Wow! ゲームオーディオ関係者の皆さん、こんにちは。私たちが、洗練されたスタイルで繰り広げられる音楽世界『No Straight Roads (NSR) 』に、WwiseとUnreal Engineを使って生命を吹き込んだ経験を、是非とも皆さんと共有したいと思います。Imba Interactiveは、『NSR』のサウンドデザインとすべての技術的な統合を担当しました。私たちのクリエイティブな野望を達成するために、Wwiseは必要不可欠なツールでした。音楽やサウンドエフェクトの実装と、プロジェクトを通して行ったクリエイティブな決断の一例を、これから紹介します。
ビニールシティという街
背景を説明すると、このゲームはビニールシティというEDM帝国の(腐敗した)NSRが支配する街で展開されます。ビニールシティはいくつかの区域に分かれていて、それぞれにNSRのアーティストが一人いて、音楽スタイルも決まっています。「Qwasa」という技術が、音楽を効率的なエネルギーに変え、この都市の原動力となります。
プレイヤーは、二人組ロックバンドBunk Bed Junctionの、ギタリストの「メイデイ」とドラマーの「ズーク」としてプレイします。音楽のリアリティコンペでロックミュージックに対するNSRの権力乱用として始まったものが、急速に、NSR打倒のための全面的な革命運動になり、エリアごとに、ライブをハイジャックしようとする動きになります。
「ライブをハイジャック」
ユーザーエクスペリエンスの核となる目標は、主人公メイデイとズークを通して、プレイヤーがショーを意図的に邪魔するロックミュージシャンになることですが、プレイヤーがプロとしての規律を守り、音楽のカッコよさを保ち、敵よりも上手でなければいけません。
ゲームワールド内では、なんでも音楽と同期がとれているのに、プレイヤーによる入力は同期していないので、私たちはプレプロダクション段階で、サウンドデザインをどれだけ破壊的にするのか、あるいはまとまりを表現するのかを、検討しました。プレイヤーインプットのサウンドデザインは、プレイヤーのロックジャンルの特性と一致するべきで、ボスアリーナやアタックは、ボスのジャンルと一体感がなければいけません。
『No Straight Roads』のサウンドデザイン
ライブをハイジャックするアイディアを支えるうえで、我々が『No Straight Roads』のサウンドデザインを行っているときに参照したのは、Metronomikのクリエイティブな方向性した。ボスと戦うときは、追加装備はかっこよくて満足感があるべきで、同時に音楽文化も反映するべきです。ボスアタックは、必ず音楽のフェーズやリズムに合わせるべきで、追随するアタックやアクションのヒントとなるようなサウンドも、一部取り入れることにしました。
Circle of Influence (COI)
この機能は特に、ライブをハイジャックするという考え方を見事にまとめています。プレイヤーは、キャラクターの身近にあるオブジェクトの電源を入れるために、ボタンを長押ししますが、サウンドとして次に何が起きるかというと、既存のBGMの上に、大音量だけど関連性のあるギターまたはドラムのソロを解き放ち、ライブを邪魔します。多くのプレイヤーはドラムまたはギターの必殺ソロを聞こうとして、おもしろがってCOIをトリガーします。
初期のプルーフオブコンセプト(proof-of-concept)のテストでは、歌の該当するキーで音階を演奏するギタートラックを使いました。
このコンセプトはうまくいきましたが、私たちは、もっとゲームの主要な柱に合った、本当に充足感のあるものを求めていました。それに従い使ってもらおうと、ギターソロの案をミュージックチームに売り込みました。
最終的に、私たちはプレイできるキャラクターが入ったすべてのBGMに、それぞれ固有のソロのトラックを重ねるように、コンポーザーやセッション演奏家たちを説得しました!Wwise内に、メイデイとズークのRTPCが、それぞれ設定されています。これらのRTPCが、キャラクターのインストゥルメントソロと、BGMのメロディ(メイデイ)またはリズム(ズーク)のレイヤの間の、リニアなクロスフェードをトリガーします。
ズークのコンボシステム
