たった12日間で完成させる、WwiseとUnityを使ったインタラクティブフォーリーのデザイン

ゲームオーディオ / サウンドデザイン

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これはフォーリーアーティストの夢であり、悪夢かもしれない: ボタン1つで見た目や態度やつくりを無限に更新できるキャラクターを、歩かせること。

夢とみようが悪夢とみようが、私は実際に、3億個以上の組み合わせが可能なベンジャミン・ベドレン(Benjamin Vedrenne)の Random Access Character プロジェクトに携わりました。私に与えられたのはたった12日間で、クリエイター自身からは、たぶんその期間中は手伝えないだろうというメールが届きました。このブログでWwiseとUnityを使った方法を紹介し、ゲーム向けフォーリーの問題に関心を持つ人たちに少しでも有益な情報を提供したいと思います。この内容が最終的でも絶対的でもないので、私が具体的に紹介した設計をさらに発展させるような提案があれば、自由に投稿してください。

 

 

 

1日目、2日目: 制限ある無限を理解しようとしながら、計算をして、ウォーターフォールを描く。

私は最初から、 Random Access Character を偶発的な小話生成の場と解釈しました。生成するたびにユニークなキャラクターがユニークな状況で出現するのですが、それは森から逃げる木おとこであったり、雨の中をスキップするベリーの女の子であったり、スタジアムの入り口をふらふら歩く酔っ払ったコーラ瓶の若者であったり、巣から這い出てくる卵たちであったり、きりがありません。

まず、必要なレコーディングアセットの数を最低限まで減らしながら、表現力やバラエティを最大限に維持する方法を検討することが、最初の重要課題でした。Unityの生成スクリプトは新たな生成を起動するたびに、歩き方のアニメーション50種類から1つを選び、キャラクターを組み立てるための52個の独立したオブジェクトから、1個~4個の異なるオブジェクトを選びます。次に、選択されたオブジェクトをランダムに縮小または拡大します。数学者の友達によると、複製されるキャラクターや、カラーとテキスチャの違いなどを考慮しなくても、生成できるキャラクターは 331,651,200通りにもおよぶとのことです。

自分でゲームをしばらくプレイしてから、大体のアニメーションをカバーするには何種類のフットステップタイプが必要かをメモしました。私が確保することにしたフットステップのセットは、ソフト、ノーマル、ヘビー、短い引きずり、長い引きずり、そしてつま先歩きでした。当初は酔っ払いのフットステップも計画したのですが、それは前述のフットステップを混ぜて不均等に並べればいいだけだと、すぐに気づきました。でも、フットステップのアセットだけでは足りません。体が揺れる様子を表す音も必要でした。最初は異なる歩みの速度に合わせやすいように、3つの異なるループを計画していましたが、追加するだけの意味があるループをつくるのに時間がかかりすぎることが最終的に分かりました。そこで減らして、1つのオブジェクトに対し、ループを1つにしました。

そうすると、ほかにも疑問がいくつか出てきました。例えば、床の種類を分けるべきか?左右の足音を変えるべきか?足のつま先とかかとを分けるべきか?そこまで気になりだすと、プロジェクトを把握できたと感じ、全体をもっと難しくしてしまうことがよくあります。これらの疑問点は、タイトなスケジュールでの実現性や、プロジェクトの本来の性質や目的と照らし合わせながら、考えなければなりません。RACは見た目よりもずっとシンプルでした。最終的なデザインをシンプルにすればその分、微調整のために使える時間が増えます。

今の計算だと、こうなります:

オブジェクト52個 × フットステップ6種類 × バリエーション7種ずつ = 固有のフットステップ 2,184個

+

オブジェクト52個 × 異なるスピードのプレゼンスループ1つ = ループ数52個

= 必要アセット数2,236個。

この数値をさらに減らすためにWwiseのPitchパラメータで遊ぶだけで、一部のオブジェクトは充分に表現できることが分かりました。例えば小さいプラスチックの箱のレコーディングを使い、Wwiseの階層をコピーしてピッチを下げるだけで、共鳴する周波数がもっと低い大きいプラスチックの箱にもなります。結局、レコーディングが必要なのは35個の固有のオブジェクトだと判断し、最終的なアセット数は1,560個としました。

次にWwiseの階層案を紙に書きだしながら、Unityへのつなげ方を考えました。以下の階層にやっと決め、Unityは以下のようにEventのstring nameをコンカチネートするだけにしました:

アニメーションにタグ付けされたフットステップは、フットステップの種類によって、それぞれ特定のファンクションをトリガーします。次に今のキャラクター生成のためにランダムにピックアップされたオブジェクトたちの名前を、集めます。

 

Script1

Script2WwiseとUnityのやりとりに対応するコードをの抜粋

2日目の終わり: ゲームのメインスクリプトに必要なラインを追加し、ボンゴのサンプル音を使ってシステムをテストしたところ、成功!

 

3、4、5、6日目: プロップをそろえ、パリで即席のフォーリーステージを準備し、卵を割る

足音     の商用ライブラリは、卵だとかラズベリーだとかガチャガチャなるガラスのソーダ瓶が歩く音の入ったものは多くなく、役に立ちませんでした。私は全くのインタラクティブ・マゾ気質から、ゲームの動画や写真なしでフォーリーを演出することに決めました。Unityを使って全体がどのように動くのかを見たいと思いました。     。そして、フォーリーのアセットがリアルタイムで統合され再生されるのを初めて聞いたときの、あの喜びといったら!

