はじめに
みなさん、こんにちは。私はSoundcutsのサウンドデザイナーで、Airwigglesの共同設立者のルイスです。今回私が新しいプロジェクトに取り組む時に必ず最初に手がける、オーディオ領域の「アンビエンス」について話します。Soundcutsの私のチームは最近Supermassive Gamesの『The Quarry』に携わり、私はアンビエンスその他のデザインを担当しました。アンビエンスはビデオゲームのサウンドデザインにおいて何かと軽視されがちで、サウンドデザイン初心者のデモ作品においては特にそうです。実はゲームの中の世界を構築してゆき、さらにリアルにし、ムードを決め、ストーリーを伝えるための絶好の機会であり、バードウォッチングが大好きなプレイヤーであれば大喜びするかと思います。アンビエンスは単純なスイッチコンテナでいくつかのステレオループを切り替えるだけのものではありません。アンビエンスデザインの世界に最近深入りした者として、可能な限り豊かで詳細なアンビエンスをつくり上げる手法を紹介したいと思います。
ステップ1:状況を確認する
技術的な設定に入る前に、自分が何を達成したいのかを常に考えます。なぜあえてアンビエンスに時間と労力をかけるのかを再確認します。私はアンビエンスを通して、以下を達成したいと思います。
- リアリズムの追加:鳥の鳴き声が違う大陸で聞こえたり、車のエンジン音が誤っていたり、虫の鳴き声がおかしな時間に聞こえたりして、プレイヤーの心がゲームの世界から離れてしまうようなことを避けたいと思います。優れたオーディオは人々を世界に没入させますが、すべての細部を正確にすることにより、人々は気づかないうちに吸い込まれるはずです。
- プレーヤーの位置関係:私は選手が目を閉じていてもレベル内の自分の位置がわかるゲームを好みます。十分な数のサウンドエミッターを用意し実装を巧妙に工夫することにより、プレイヤーは自分の向き、高低、レベル内のすべての重要ポイントの場所などがすぐに分かるべきです。
- 物語を伝える:オーディオのあらゆる観点において言えることですが、アンビエンスはプレイヤーにさりげなくストーリーを伝えるすばらしい方法です。家具がガタガタする音の絶妙な配置は怖いホラーゲームに没頭している人の背筋をゾクッとさせ、遠くで鳴り響くパトカーのサイレンは街中のにぎやかなアクションシーンを盛り上げてくれます。システムを設定した後に細かい形状を流動的に調整し、ストーリーに合うようにしてゆきます。
このようなことを踏まえ、私ははじめの一歩として音源の材料収集からとりかかることが多いです。できる限り細部までこだわりたいため、この段階において、シーン内にある文字通りすべての音を出す物に、音を追加しようと考えます。例えば森が舞台のレベルの場合、自分たちの脳内を巡りつつサウンドライブラリをぐるっと見渡し、以下のように使えそうな音のタイプを探し出ます:
- 木や茂みを吹き抜ける風
- 鳥の鳴き声
- 虫の鳴き声
- 鹿、キツネ、カエルなど、その他の動物の鳴き声
- 野生動物が這う音、登る音、飛ぶ音、木をつつく音など
- 河川
- 高速道路を走る車や上空の飛行機など、遠くの乗り物
- 木のきしむ音
- 木や茂みの揺れる葉
- 木から落ちる小枝、松ぼっくり
- 葉や木から落ちる水滴
図1:森林アンビエンスのレイヤーを重ねた、REAPERの典型的なセッション。
次に、これらの音をどう使うのかを考えます。私がアンビエンスをつくる時、必要と思うアンビエンスアセットが何種類かあります。シンプルに「2D」と「3D」の2つの主要区分でとらえることができます。2Dサウンドとは、位置情報のないステレオサウンドやサラウンドサウンドのことであり、例えば単純なルームトーンや、風が吹いている音などです。3Dサウンドとは特定のオブジェクトの上に置き、カスタムの減衰を設定したモノラルサウンドのことであり、例えばエアコンや電灯などの音です。すべてを実装した後は2D・3Dサウンドが滑らかにブレンドされ、プレーヤーがどこにいても豊かでみずみずしいサウンドが聞こえるはずです。以下は私が音源を探す際、考慮するアセットタイプです。