ゲーム中のメイデイのアタックは(彼女自身と同様に)どちらかというと直球型で、ギターを文字通り斧のように武器として使いますが、ズークは、Meleeコンボシステムを持っていて、これは5ヒットのMax Comboに始まり、9ヒットまでアップグレード可能です。
ズークのプレイヤーは、プロの(エアー)ドラマー気分になる必要があります。もちろん、さきほどのCOI機能も使えますが、ズークほどこだわりのある人には、アタックにもう少し何かが必要です。インパクトサウンドとしてドラムを使うのは当然の選択肢でしたが、Max Comboで成功が立て続けにあったときに、最後に近づくにつれ、ボタンを連続押しするプレイヤーに、何らかの合図を送る必要があります。
こちらは、最初の頃のズークのMeleeアタックのコンセプトを表した動画です。その後、三角ボタンは別の使い方に変更したので、実際の最終版は、これと少し違います。
下図で分かる通り、ヒットが、音楽の小節の四分音符のように感じられるように試しました。そして、Maxコンボの最後から2番目のヒットは、明らかにほかと違う16分音符のフィルインをトリガーして、最後のComboヒットでクラッシュして盛り上げてくれます。プレイヤーが最後のヒットを落とした場合は、クラッシュシンバルが抜けてしまい、逆に気が抜けた印象が残るという効果もあります。
Wwise側では3つのイベントを設定し、それぞれに特定のアニメーションを紐づけました:
- 標準のMeleeヒット
- プレフィニッシュのヒット
- フィニッシュのヒット
アニメーションのロジックは主にUnreal Engineで行われます。上のブループリントは9-hit Max Comboのもので、“forcefully set 7”のコメントがあります。最初のヒットを「0」とすると、最終ヒットの1つ手前が「7」、最終ヒットは「8」となります。
下水路の音楽
これは、面白かったですよ。下水路のBGMは8小節ループで形成されていますが、バリエーションが9つあり、プレイヤーの現在地によって変わります。選択エリアから始まり、アンダーグランドのライブで演奏中のエリアの1つにズームインするときや、ワークショップで楽器をアップグレードしているときなどもあります。どのバリエーションもポストエグジットのテイルがあり、ギタースライドなどのプレエントリのピックアップを伴うバリエーションも、中にはありました。BGMイベントがトラックの切り替えをいつ行うのか、どのトラックにするのか、などを決めるのは8小節の最後まで達してからにしたので、プレイヤーがアクティブなロケーションを変えるたびにすぐトラックが変わってしまうような、耳障りで気持ちが途切れてしまいそうな状況を防止しました。
サウンドのオモチャ
下水道内の雰囲気が結構カジュアルなので、プレイヤーがトロフィーを獲得してコレクションが増えたときの満足感は、控えめな方法で表現したいと思いました。
BGMそのものの切り替えと似ていて、これもはっきりとした説明のある機能ではなく、耳の良いプレイヤーならそのうち気付く、という程度の変化です。プレイヤーが、そのレベルでアンロックされたトロフィーを表示しようと思えば、下水道のBGMに重なる追加レイヤとして、8小節続くループの上に、決まったタイミングで、4小節ごとに1回の楽しい2ビートのリズムパターンが発射されます。
それぞれのオーディオデザインはレベルのテーマによって違い、例えばデジタルアイドルのサユのトロフィーにはマウスクリックを使い、イヴのトロフィは観客がびっくりして息をのむ音または笑い声を使い(まさしく、悲劇と喜劇)、DK Westには、彼のインゲームのサウンドデザインからとった手拍子を使っています。
プレイヤーが獲得できるトロフィーは全部で9種類あり、そのうち8個はチュートリアルとボスレベルをクリアしたときに入手でき、最後の9個目は、プレイヤーがストーリーを初めてクリアしたときにもらえます。最初の8個のトロフィーは、出たり入ったりして、4バーのフレーズにちょうど合い、逆に最後の9個目のトロフィーは電子ドラムのループレイヤをトリガーさせ、下水道のBGMであるBunk Bed Junction の上に重なります。偶然にも、これがストーリーとも関連してきます。
