リバーブはインタラクティブオーディオの道具箱の中で、最も便利なエフェクトと言えるかもしれません(だからこそリバーブの高価なプラグインが多く販売されているのです)。リバーブはオーディオをゲームプレイのパラメータに基づき、巧みに変化させる方法をサウンドデザイナーに提供するだけでなく、音がさまざまな音響環境に反応する様子がシミュレーションされます。その結果、音にバリエーションがうまれ耳の負担が軽減され、同時にゲームシーンが空間的に広がり、没入感が強化されます。言うなればパフェのトッピングと床用のワックスが、1つにまとまったようなものです!
Wwise 2023.1より新しくReverb Zoneという機能が加わりました。旧Reverb Volumeコンポーネントを空間化したもので、"Transition Regions"いう新しいパラメータが加わり、playerCharacterからZone境界線までの距離の関数としてリバーブエフェクトをフェードイン・フェードアウトさせます。異なる音響空間に移動した時の音のトランジションがスムーズになり、SFXのSpatial Portalのリバーブ版のように使うことができます。
私も試してみたいと思い、Unreal 5.2.1にアップグレードして「部屋2つ、トンネル1つ」のサードパーソンプロジェクトを作成しました。続いてWwise Betaを統合し、トンネルの中と1つのSpatial Room Portalの外側に、Reverb Zoneを設定しました。テスト用の音源として足音をThirdPersonCharacterの走るアニメーションに追加し、ビープ音のする球体も加え、RoomやZoneにリバーブエフェクトを送るAUXバスを設定しました。最後にTransition Region値を300に設定したところ・・・見事!うまく作動しました!!Zone間を出入りする時の足音のリバーブが、スムーズに遷移しました。聞こえ方と見え方をご確認ください:
リバーブをもっと楽しむ
この動画に関するLinkedInの投稿に、強い反応がありました:
私は実装がもっと複雑になった時の音が気になり出し、自分の遊び場を広めるべく「教会」を建設することにしました。
この建物内には4つの音響空間があり、以下の通り、それぞれのリバーブ設定が異なります:
Nave(身廊)(メインホール)= 広大な大聖堂[長い後期反射]
South Transept(南袖廊)(青)= 鋭くメタリックな初期反射
Apse(後陣)(赤)= 広くて明るい部屋(パイプオルガン)
North Transept(北袖廊)(緑)= 中型の部屋、高い吸音率(図書館)
手を叩く音は右クリックします。パイプオルガンの開始・停止は"M"を押下します。以下はプロジェクトのランスルー動画です:
Nave(身廊)は標準的なSpatial Audio Volumeを使い、特別なことをしていません。この部屋の「大聖堂」リバーブエフェクトをAUXバスで設定し、信号(手を叩く音または足音)と後期反射の間に明確なギャップをつくりだしています。
青いSouth Transept(南袖廊)のReverb Zoneには、鋭い「正面の壁から跳ね返る」エフェクトが設定されています。"Parent Spatial Audio Volume"は"Nave"(身廊)に設定され、"Transition Region Width"は「750」(Nave幅の1/3)に設定されていることに注目してください。次のような音響動作に繋がります。
- playerCharacterが青Zoneに近づいた時、キャラクターが部屋に入るタイミングと、Naveの長いリバーブテイルがTranseptの初期反射とミックスされるタイミングが重なった時、足音に対するTranseptのリバーブ量が最大になります。
- キャラクターが部屋を去るにつれ、Transeptのリバーブはフェードアウトし、Naveのエフェクトだけに戻ります。
- Apse(後陣)(赤)領域においても同じことが起きますが、今度は別の"chamber"リバーブエフェクトが適用されます。
- パイプオルガンの演奏はApseとNaveの両方のリバーブとミックスされ、複雑なエコーがつくり出され、(完全にドライである)オルガン音楽が強化されます。
- 一方、North Transept(北袖廊)(緑)ZoneはNave Volumeの子として設定されていないため、Naveのエフェクトは「図書室」において再生されません。ここで手を叩いてみると、とても静かです...。
- このパイプオルガンは空間的に配置されていますが、回折や透過は使われないため、図書室の壁によって遮られた時、音楽のApseやNaveのリバーブがどちらも聞こえ続けます。
なかなかよいよい効果が出ていると思います。
リバーブをさらに楽しむ
本プロジェクトのソースオーディオやリバーブは、Reverb Zoneの機能がはっきりと聞き取れるよう、大げさに設定されています。ここで使われている無視不可能なエフェクトと比較し、あなたのゲームの実際の音響環境は、控え目で繊細であると思います。とは言えあなたの音響環境においても、遊びを利かせるチャンスはたくさんあるはずです。
Wwise Reflectプラグインは空間的に配置された初期反射を通し、室内にいるplayerCharacterの位置感覚を劇的に高めます。Acoustic Textureを使用してReflection EQを変化させ、例えば高音や中音を図書室の本棚に吸収させ、こもったデッドゾーンをつくり出すこともできます。コンボリューションリバーブを使い、大聖堂のエフェクトとして実際の大聖堂のインパルスレスポンスを使用することもできます。
注:ゲームにおいてReflectやAK Convolutionなどを実行するためには、許可が必要です。簡単な手続きでAudiokineticのスタッフにトライアルライセンスをお願いすることができますが、今回の教会プロジェクトでは組み込みエフェクト以外は使っていません。
Unreal/Wwiseファイルをこちらでダウンロードし、Reverb Zoneで遊ぶことができます:
https://twittering.com/twittering/projects/testRvbZones_church.zip(3.7Gb)
もう1点、大切なことがあります:出荷するゲームにWwiseのBeta版を入れることはできません。Wwise 2023.1 BetaではReverb Zoneはテストや実験のみに使うことができます(※本ブログの執筆時はWwise 2023.1 Betaがリリースされていました)。リバーブを楽しんでください!
- pdx
著者pdxは2023年10月18日(水)のGameSoundConで、WwiseやUnrealのスペシャルオーディオ音響とテクニックについて講演し、Unrealで多様な音響環境を作成するために利用できるさまざまなWwiseテクニックの解説、デモンストレーションを行いました。また、Reverb Zone、Distance Warping、MetaSounds/AudioLinkなど、Wwise 2023 Betaの新機能も紹介しました。 |
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