- 2Dベッド(ループ):典型的なステレオのループのアンビエンスのことであり、すべての下にあります。「ベッド」と呼ぶのは、この上にほかのすべてのものが横たわるためです。2Dベッドの役割は、オーディオリスナーがどこにいてもアンビエンスに統一感を持たせることと、完全な無音状態を絶対に回避することです。具体的には室内のトーン、微妙な風、宇宙船の低い音など、一般的に目立たせたくない、比較的つまらない音です。
- ランダム性を出すための2Dワンショット音:さまざまなアセットタイプの中でもこれはあまり使いませんが、まれにRandom ContainerまたはSequence Containerを使い、ループする2Dオーディオアセットをトリガーさせることがあります。どちらかというとアンビエンスデザインのノンダイジェティックな領域に入ります。例えばホラーゲームでは不気味な幽霊のささやきコレクションを用意し、ランダムな間隔でトリガーさせることがありますが、特定の場所から発声させるわけではありません。各アセットのボリュームやパンニングをランダムにするため、プレイヤーはアセットを実際に見つけることができません。ただただ怖い思いをするだけです。似たようなことを『The Quarry』でも採用し、高い所にある不気味な通路を歩く時に、不気味な突風音のコレクションをランダムにトリガーさせています。
- 2D sweetener:私はこれらを1度だけ再生する独立したアセットとしてとらえています。どれほど立派なアンビエンスシステムを構築したとしても、特定のタイミングの特定のカメラアングルを引き立てるため、専用に制作したオーディオを投入する必要が出てくるものです。例えばプレイヤーが恐ろしい洞窟をはじめて覗き込む瞬間の風のうなり声や、『アサシン クリード』で高い所から飛び降りる時の鷲の鳴き声などです。2D sweetenerはゲーム内のカットシーンをつくる時に非常に便利で、リニアメディアの場合と同じく、個々のカメラショットに合わせて専用のアンビエンスレイヤーを計画することができます。
- 3Dスポット(ループ):アセットの大半をこれらが占めます。レベル内のさまざまなオブジェクトや場所から、音が何らかのかたちで発せられます。このアセットタイプの可能性は無限大です。冷蔵庫や蛇口から滴り落ちる水滴など、分かりやすい音の発信源もあれば、閉め切った窓から漏れ聞こえる外部音や天井裏の配管を流れる音など、より微妙な音源もあります。私は各レベルにこのような音をできるだけ多く入れ込むようにしています。多すぎると感じた場合は、後から取り除けばよいだけです。
- ランダム性を出すための3Dワンショット:2Dのワンショットと同じように、レベル内の特定の位置から特定のアセットをランダムに発動させたいと思うことがあります。鳥の鳴き声、ネズミの鳴き声、キツネの遠吠えなど、動物音に適しています。これらのサウンドを生き物が存在するレベルに配置し、Wwiseのランダムなディレイ、ピッチ、ボリュームを使い、これらのサウンドが同じパターンで繰り返されないようにし、同時にファイルスペースを節約します。
- 3D sweetener:2D sweetenerと同様に、sweetenerアセットを環境内の特定オブジェクトの上に絶妙な位置付けで配置することにより、必要に応じてアンビエンスにアクセントを加えることができます。例えば鳥が鳴く場所にエリア内のすべての鳥が飛び立つサウンドエフェクトを実装し、プレイヤーが銃を撃った瞬間にそれをトリガーするのも1つのおもしろいアイデアです。
音源として使えるクールでクリエイティブなアイデアがたくさん出たところで、いよいよアセットの制作に取り掛かります。手はじめにサウンドエフェクトを収集し、自分でアンビエンスを収録します。ただしアンビエンス系統は同時再生されるレイヤーが多数あるため、個々のレイヤーはおそらく控え目な方がよいと思われます。底辺のノイズのレイヤーは低く保つようにしますが、ファイルによってはきしみ音や詳細音が散りばめられている以外は、ほぼ無音状態であっても全く問題ないということを忘れないでください。