FoleyProp_day13日目 : フォーリープロップの最初のセット

レコーディングは、ハイパーカーディオイドと無指向性の同位相のマイクロフォンの、ダブルモノセットアップで行いました。それからまるまる4日間、必死に振ったり、ぶつけたり、葉っぱとこすったり、ビールの空き缶や、ダンベルや、果物や、木の枝などを手にしたりしました。

一日のうち半分はレコーディングに費やし、残り半分はReaperで編集作業をしました。

 

Reaper Sessionフォーリー編集はすべてReaperで

 

7、8、9、10日目 : オーディオデザイナーのルーチン作業と、シンプルでダイナミックなテクニックによる表現力の向上

キャラクターたちはUnityで少しずつ生命を得て、新しいプロップが入るたびに独特の表現とソニックフットプリントが加わりました。

 

音全体に生き生きとしたリズム感を出すために、Wwiseで背骨の動きによるダッキングコンプレッションをバスに多少加えたので、踏み出すたびに、ボディーサウンドのループ音が少しだけ小さくなるようにしました。また、背骨の動きの音を非常に短い時間だけ、大きくしたり小さくしたりする特別なイベントを、一部のアニメーションに適用しました(例えばキャラクターが酔っ払って転びそうになるアニメーションなど)。さらにほかのアニメーションでは、足とボディの音のボリュームを細かく調整し、そのキャラクター独自の歩幅にうまく合うようにしました。

 

11、12日目: アンビエンス、タイムゾーン、典型的なプレイヤーのプレイ時間

11日目に、コンテンツを完璧に近い状態にすることができました。あとはゲームの偶発的なナレーション性をさらに強化する、アンビエンスが必要でした。

プレイヤーがどれだけ長くこのエクスペリエンスをプレイするかが、アンビエンスのコンテンツやデザインに直接影響するので、ゲーム全体で考慮する必要があります。どれくらいの長さが良いのか?いくつ必要か?プレイヤーが生成するであろう様々なキャラクター同士で、どうやってつながりを持たせるのか?

ゲームのアンビエンスは、あまり目立たないようにデザインされるのが普通です。そうでなければ反復性(WAVファイルのループというミクロレベル、またはシステムが有限であるというマクロレベルの反復)を露出するリスクがあるからです。そこでバックグランド、またはその最も単純な形式であるエアートラックは、一般的にフラットなコンテンツを提供し、ファイルの特異性などはほとんど編集で消されます。平均的なプレイヤーはRACを何時間もプレイすることはないので、私は最初の数分で躊躇なくすべてのコンテンツを見せることができ、ストーリーの表現をもっと面白くするために、目立つイベント(フランスの駅の構内放送の声など)を入れることもできました。

同時に並行して展開される複数のストーリーをつくることが目的で、ジム・ジャームッシュの映画 ナイト・オン・ザ・プラネット で、異なるタイムゾーンにいる5人の夜勤タクシードライバーの話に少し似ています。アンビエンスはランダムなタイミングで聞こえてきて、もしすでに聞いたアンビエンスに戻るのであれば、経過した時間を厳密に、守り再生が再開されます。それがRACのマジカルな雰囲気とリアルな時間感覚を引き起こし、まるで何かが起きたおかげで、キャラクターたちはそれぞれ異なる場所で、同じ瞬間に一斉に生命を得たかのようになりました。

***

実に張り詰めた12日間でしたが、今日のテクノロジーを使いこなすことで達成できる仕事量に今でも驚きます。このプロジェクトは、フォーリーという音に関する最も原始的なアクティビティの1つと、最新のインタラクティブツールを融合させました。読者の皆さんも、 RAC の場違いな動物寓話を私と同じくらい楽しんでくれ、今後もフォーリー分野を発展させるインタラクティブなプロジェクトが増えることを希望します。

Random Access Character はもともと、ベンジャミン・ベドレンがProcJam 2017で作成しました。
また、2018年にベルリンのPictoplasmaでインタラクティブインスタレーションとして発表されました。
ベンのウェブサイトに、詳しい情報やほかのプロジェクトがあります (http://glkitty.com/) 。

 

ピエール=マリ・ブリント(Pierre-Marie Blind)

サウンドデザイナー

Ubisoft Blue Byte

ピエール=マリ・ブリント(Pierre-Marie Blind)

サウンドデザイナー

Ubisoft Blue Byte

ドイツのデュッセルドルフ在住、Ubisoft Blue Byteに勤務 。ゲーム、VRプロジェクト、演劇、コンテンポラリーアートなど各分野に関わり、2015年よりエレクトロアコースティック・コンポーザーのセシル・ル・プラド(Cécile Le Prado)のアシスタントも務める。クラシック音楽とインダストリアルサウンドデザイン学の両方の経験が、サウンドに対する彼の根本的な考え方に影響している。そよ風が少しでも吹けば、新しい風のテキスチャーを求めて屋外に出て、折れた木の枝を振りながら、フォーリーとフィールドレコーディングに対する絶え間ない欲求を満たそうと散策する。

 @PierreM_Blind

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