実装はどちらかというと分かりやすく、どのアイテムも該当するRTPCに紐づけられていて、オーディオが適宜トリガーされました。上のスクリーンショットからも分かる通り、フレーズは2ビートの長さで、それがトリガーされるバーやビートは決まっていますが、シーケンスに従うとは限りません。例えば、プレイヤーが最初にアンロックするトロフィーは、必ずしも8小節のループの1拍目にトリガーされません。逆にできるだけ平均的に広げているので、アドオン的なリズムパターンは、BGMに均等に配置されている感じがし、偏ったり予測できたりしません。
ボスや敵のサウンドデザイン
サウンドエフェクトとゲームワールドの一体感を維持するために、サウンドデザインの過程で楽器を使うようにしました。例えば、このゲームのほとんどのドローンに、TR-808のサウンドをデザインに取り入れていますが、それはドローンが『No Straight Roads』帝国の、最も基本的なセキュリティーユニットだからです。
DJサブアトミック・スーパーノバ用に選んだWwiseのエフェクトは、アナログのターンテーブルや、DJのエフェクトパッドであるゲート、テープディレイ、フィルター、フランジャーなどからインスピレーションを受けました。
また、私たちのエフェクトでさえ、ボス間の個性の違いを強めてしまう可能性がありました。そこでDJにはグリッチを使わず、彼の次のボス、つまりサユには、グリッチを使いました。
サユは、4人のティーンエイジャーが操作するバーチャル人魚アイドルです。そこで彼女の場合は、アタックやシンセトーンは、ゲームのサウンドトラックの一部に感じられるようにしたい思いました。彼女のアタックはほとんどがサントラのメロディーと同じキーであるか、一部を再利用するので、通常聞くようなサイエンスフィクションのターゲットサウンド風ですが、大きくなっていくブリップ(blip)トーンの代わりに、すでにバトル中にプレイヤーが聞いたメロディの、はやいバージョンを使うことにしました。
また、日本文化の影響(ボーカロイド、バーチャルアイドル)もあるので、魔法少女アニメのありがちな要素を取り入れるのもいいアイディアだと思い、トランスフォメーションのアクションのほとんどに、アクセントとしてシンセを使っています。
特別なセリフが1つあり、タイムディレイのバイパスリリースをリバーブとディレイのエフェクトに適用したので、どうやったのかをご覧ください:
前述の通り、サユのトランスフォメーションにはグリッチエフェクトが入ります。Auxバスの出力とサユの声を制御する、シンプルなRTPCを使っているだけです。
ユィヌとユィヌの母親では、特に音符のバウンスに、ディズニーっぽい雰囲気を出しました。これは、子供っぽさを残しながら成熟したストーリーの流れを強調するためです。母親の声のエフェクトは、優しい包容力のある保護者から、悪夢のような怖いヘリコプターペアレントに変容するにつれ、変わります。
イヴは、突拍子もないアバンギャルドな性格ですが、外見とは裏腹に、誰かを愛し、自然体の自分を受け入れてもらいたい、そしてその愛を、他人に求めず自分の中で見つけたい、という強い願望があります。
第1フェーズで彼女の手は、彼女の声の不況調和音を表し、アタックしようと手が動くと、小さなエコーの数々がプレイヤーに聞こえます。メイデイとズークで切り替えるときにも、一瞬だけ、音楽にわずかなピッチベンドがあり、頭の中で調節しているかのようです。
ミュージックシステム
フェーズ
ゲーム内では、ボスファイトが複数のフェーズに分かれています。各フェーズで音楽が違い、無限にループし、ボスアタックは、このループの中の音楽に対応します。1つのフェーズをクリアするたびに、音楽的なトランジションと短いカットシーンが続き、それからゲームが次のフェーズに移行します。
Phase 1 > P1t2 > Phase 2 > P2t3 > Phase 3 といった感じです。
WwiseではボスファイトのフェーズがStateに分けられ、Unreal EngineのLevel Blueprint経由でトリガーされます。各種ジャンルはSwitchに分けられ、こちらもLevel Blueprint経由でトリガーされます。
おっと、今「ジャンル」って言ったかな?
