteractiveのUIデザイナーのGuus Oosterbaan (8)と、UIや情報オーバーロードに関しておもしろい議論をしたことがあり、彼が言っていたのは、リモコンでボタンが88個もあれば多すぎるのに、ピアノの鍵盤が88鍵なのは全く問題ない、ということです。また、ピアノ初心者が88鍵を前に混乱してしまうところ、経験豊かなピアノ奏者は違います。
実は私も、自分の家にサウンドデザインやサウンドプロダクションに不慣れな人が遊びに来て、マルチチャンネルミキサーを見たときに、同じことを言われます。「こんなにたくさんのボタン、一体どうやって覚えるの?」と聞かれます。でも私にとって、どのボタンが何をするのかは一目瞭然で、システムとして整備されているのが分かるので、1つのセットが理解できれば、すべての列を理解できると知っています。
このような配慮がサウンドにも適用されるべきで、特定の警告音やアラームを聞いたことのない新人は、はじめは混乱したり、ノイズとしてうるさいと感じたりしますが、その使い方を学び、そこから得る情報を利用できるようになれば、変わります。
UIの情報オーバーロードの議論に話がそれてしまいましたが、実際のゲームの音とインフォーマントに話を戻します。
ゲーミフィケーションと、コミュニケーションモデルのつづき
HITMAN Absolutionにも、どれ位の距離で敵に見つかるかを示すパラメータに直接連動する音や、その敵の居場所が画面の印で表示されますが、難しいレベルに入るとUIが完全に排除されるので、プレイヤーはサウンドだけを頼りに行動するか、このゲームの玄人となり敵の居場所を覚えるしかありません。
The Last of Usと、HITMAN Absolutionの、レジストレーションモデル。これらのゲームでは、プレイヤーとNPC(ノンプレイヤーキャラクター)の視界の間の距離を自動的にレジストレーション(登録)して、警告音を出す。
このコミュニケーションモデルに関しては、これまで何回も講演して、私はいつもこのレジストレーションモデルを「ビッグブラザーモデル」と表現していますが、それは主に、プレイヤーが知らないところでプレイヤーに関する情報を登録していくからです。悪い意味ではなく、この情報を元にあなたのゲーム体験を様々な形で変化させることができ、音やビジュアル以外の方法も活用できます。
インフォーマントオーディオの斬新な活用例や、サウンドデザインをゲーミファイしたりゲームデザインと組み合わせたりする事例は、自分に有利な方法でサウンドを使いこなす人にとっては良いことですが、すべてのいい話と一緒で、ユーザーは、あなたが意図したことと違った方法でプレイするかもしれませんし、あなたが揃えた幅広いインフォーマントを、そのインフォーマントがグラフィックであれオーディオであれ、単純にユーザーの身体的な障害などのため、経験できないことも考えられます。
そのため、前述の飽和状態と同じレベルで、そして全ての音をインフォーマントにしたり、ゲームの致命的なパラメータに接続したりする必要がないことを念頭に、もし音を消した状態でこのゲームをプレイしてもエクスペリエンスが好評を得られるか、考えてみる必要もあります。決してプレイヤーに音を消すように勧めているわけではなく、ゲームの大きな部分が失われてしまいますが、あなたの創作成果を物理的に聞けないプレイヤー達も物足りないと感じず決定的な不利を経験せずに、ゲームをプレイできなければなりません。
L.A. Noireには、グラフィカルなインフォーマントやレスポンスの代替となる素晴らしい機能があり、現在のルートをミニマップ上で示さず、ゲームプレイ中に道路上に直接示すこともなく、ある場所から別の場所へ運転することができます。コントローラボタンを1つ押すと、主人公とパートナーの短い会話が起動して、パートナーが、正しい方向に行くために実行すべきアクション、例えば「左折して」や「そのまま直進」などと教えてくれます。そうすれば、ゲームプレイ中に行き先を矢印や色分けなどでそこら中に示す必要もなく、進行方向の情報をゲームのダイアログに取り込むことができ、次にどちらに進むべきかを、非常にダイレクトなインフォーマントとして提供できます。
L.A.Noireのガイダンスシステムにある、コンサルテーション(相談)モデル - プレイヤーが進行方向に関して正しいキー入力でゲームに相談すると、ゲームが、進むべき道順を返す。
音をインフォーマントとして使い「聞く者こそ勝つ」というシナリオを作成すると、インフォーマントオーディオはゲームプレイとゲームの音をつなぐツールとなるので、ゲームの雰囲気を表現するためのレイヤとして音を使うのとは、異なります。
このブログのPart 2で、さらに詳しくお話します!お楽しみに。
私のオーフス大学(Aarhus University)修士号の論文は、Informant Diegesis in Video gamesです。
どの媒体にも音は重要で、この論文はプレイヤーの注意を引く方法としてサウンドを利用してゲーム中にガイドすることに関するものです。単純にいうと、サウンドでゲームデザインをサポートする方法や、ゲームデザインのパズルの中でサウンドを使ってそれ自身の役割をこなす方法について、述べました。
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