ゲーム音楽のオーディオミドルウェアとしてWwiseを使っていると聞くと、インタラクティブ性が中心的な役割を担う複雑な音楽システムのゲームを思い浮かべるかもしれません。しかし私はリニアな音楽を取り入れた小さくてカジュアルなゲームにおいても、Wwiseが非常に役に立つことを知りました。
私のメインの仕事は作曲ですが、デベロッパでもあるため、私がWwiseをどれだけ好きなのかを想像できると思います。私がほかのミュージシャンに「Wwiseって何?」と聞かれた時、「作曲とプログラミングの架け橋」と説明することが多いです。インタラクティブ性というプリズムを通して音楽を見ることができるためです。
今回は私が開発・作曲・実装した、音楽とリズムのモバイルデバイス向けカジュアルゲーム『Encounters』について、Wwiseを使ったメリットをいくつか紹介したいと思います。その前に、このゲームがどのように生まれたのかを説明します。
『Encounters』の成り立ち
人間は2つのタイプに分かれると思います。スペシャリスト(何らかの技能を極めた人)と、ゼネラリスト(あらゆるものに感動し、試してみることが好きな人)です。私は往々にして後者にあたります。特にマルチメディア関連のコード、音楽、ゲーム、動画などのすべてがとても好きで、最近はその中でも大好きな「音楽」にフォーカスしようとしていました。それが高じてサウンドトラック作曲の修士号を取得し、さらに自分で作曲したいくつかの曲をブラチスラバ市の大きな交響楽団とレコーディングしました。いまとなっては音楽が私の生活の主役であり、オーディオビジュアルのさまざまなプロジェクト向けにオリジナル音楽をつくっています。
私が『Encounters』以前につくった音楽はほぼすべてリニアでしたが、インタラクティブミュージックという分野は私を魅了するあらゆるものの組み合わせであり、掘り下げてみたいと強く感じていました。作曲家でありプログラマーでもある私のノウハウは、この分野で非常に役に立つであろうと思いました。また芸術的な観点においても、音楽を固定された枠に収めるより、感情への訴えや音楽的なサウンドスケープに焦点をあてることが私の目標でした。
当然私の考えた次のステップは、Wwiseのようなオーディオミドルウェアを学ぶことでした。見つけたチュートリアルをすべて勉強した後、得た知識を実際のプロジェクトで実践に移すことが最良手段であろうと考えました。
第1歩としてWwiseをUnityなどのゲームエンジンに接続しなくてはなりません。そこで私は手はじめに、ちょっとした音楽のゲームをつくろうと思いました。例えば音楽が非常に重要なゲームで、レベルをいったん覚えたプレイヤーは目を閉じていても音楽だけを頼りにプレイできるようなゲームです。おもしろい挑戦だなと思いました。プレーヤーが曲の2つのパート、例えば2つの楽器を同時にコーディネートしなければならないゲームを想像しました。この2つの音楽ラインをもとに、2人のかわいいキャラクターを登場させ、それぞれが同じ曲の一部を再生して遭遇(Encounter)するようにしたいと思いました。
私はこのアイデアに興奮し、とうとうWwiseを学ぶためだけでなく、ゲームのフルバージョンを完成させて最終的にパブリッシュするために自分のすべての時間をつぎ込むことにしました。
当初は自分で作曲した音楽だけを使うつもりでしたが、プレイヤーが聞きなれた音楽の方が分かりやすいかもしれないと思い、パブリックドメインの歌の編曲も取り入れることにしました。レベルで繰り広げられるかわいらしいストーリーは、私よりずっと優れた書き手である大親友が助けてくれました。
はじめは2Dゲームのつもりでしたが、デザインは私の得意分野でないため2Dデザイナーに連絡をとりました。2Dデザイナーと私は最初の打ち合わせで、私がまだゲームのしくみについて不明瞭な点があることに気づきました。そこで彼が作業をはじめる前に、私の希望を明確にさせる必要がありました。私は絵が描けないため3Dでたたき台をつくり、キャラクターを立方体や円柱などの基本的な図形で表現して簡単なテクスチャを描き入れました。
意外にも私はその結果をとても気に入り、3Dゲームに変更して自分でゲームのデザインも行うことにしました(ただし各レベルの背景はストック画像を使用しています)。結局このような運びとなったのはラッキーで、もともと2~3レベルのデザインをお願いする程度のお金しかなかったのですが、自分ですべてをやることにしたため、今後も好きな時にレベルをアップデートさせたり、新規作成したりする能力が身につきました。
これが現在のキャラクターたちで、今後も新しく登場する予定です (^^)
すべてをまとめた成果をこちらのゲームトレーラーでご覧ください:
ゲームをつくった方法や理由を紹介したところで、どのようにWwiseを使ったのか(そしてなぜこれからは、何をやるにしてもWwiseなしでは考えられないのか)を少し説明したいと思います。
ループ作成 | 朝飯前
ゲームのレベル選択画面では、レベルを選択してレベルのテーマを完全なループ再生で聞くことができます。ほかのツールでループをつくった経験者であれば分かると思いますが、完璧なループの制作は簡単ではありません。ループが再スタートする時に発生する余計なクリック音を回避する苦労に加え、変わり目が問題にならないようにメロディーのタイプを工夫する必要があります。ほかの方法として曲の終わりのテール部分を曲の冒頭に貼り付けることもありますが、この場合は再生を開始する時に不自然に聞こえます。
これほど難しいことも、Wwiseでは朝飯前です。私がWwiseを使いはじめた頃、決してループ用につくられていない曲を用いて、実験しながら完璧なループをつくってみることが大好きでした。Exit Cueを選択するだけで充分であり、もしテールのボリュームが大きすぎてサチュレーション問題が発生する場合は、冒頭に小さなフェードインを加えるだけです。Exit Cueの位置決めは簡単です。Music SegmentのBPMが適切にアサインされていれば、あとはExit Cueをバーまたはビートにスナップさせるだけです。