さて、アンビエンスのあるレイヤーについてここで簡単に触れたいと思います。それは「鳥」です。私が手掛けたゲームの大半において、バックグランドに何らかの鳥の鳴き声が必要となりましたが、以前は手元のサンプルライブラリで「鳥」と検索し、よい音だと思ったものをそのままドラッグ&ドロップしていました。これはいまにして思うとよくない手法で、私が当初考えていたよりも鳥のさえずりの世界はかなり奥深いです。常識だと言われるかもしれませんが、鳥の種類は何千とあり、それぞれ鳴き声が独特であり、どれも特定の地域や季節でしか聞くことができません。アメリカのある地域で聞こえる鳥の鳴き声と南方で聞こえる鳴き声とでは、全く異なります。インターネットの力を借り、ゲームの舞台となる地方で最もよく聞こえる鳥を調べてみてください。さらに鳥の鳴き声を適切な季節、時間帯、水辺などの周辺環境に合わせてみてください。地理的に正しい種類の鳥だけをアンビエンスに設定することにより、あなたが作成したサウンドスケープが独特で詳細で正確なものとなり、プレイヤーがバードウォッチャーであればきっと満足してもらえます。ただしストーリーを表現するために、多少ルールを曲げてもよいことに言及したいと思います。例えて言うならばハリウッド映画に必ずと言ってよいほどハシグロアビの鳴き声が絶妙なタイミングで何気なく入ることと似ています。厳密には正しくないとしても、なかなかよい音響ですよね。
ほかの野生動物についても同じことが言えます。キツネ、シカ、昆虫などはすべて場所や時間によって鳴き声が変わります。私の同僚のChris Jolleyが『The Quarry』でコオロギの鳴き声を効果音として追加した時のこだわりは、レベル違いです。彼はドルベアの法則によるとコオロギの鳴き声が外気温と共にはやまることを読んで知りました。そこでリバースエンジニアリングを行い、ゲーム内の各所の大まかな気温を割り出し、それに合わせてコオロギの鳴き声の速度を調整しました。細部へのすばらしい配慮であり、プレイヤーが意識したかどうかにかかわらず、それぞれの場所の雰囲気と新鮮さを演出するために役立ちました。要するに、アンビエンスに「生命」を加えるためのすばらしい方法は、アンビエンスに「生命」を加えることなのです。どこに生物が潜んでいそうか考えてみてください。地下室に置き残された食べ物の近くでキーキー鳴くネズミや、夜間の都市の街頭に響き渡るキツネの遠吠えなど。
図2:複数の異なる2Dと3Dのアンビエンスステムのある、シンプルなWwiseセッション。
ステップ2:ダイナミックにする
私は基本的にレベル内で可能なすべてのカメラポジションに、専用のアンビエンスミックスをつくるように心がけています。このスタンスによりアンビエンスに充分なディテールを確実に加えることができ、個人的に好きなオーディオスタイルを実現することができます。つまり映画のように聞こえるアンビエンスという方向性を守ることができます。映画やテレビでカメラのカットがある時、アンビエンストラックも追随することが一般的であり、次のカメラの位置に切り替わる時、アンビエンスもハードカットされます。複数のカメラカットがある中、同じアンビエンストラックがループで続くという方法はビデオゲームでしか見たことがなく、個人的に回避しようと努めています。詳細までつくりこまれたアンビエンスは、ハードカメラカットのサウンドを向上させるだけではありません。プレイヤーが歩き回る姿をカメラが追う時など、カメラのスムーズな動きに合わせて各アンビエンスレイヤーも盛り上がり、回転し、パンニングし、プレイヤーは自分が世界の中を動く様子を聞くことができます。これもまたゲームをプレイする時に意識せず「感じる」小さなことであり、プレイヤーを引き込むためのもう1つのステップであると思います。
さて、作成したアンビエンスアセットを再生するサウンドエミッターを多数セットアップし、マップ上のどのポイントにおいても固有の音を確保できる環境が整いはじめました。ところが、Wwiseや今回の記事の目的のために言及したいUnrealを使うことにより、さらに進化させることができます。アンビエンスシステムのインタラクティブ性を拡大する方法をいくつか紹介します。