ジャンル
そうなのです!各ボスに、BASE、WUBS、ROCKの3つのミュージックジャンルがあります。
3つのジャンルは全く同じBPM、楽式、コード、そしてメロディーなので、相互に切り替えが可能で、各ジャンルがMelody、Rhythm、Backingに分かれています。MelodyとRhythmの内容は似ていて、シームレスに入れ替えしやすくなっています。
(NSRのミュージックディレクターのFalk Au Yeongによる初期の音楽実装の構想)
最初の段階でまずベースのバージョンを作成し、これをゲーム内の仕組みで必要となる度に、繰り返しました。(どのボスアタックも、音楽の何らかの要素、例えばリード楽器やリズム的な要素などと、同期しています。)
ベースバージョンは、ボスたちの個性を表面化させ、EDMは『No Straight Roads』の芸術面を表し(何しろEDMのレーベルなので)、そしてもちろん、ロックはわれらが主人公の思惑を表します。
ジャンルの切り替え場面の例を、こちらの動画でご覧ください。
簡単にジャンルの切り替えができるように(何度もスイッチ名やステート名を入力しなくてもいいように)、Blueprint Function Library(BFL)を作成して変更に対応しました。
これがBFL内にあり、デザイナーが、メインレベルのブループリントや、必要とする個々のブループリントに、実装しやすくすることが目標でした。すっきりさせると、こんな感じになります:
こちらはボスのヘルスを検知して、ヘルス残高に応じてジャンルを置き換えるだけのものです。ボスのヘルスが50%以下になれば、BackingをRockに変えます。さらに、25%以下になれば、全トラックジャンルをRockに変えます。
直面した課題
結局のところNSRはアクションゲームなので、武器が空を切る音やインパクトといったコンバットサウンドはプレイヤーに満足感を与えるために必要で、同時に音楽もこのゲームの売りの1つなのでプレイヤーフィードバックやグルーブ(groove)のために必要です。また、ゲームで繰り広げられるミュージックジャンルはパンプの効いたベースラインやキックによって大きく圧縮されるので、プレイヤー動作に対するフィードバックと共にグルーブも体感できるように、ミックスのバランスを確保するのが課題でした。
様々なSFXで異なるサイドチェインバスを使うこと以外にも、ヒットチェインコンボが増大するのに合わせて武器のインパクトゲインを徐々に減らすというのも、効果的です。プレイヤーは最初の何回かのヒットで初期の満足感を得られれば、コンボで先に進み、音楽的なグルーブに戻ることができます。
リズム重視のゲームにおいて大いに学んだのは、ゲームプレイのアクションの同期ばかりにこだわらず、プレイできないカットシーンにも着目しシンクさせることの重要性です。
ゼロ時間同期
すべてを音楽的な構造の中に収めようと試行錯誤しても、どうしてもコントロールできない部分もあり、それはプレイヤーが特定の目標(ボスがフェーズを変えるように仕向けることなど)を実施するタイミングであり、その上、トランジションのタイミングは、フェーズの出入りがシームレスになるように、ある程度固定させる必要がありました。このため、すぐあとのトランジションウィンドウがやってくるまで、強制的に待たせることにしました。一番分かりやすいのはレベルのApproachセグメントで、ガラスを打ち砕くのが特定のビートで起きる必要があるので、そのタイミングは、トラックのビルドアップと同じタイミング、そして同じ長さ(2小節)に、正確に合わせる必要がありました。
結論
私たちのチームにとって『No Straight Roads』は経験と学びのオンパレードでした。これまでに様々なタイトルの仕事をしてきましたが、このゲームは、最も深入りしたものの1つです。Metronomikチームは制作プロセスのどの段階でも私たちを関与させてくれ、こちらから出すオーディオのイースターエッグ案も検討してくれ、限りなく感謝しています。Wwiseのインテグレーションでオーディオシステムを構築するためにMetronomikのプログラミング担当チームと仕事ができたことは、未開の地に踏み入るようなエキサイティングな体験でした。そしてWwise内部では自由に、自主的にオーディオを実装でき、まるで遊び場で試すような体験でした。これからも、自分たちの実装過程を改善し続け、よりエレガントに、よりモジュラーにしたいと思います。
お礼
Metronomik - 私たちを信じ、私たちの仕事を信頼してくれ、ありがとう。
NSRのミュージックチーム - 素晴らしい音楽と、実装ノートと、提案を、ありがとう。
NSRのボイスオーバーとローカリゼーションのチーム - 活き活きとしたボイスと、元気と、ゲームへの支持を、ありがとう。
NSRのファンのみんな - ゲームをサポートしてくれて、感動的なファンコンテンツをつくってくれて、ありがとう!
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