Wwiseで作成した以下のループは、ゲームのすべてのレベルの曲を聞くことのできるレベル選択画面からとったサンプルです。第2レベル「Wandering Souls」のサンプルです。
オーディオファイルの再利用|サイズは重要
曲はレベル選択画面でループ再生されるだけでなく、そのレベルを選択して中に入った時にも当然再生されます。プレイヤーが失敗した場合、最初から再生しても別のコントロールポイントから再生してもよいのです。どのレベルにおいても、そのレベルをもう1度再開できるコントロールポイントが5か所あります。
以下は同じMusic TrackにあるいくつかのMusic Segmentで、上から順にループ、レベルスタート、第1コントロールポイント、そして第2コントロールポイントです。
上図を見ても分かる通り、どのバージョンでも同じオーディオファイルを使っていますが、これもWwiseの強みです。これでスペースを大幅に節約できることは一般的なゲームにおいても重要なことですが、モバイル端末向けゲームでは不可欠です。
同様にレベルの最初と各コントロールポイントにおいてガイド音となるドラムスティック音も、必要に応じて再利用される小さなオーディオファイルです。以下の動画ではレベルのスタートのMusic Segmentと、最初のコントロールポイントを聞くことができます:
最終ゲームサイズの縮小に関するWwiseのほかの利点として、作業中は最高品質のファイルを使ったうえで、最終的なサウンドバンクを生成する際にさまざまな圧縮値で実験し、品質とサイズのちょうど良いバランスを追及できる点があります。
シーケンス、連続性、ランダマイザなどを活用
2人のキャラクターはレベルを達成した時に最後のプラットフォームで出会い、一緒にダンスします。多くのプレイヤーはこのシーンにいるのは一瞬だけですが、楽しいダンスから目が離せなくなる人もいるかもしれません。わずかな可能性ですが、その場にとどまることを選んだプレーヤーを口実に、私はWwiseを活用して多少の音楽的なバリエーションを加えました。
この最終シーンのために小さなライザーサウンドの音楽を作成したほか、組み合わせ可能(縦型のリミックス)でループとして使える(冒頭で述べた技)、11本のトラックを用意しました。どのトラックも最後のテール音楽を除き、8小節続きます。
レベルを終えた後の最初の数秒の音は制御できるようにしたかったため、ライザーサウンド後の最初のMusic Segmentはいつも同じにしました。具体的には5本のMusic Trackを使い、1つのMusic Segmentを作成し、その一部のMusic Trackのボリュームや入るポイントを変更しました。
その後にランダムなセクションがはじまり、無限に繰り返されます。4つのMusic Segmentが連続で再生されるループです。これらのMusic Segment内のMusic Trackの多くは、再生されるのか再生されないのかがランダムに決まります。これを設定するために、私は各Music TrackにRandom Stepを追加し、1つにはサウンドを入れ、1つは空のままにしました。
11本のトラックがどれも再生されない可能性は低いのですが、無音状態を確実に回避するため、必ずランダムでない楽器を1つ以上入れています。例えば下図セグメントでは大部分のトラックの再生確率が50%であり、最後の2本のトラックの再生確率は66%ですが、ピアノトラックは常に再生されます。
これら4つの部分は固定のトラックが違います。例えば第1セグメントでは必ずギターが再生され、第2セグメントでは必ずピアノが再生されるといった具合です。こうすることで、ループ再生中にまったく同じ音が連続して再生される可能性が皆無ではないものの、非常に低くなります。
以上をまとめると、レベルの終わりに再生されるプレイリストは次のような構造です:
1. 勝利を表す小さなライザーサウンドではじまります。
2. 次に長さ8小節の固定Music Segmentが再生されます。
3. 4つのMusic Segmentの連続シーケンスがはじまり、無限ループで次々と再生されます。各Music Segmentに固定のMusic Trackが1つあり、それ以外のMusic Trackはランダムに、再生されたりされなかったりします。
結果を聞いてください。プレイリストのしくみがよく分かると思います。実際にはゲームをプレイするたびに聞こえ方が違うため、これはあくまで一例として聞いてください。
まとめ
Wwiseには多数の利点があり、もうWwiseなしでゲームをつくろうとは思いません。Wwiseの高度なインタラクティブ機能を必要としない単純なゲームにおいても、使う利点は明らかです。ミュージシャンの中にはこのツールを使いはじめることに抵抗を感じる人もいるかもしれませんが、いったん使い慣れてしまえば後戻りすることはないでしょう。
ツールやスキルを身に付けたい人への私からの基本アドバイスは、自分で小さなプロジェクトをつくってみることです。学べる内容が広がり、自信を持てるようになり、ポートフォリオが成長し、総じて採用されるチャンスが高まります。分かりませんよ...。ご自分の結果に満足して本業にするかもしれません。
上記で説明したすべてを体験してみたい方は、無料でこのゲームをiOSとAndroidのどちらでも入手可能です。
私の次の目標は、このゲームのアップデートを続けると共に、ほかのゲーム用にインタラクティブミュージックに改めてフォーカスすることです。私自身や作品についてもっと知りたい方や、連絡を取りたい方は、ウェブサイトをご覧ください。これからも学び続けるために複数の小規模なインタラクティブミュージック実験を行う予定で、Wwiseで提供される各種の可能性を採用してみたいと思います。小さなチュートリアルも独学にちょうどよいかもしれないため、いくつか試すかもしれません。
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