私が多用するシステムの1つは「CameraHeight」というRTPCの手法で、このRTPCは基本的にゲーム内のすべてのアンビエンスアセットに影響します。CameraHeight RTPC値をカメラ位置に合わせて手動で設定する、またはオーディオボリュームアクタを用いて自動設定することにより、アンビエンスを高さに基づき形成・変化させることができます。分かりやすい例として、カメラの高度が上昇するにつれ、鳥をブーストして虫の音を減衰させるために使います。アンビエンスベッドのトーンを微妙に変化させるため、さまざまな2Dレイヤー(ルームトーンや風など)にフィルターやピッチの制御を追加することも非常に効果的だと思います。例えば、風は一般的に地上で草木の葉が風に揺れるため高周波のコンテンツが多く含まれ、上空に行くにつれ、そのようなコンテンツが少なくなります。ただし現実の世界と全く同じにする必要はありません。部分的に強調されているRTPCカーブのレイヤーを追加し、オーディオによるストーリー性を高め、似た音が聞こえるほかの場所と差別化することができます。私は口笛のような風のレイヤーに強いピッチコントロールをかけたり、特定の高さに来た時だけ聞こえるアンビエンスレイヤーを入れたりすることが好きです。
図3:CameraHeight RTPCを使い、‘Bird Crow’ Random Containerにボリュームを追加。カメラの高度が高くなるほど、鳥の声が大きくなります!
ほかにも重要なシステムとして、'CameraShotType'というステートグループがあります。ハードカメラカットのカットシーンに特に有効で、これに該当するシーンが『The Quarry』に頻出します。カメラショットの種類に応じていくつかのステートを用意するという考え方です。例えば“Close Up”、“Wide”、“Low”などです。これらのステートを使い、グローバルアンビエンスバスのボリュームやフィルタを微妙に調整します。例えばカメラのステートが“Close Up”の時はアンビエンスバスを数デシベル下げ、“Low”の時は若干のローパスフィルタを追加するといった具合です。コツは控え目にすることです。ミックスを大幅に変えるのではなく、カメラカットのたびにアンビエンスが映画スタイルにハードカットするのが聞こえるよう、少しだけ調整します。
図4:アンビエンスのアクターミキサーに、CameraShotTypeのステートが影響。アンビエンスバス全体に与える効果は、カメラショットによって微妙に異なる。
RTPCを使い、オーディオボリュームのアクタを自動制御することについてはすでに触れました。具体的にはレベル内に見えないヒットボックスをいくつか配置し、その中のカメラやプレイヤーの位置に基いてRTPCやステートをコントロールするのです。例えばレベル全体にまたがる巨大なオーディオボリュームアクタを作成し、このアクタ内におけるカメラのポジションによってCameraHeight RTPCを0~100の範囲で設定することにより、アンビエンスの高さを自動的に調整できます。このテクニックはほかの分野にも応用できます。ステートの切り替わりの初歩的な使用例ですが、雨が降っている時にこのようなアクタを屋外の庇の下に配置し、雨音に対するフィルタのステートをトリガーすることが可能です。屋外で強風のレベルでは、壁、建物、風除けなどの周囲にオーディオボリュームアクタを追加し、プレイヤーからの距離に応じて変化するRTPCを使い2Dアンビエンスの風レイヤーにフィルタを適用し、風音を弱めることができます。
要約しますと、私は単純にアンビエンスシステムを、さらに動的でインタラクティブにするために何ができるのかを考えます。いったんアイデアが浮かぶと、それを実装する方法はWwiseやUnrealで簡単に見つかるものです。ゲーム中にプレイヤーが行う操作やアクションにより、わずかな程度であれ、アンビエンスに影響する可能性のあるものはありますか?例えばプレイヤーが懐中電灯を洞窟の暗闇の中で上向きに照らした際、コウモリが飛び立つサウンドエフェクトを追加してはどうでしょう。嵐が迫ってくる時は風レベルを一時的に減衰させ、「嵐の前の静けさ」を表現することができます。このようなダイナミックなアンビエンスを活用して第4の壁を破るゲームさえあります。例えば『Black & White』ではゲームがあなたのコンピュータを密かにスキャンしてファーストネームを見つけ出し、もしもあなたが真夜中にゲームをプレイしている場合は、ゲームプレイのバックグランドにおいてあなたの本名を不気味な声でささやくのです。これを考えた人には脱帽です!
ステップ3:ルールを曲げる
ここまでWwiseの実装トリックでアンビエンスに多くのディテールを追加しましたし、それはそれでよいですが、そもそもメディアにサウンドを入れる目的は物語の表現を助けることです。よりリアルにするためにアンビエンスのディテールにこだわり、sweetenerを追加しましたが、全く同じコツや技を使い、逆に現実を曲げて感情を呼び覚ますこともできます。
例えば私たちはこれまで鳥と動物に多くの時間を費やし、適切な時期と時間に、地理的に正しい鳥類を含む、複数の野生動物エミッターから成る強固な基盤を築いてきました。ところが野生動物、特に鳥の鳴き声はプレイヤーに特別な感情を引き出すことがあり、それを私たちの目的に利用することができます。一般的な鳥のさえずりは明るく穏やかで心を落ち着かせる音だと考えられる一方、カラスなどしばしば死を連想させる特定の鳥類もいます。鳥の中でもハシグロアビの鳴き方は一般的に悲しげで不気味なものを連想させ、フクロウは瞬時に夜を伝えることのがきる、効果的ですが使い古された方法です。鳥の種類によって反射的に感じる気持ちが異なり、さまざまな感情があります。そこでプレイヤーに無意識のうちに感じてほしい重要な感情的反応がある場合、それを引き出す特定の鳥の鳴き声がないかを考えてみてください。これまで述べたWwiseのテクニックを使い、さらに優れた演出へと引き上げることができます。プレイヤーが夏の森の中を鳥のさえずりに包まれながら楽しく歩いていたところ、ストーリーが急展開し、邪悪で恐ろしいモンスターと戦ったり逃げたりすることになったとします。即、鳥の鳴き声を消してください!プレイヤーがおぞましい何者かと戦っている時に、美しいコマドリが一斉にさえずっているとすると、少し奇妙です。急に変化させることができ、最初に発砲のあった瞬間に鳥たちが即座に、そして耳に明らかに聞こえるかたちで飛び立ってもよいですし、鳥たちが付近に危険が潜んでいることを気づくにつれ、音をゆっくりとフェードアウトさせるのもよいです(鳥がプレイヤーよりも先に気づき、何かが迫ることを示唆してもよいと思います)。プレイヤーが遠くに死を意味するもの、例えば最後のビッグボスの邪悪な隠れ家を見つけ時など、カラスやハゲタカなどの不吉な鳴き声を何気なく入れることができます。これはザ・シンプソンズで使われた有名なストーリーテリングの手法です。ホーマー・シンプソンが家族を養うために働く職場である原子力発電所が登場するたびにカラスの鳴き声が聞こえ、ボーリング場で働くことを夢見た彼の落胆を表します。現実とかけ離れてもよいところです。アンビエンスシステムにプレイヤーの感情を、無意識のうちに影響するようなやりとりを追加することであり、ゲームがより魅力的で面白いものとなり、結果的に楽しさが増します。
図5:MonsterProximityという新しいRTPCに基づき、‘Bird Finch’ Random ContainerをゆっくりとミュートするRTPCを追加。危険が近づくと、いつもは楽しそうに鳴いているスズメも次第に静かに。
野生動物も同じです。キツネの鳴き声の恐ろしさを体感したことはありますか?私は深夜に家路を歩く時、彼らの鳴き声を聞くと身震いします。そこで特に怖いレベルで遠くから聞こえる背筋が凍るようなキツネの鳴き声をトリガーしてはどうでしょう?時折、蜘蛛、小動物、奇妙な動物の這ってゆく音や鳴き声など、2Dや3Dのランダムなスポット音を追加することにより、ホラーゲームのプレイヤーは予期せぬ危険に囲まれていると錯覚し、ハラハラします。かわいらしいウサギや小鳥や猫などの動物の声をトリガーしても効果的ではありません。一方でブンブン飛ぶハエ、小走りする蜘蛛、ほかの動物の威嚇的な鳴き声などを発生させる場合はとても不気味です(注:動物の怖い声を録音するために、わざと動物を怖がらせるようなことはしないように!)。
アンビエンスを利用して、プレーヤーを無意識のうちに誘導することもできます。ゲームアーティストが独創的な照明テクニックを使い、プレイヤーに次に行くべき場所を示したり、隠された秘密に注意を向けさせたりするのと同じように、アンビエンスで同じ効果を得ることができます。個人的には控え目なドローン音やルームトーンのハイブリッドをブレンドし、プレイヤーが地下室のような怖い場所ですすめばすすむほど、だんだん不気味で不安になるように入れることが好きです。必ずしもアンビエントドローンで行う必要はありません。オーディオボリュームアクタを利用し、アンビエンスをダイナミックに曲げてかたちづくることにより、プレイヤーが特定のエリアに近づくにつれ、さまざまな感情を引き出す各種レイヤーを強調したり、ミュートしたりできます。例えば洞窟の中をゆっくりとすすんでゆくと、最後に危険が待ち構えているような場合、音の要素である水滴、虫の動き、低いうなり音などを強調する一方、風切り音などを削除し、深入りして慣れ親しんだ安全な場所から離れていくことを示唆することができます。3Dスポットでレベル内の秘密の場所にプレイヤーを導くこともできます。例えば『The Quarry』において収集可能なタロットカードの近くに必ずカラスの鳴き声を配置しましたが、タロットカードは幽霊のような存在のElizaがレベル内に配置したものであり、彼女は小屋の中でカラスを飼いならしています。
最後に、アンビエンスsweetenerを個別に手作業で配置することにより、複雑なアンビエンスシステムを完成させた後に、最後の飾り付けを加えることができます。100万個のオーディオソースやインタラクティブな変数値を揃えたとしても、求められる感情的な印象を達成するために、どうしても特別な注意が必要となるストーリーの流れやカメラショットがあります。オーディオポストのヒントを参考に、重要なストーリーの展開ポイント用にワンショットのアンビエンスsweetenerを作成して導入することは、ストーリーテリングを強化するシンプルで効果的な方法です。プレイヤーがはじめて不気味な呪われた屋敷に入る時、屋内をこだまする風の音をトリガーすると、プレイヤーはすぐにここが不気味で荒れ果てた場所であると察知し、同時に秘密が隠されている可能性が伝わります。またカメラがゆっくりと回り、フレーム外にあったものを明かす場合、その時にうまく配置されたsweetenerを追加することにより、何かが明らかになることをプレイヤーに伝えやすくします。例えば遠くに不吉な塔が見えるゆっくりと展開する映像に、金属のきしむ音、不気味なささやき声、前述の野生動物の鳴き声などを組み合わせることができます。屋根の大きな穴を見せるカメラの動きに建物の基礎を揺らすような一瞬の強風を合わせた場合、全体的に崩壊しそうな危険が感じられます。プレイヤーに音源が見えた時に、はじめてこのようなアンビエントサウンドを明らかにすることにより、プレイヤーは映像と音を強く結びつけることができます。「あの遠くに見える塔は怖くて気を付けるべきだ」という結びつきや、「この建物は明らかに古く、危険なほど不安定だ」という結びつきなどです。
まとめ
私からは以上です。長い間アンビエンスについて話してきましたが、これは一部のオーディオデザイナーがゲームのアンビエンスでやっていることと比較すると、ほんのさわりでしかないと思っています。このブログをご覧いただき、みなさんがクールなアンビエントの新たなアイデアを探求し実験てみたい気持ちになり、新アイデア用の時間をゲーム予算から捻出する交渉に成功して、それらのアイデアを実現できることを願っています!ぜひあなたがセットアップした、あるいは耳にした、面白いアンビエンスシステムについて教えてください。さもなければ、私はまたコオロギのレイヤーをトリガーすることになるでしょう。
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